なぜ領収書を公開しない?――〝身内〟からも非難される維新案

ライター
松田 明

身内から「バカ」と言われた立憲

 参議院で審議が続いている政治資金規正法改正案。
 自民党の一部派閥議員による政治資金収支報告書不記載に端を発したこの問題。自民党だけでなく多くの野党でも横行していた、領収書なしの「使いきり」で党から議員に渡される政策活動費など、国民感覚から大きくズレた〝政治とカネ〟が浮き彫りになった。
 政治が国民からの信頼を失えば、政策遂行ができなくなる。失われた信頼を取り戻す最重要課題は「再発防止」、つまりこのような事案を起こさせない制度作りだ。
 この問題にもっとも早く反応したのは与党・公明党だった。公明党は1966年に共和グループから自民党と社会党への献金を暴露し、衆議院解散(黒い霧解散)に追い込むなど、結党当初から〝政治とカネ〟の問題にはどの政党よりも厳しく追及してきた歴史がある。
 今回も、1月半ばには各党に先がけて「透明性の強化」「罰則の強化」など具体案を盛り込んだ「公明党政治改革ビジョン」を発表。4月には事実上の党独自案となる「政治資金規正法改正案の要綱」を発表して、同じ与党である自民党にも独自案の提出を迫った(公明党「公明党政治改革ビジョン」2024年1月18日発表)。
 一方、残念だったのは立憲民主党をはじめとする主要野党が、最初からこの問題を「政局化」しようと図り、実現する見込みのない提案を並べてパフォーマンス合戦に終始したことだった。 続きを読む

書評『ジャーナリストの条件 時代を超える10の原則』

ジャーナリスト
柳原滋雄

ジャーナリストという「生き物」

 ジャーナリズムの基本原則を10項目に分けて概説するアメリカ・ジャーナリズムの基本書ともいうべき手引書『ジャーナリストの条件 時代を超える10の原則』が4月、新潮社から発刊された。世界で25以上の言語に翻訳されているという。
 1997年に25人のジャーナリストが集まって議論を開始、20回を超える公開討論で300人を超すジャーナリストたちが意見を述べた。大学研究者のチームと連携しながら2001年に第1版を発刊。さらに2006年、2014年、2021年と定期的に改訂版が出された。本書は第4版となる2021年版の翻訳となる。
 いまやSNSを通じて市民一人ひとりが〝発信者〟となる時代。一方でフェイク・ニュースも氾濫し、民主主義の価値を問われている。その中にあって、民主主義の〝車の両輪〟といえるジャーナリズムのあり方を問い直す意義は大きい。
 本書の第1章は総論だ。10項目の内容を端的に紹介する。残る2章から11章(最終)が10項目のそれぞれの説明にあたる。
 最初の第2章で「ジャーナリズムの目的」を探究。そこでは「ジャーナリズムの第1の責務は真実である」と、主張はシンプルで明快だ。
 ジャーナリストは「真実」を求めて取材活動や調査をする職業だ。真実を知るための「必須の手順」として「事実の確認」を行っている。言われてみれば当たり前のことに聞こえるかもしれない。 続きを読む

書評『動物のひみつ』――動物の生態を学び、人間への理解を深める

ライター
小林芳雄

「社会的動物」は人間以外にも存在する

 古代ギリシャの哲人アリストテレスは、人間と他の動物を隔てる特徴は社会生活にあると考え、「人間は社会的動物である」と定義した。しかし動物の研究が進むにしたがい、他の動物も社会的であることが分かってくる。特にこの半世紀は観測技術が向上し、生態の解明が急速に進んだ。さらに動物たちは言葉はもたないが、声や分泌物、身振りなどを使い、複雑なコミュニケーションを行っていることも明らかになった。
 本書『動物のひみつ』は社会的動物研究の第一人者が、近年の研究成果を一般の読者に分かりやすく紹介したものである。
 本文だけで約700ページあるが、明快でユーモアに溢れた筆致で綴られており、読む人を飽きさせない。

 このような協力行動は、「社会的動物」の特徴の一つだ。(中略)最も基礎的なレベルの協力は、「社会的緩衝作用」と呼ばれている。
 これは、オキアミから人間にいたるまで、あらゆる社会的動物が、ただ同種の動物のそばにいて関わり合うことだけで確実に生じる利益のことだ。社会的動物は、単に集団でいるだけで、集団によって支えられるのである。(本書7ページ)

 動物はなぜ社会をつくるだろうか。著者は、単独で成しえない多くのことが可能になるからだと考える。簡単にいえば、その方が〝得〟ということだ。
 多くの動物は、集団を作ることによって危険から身を守る。その規模が大きいほど、捕食者から逃げられる確率は格段に上がるという。 続きを読む

立憲民主党はまず法令を守れ――他党に厳しく自分にはゆるゆる

ライター
松田 明

110枚の違法立て看板を出した犯人

 茨城県守谷市の発信したX(旧ツイッター)が思わぬ反響を呼んだ。
 同市内の街路樹に違法に設置された立て看板。市の職員と思われる男性が、工具を使って街路樹に縛り付けられたワイヤーを切断し、違法看板を撤去している写真と共に、こう投稿されていた。

本日、都市整備部ではふれあい道路などの幹線道路に設置されている違法な立看板を、市内全域で一斉撤去しました。
道路上の街路樹や電柱などに無許可で立て看板を設置することは違法ですので、
絶対におやめください!!(6月5日の同市公式アカウントのポスト

 許可を得ずに電柱や街路樹などの公共物に看板やポスターが掲示されている光景を見た人もいるだろう。屋外広告物条例などに違反する、明らかな違法行為だ。
 この守谷市のポストに注目が集まったのは、街路樹に縛り付けたワイヤーを切って、職員が取り外そうとしている看板の文字だった。写真は、立て看板の表が見えないようにとの配慮で、あえて裏側から撮影されていた。
 ところがよく見ると、看板の一部に「立憲民主党幹事長」と読める文字が確認できたのである。
 そう。この〝違法看板〟を設置したのは、立憲民主党だった。6月6日に岡田幹事長が同市内で街頭演説することを告知する看板を、立憲民主党は守谷市内だけで110枚、違法に設置。しかも市から再三にわたって撤去を求められながら無視して放置していたというのだ。 続きを読む

本の楽園 第187回 怖ろしい一作の短篇小説

作家
村上政彦

 子供のころから本が好きで、やがて書くことを憶えて、人生のなかばをちょっとだけ過ぎたいままで、読むことと書くことを続けてきた。高校をふたつも中退して(結局、大学には進んだが)、長くバイト暮らしで、何をやっても長続きしないといわれたが、読むこと・書くことは、生きることだったから続いたのだろう。
 いまも毎月かなりの額を本代に使う。妻からは、いくらまで、と決められているが、つい、デッドラインを超えてしまうことが、しばしばある。では、買った本を全部読んでいるかというと、けっこうの分量が積読になっている。
 なかなか読めない本もあるけれど、わざとゆっくり読む本もある。僕は下戸だが、酒好きがいい酒を愉しみながら少しずつ呑むのは、こんな感じなのだろうな、とおもう。その一冊に、『橙が実るまで』(文・田尻久子/写真・川内倫子)がある。
 エッセイ本なので、どこから読んでもいい。目次からおもしろそうな一篇を選んで、じっくり読む。文章と写真がセットになっているから、写真もじっくり眺める。それで満足して、表紙を閉じる。続きは、また。
 田尻久子は、熊本にある橙書店のオーナーだ。ここからは『アルテリ』という文芸誌が出版されていて、僕は定期購読者ではないけれど、ときどき買っている。雑誌が届いて、包装を解くと、いつも手書きの礼状が添えられている。オーナーの自筆だ。丁寧な仕事である。 続きを読む