期待値の低い「野党合流」――急ぐ理由は政党交付金

ライター
松田 明

「亥年は鬼門」のジンクス

 12年に一度、統一地方選挙と参議院選挙が重なる「亥年」の2019年が、まもなく終わる。
 亥年の選挙が波乱含みで、とりわけ自民党にとって鬼門になると言われ出したのは1980年代後半だ。
 実際、1995年の参院選で自民党は得票率で新進党の後塵を拝し、2007年は当時の民主党に風が吹いて、第1次安倍内閣が退陣するきっかけともなった。
 その意味では、2019年も危うい1年だった。
 4月におこなわれた衆議院の2つの補欠選挙では、共に自民党候補が敗れた。
 玉城デニー氏の失職による沖縄3区と、日本維新の会が強い大阪12区という〝特殊事情〟はあったにせよ、2012年以来、国政選挙の補選で負けなしだった自民党に初めて黒星が付いた。
 さらに7月の参院選は、結果として与党が改選議席の過半数を上回る圧勝となったが、「憲法改正」を前面に掲げて戦った自民党は9議席を減らしている。
 なによりも、この1年は自民党議員の閣僚や副大臣の失言、スキャンダルによる辞任が相次いだ。
 また、秋の国会では首相主催の「桜を見る会」の不透明な開催基準が問題視され、政府は来年度の開催を中止。抜本的な基準の見直しを余儀なくされた。
 安倍首相が歴代最長の在位日数を更新する長期政権のなかで、国民の目には政府・自民党の「傲り」と「緩み」が強く印象づけられたと言わざるを得ない。

負け続けた日本共産党

 一方で、これほど政府・自民党が黒星を重ねたにもかかわらず、対する野党への支持や期待はいっこうに伸びない1年であった。
 統一地方選挙でも参議院議員選挙でも与党が圧勝し、立憲民主党、国民民主党、日本共産党、社民党といった既成の主要野党は伸び悩んだ。
 とくに退潮が際立ったのが日本共産党である。
 4月の衆議院補選(大阪12区)では現職の衆議院議員を退職させて、無所属の〝野党統一候補〟として擁立したが、過去に同党が大阪12区で獲ってきた票数にも大きく届かず落選。供託金没収の惨敗を喫している。
 統一地方選挙でも、都道府県議、東京区議、一般市議、町村議のすべての選挙で大敗。愛知県議会ではついに党所属の県議がゼロになった。
 850万票の獲得目標を公言して臨んだ参院選も、ふたを開けてみれば3年前の601万票を大きく割り込む448万票にとどまり1議席減。敗北につぐ敗北の1年となった。
 日本共産党は、常に人々の不安や憎悪を煽り立て、社会を分断することで党勢を維持しようとしてきた。
 ものごとを善悪二元論に単純化し、世の中が〝巨悪〟に支配されていると訴え、自分たちは善良な〝市民〟の側だと位置づける。ある種、絵に描いたようなポピュリズムの典型だ。
 ところが皮肉なことに、左右を問わずより過激なポピュリズム政党が台頭してきたことで、今や人々の「不満票」の受け皿としての役割さえ危うくなってきた。

期待も信頼もされない

 参院選で立憲民主党などの野党があれほど「年金不安」「消費増税反対」と大騒ぎしたにもかかわらず、投票率は50%を割る低さにとどまり、与党が圧勝した。

 増税に反対なら、代わりの財源についても、野党各党が一致することが求められる。
 野党は政権批判を繰り広げるだけで、具体的な政策の代案を示さないから議論が噛み合わない。有権者がそんな「無風選挙」にしらけた結果、空前の低投票率に終わったのだ。(飯尾潤・政策研究大学院教授/『潮』2019年9月号

 立憲民主党は議席こそわずかに8議席増やせたものの、結党した2017年総選挙で獲った1108万票から300万票以上も得票を減らした。
 年の後半は、共産党が口火を切った「桜を見る会」をめぐる政府批判に便乗。官僚を呼びつけたり、テレビカメラを引き連れてみんなでシュレッダーを見に行くといったパフォーマンスを繰り返した。
 実際、世論調査では「安倍首相の説明に納得しない」という声が7割を超えた。それでも立憲民主党はじめ、野党の支持率はまったく伸びなかったのである。
 どれほど今の野党が国民から期待も信頼もされていないかを物語って余りある。

過半数が「期待しない」

 その支持率低迷の続く立憲民主党、国民民主党などが、ここにきて「年内の合流」を急ぎはじめた。
 枝野代表らが警戒しているのは、消費税をめぐって意見が一致しない、れいわ新選組の動きだろう。
 そして、やたら「年内」にこだわるのはカネの問題があるからだ。

 政党交付金は1月1日現在の所属国会議員数と直近の衆院選、過去2回の参院選の得票率に応じて配分額が決まる。立民のメンバーは旧民進党を離党して新党を立ち上げた形式を取ったため、旧民進党の枠組みを事実上引き継いだ国民と交付金の額で差をつけられたのだ。国民には、旧民進党が貯めた預金も残っているとされる。
 立民が国民などに年内の合流を呼びかける理由について、立民関係者は「国民との合流を一気に進め、資金面で一息つきたいというのが幹部の本音だろう」と語る。(『産経新聞』12月13日

「年内に」という声が出ることにはやはり政党交付金が影響しています。
 現在は立憲にも国民にも所属していない旧民主党系議員の動向が関係しています。無所属議員が、たとえば立憲会派に所属していても、それはあくまで国会内の話なので、政党交付金の算定基準となる議員数には数えられません。
 ところが、立憲と国民が合流した場合はこれらの無所属議員のかなりの部分が新党に参加するとみられています。(『毎日新聞』政治プレミア12月16日

 年内に合流して、これらの無所属議員を引き入れれば、より多くの政党交付金を受け取ることができるという胸算用なのだろう。
 読売新聞社が12月13日~15日に実施した世論調査では、立憲民主党と国民民主党の合流に「期待しない」が55%に達し、「期待する」は30%にとどまった。
 産経新聞社とFNNの合同世論調査でも、合流した政党に政権を任せたいと思うかという問いには66.3%が「思わない」と回答。「任せたいと思う」はわずか15.2%しかなかった。
 もともと、旧民進党が仲間割れした、怨讐を抱えた政党同士であり、憲法や安全保障、原発などの政策も異なる。
 それが今また「大きなかたまりを作る」などという聞こえのいい身勝手な口実で、これまで掲げた政策も理念もうやむやに、元の民進党そのものの復活を図ろうというのだ。
 国民の目が冷ややかなのは当然であろう。

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