小学生のころだったか、『時には母のない子のように』という歌が流行った。哀愁を帯びたメロディーと歌詞が好きで、よく口ずさんだ覚えがある。作詞をしたのが寺山修司だと知ったのは、小説家としてデビューしてからだった。
僕が小説家の仮免許を取ったのは29歳のときだ。それから四苦八苦しながら小説を書き続けてきたが、無からの創造は大変でしょう、と言われることがある。けれど、それはない。
小説家は誰しも、先行作家の小説を読んで、自分の小説を書き始める。日本でふたりめのノーベル文学賞をもらった大江健三郎はサルトルの影響を受けたといっているし、僕の好きな小説家の中上健次は、大江健三郎の影響から逃れるために苦心をした。
新しいアイデアとは、すでにあるアイデアの新しい組み合わせ、という。新しい小説も同じだ。先行作家の小説を別の先行作家の小説と組み合わせて、よく咀嚼して血肉として、そこに自分らしさを加える。そうすることで新しい小説は誕生する。
永井荷風が、小説家は、思索と読書の二つを実践しなければ、詩嚢がすぐに涸れるといっている。どのような小説を読むか、それをどれだけ深く摂取できるか――これは小説を書き続ける秘訣のひとつだろう。 続きを読む
