アジアに広がる創価の哲学(中)――異なる価値観への尊敬と共生

ライター
青山樹人

アジア初訪問での着想

 池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長が、現在の東洋哲学研究所や民主音楽協会の構想を思い描いたのは、アジア諸国を初訪問した1961年2月のことである。
 前年5月に32歳の若さで創価学会の第3代会長に就任して8ヵ月余。
1月下旬に日本を発ち、香港、セイロン(現スリランカ)、インドを訪れた会長の一行は、ビルマ(現ミャンマー)の首都であったラングーン(現ヤンゴン)に到着した。
 ビルマは、会長の長兄が戦死した場所でもある。
 小説『新・人間革命』第3巻には、こう記されている(小説では会長の名が山本伸一として描かれる)。

 ラングーンの街を巡りながら、伸一の脳裏に、ある考えが兆し始めた。それは思索を重ねるうちに、次第に一つの明確な像を結び始めていった。

 2月9日、タイの首都バンコクに入った会長は、同行の幹部に次のように語った。

 私は、この旅の間中、東洋の広宣流布を、どうやって進めるべきか、考えてきました。アジアには上座部の仏教もあれば、ヒンズー教やイスラム教もある。また、そうした宗教を土壌として、さまざまな民族の文化、伝統が形成されている。
 牧口先生は「認識しないで評価してはいけない」と言われているが、現在の日本では、それらの宗教や文化に対して、ほとんど正しい認識がなされていない。
 そこで、まずアジアの宗教、文化、民族性について研究し、正しく認識していくことが、アジアを理解していくうえでも大切なことではないかと思う。

 真実の世界平和の基盤となるのは、民族や国家、イデオロギーを超えた、人間と人間の交流による相互理解です。そのために必要なのは、芸術、文化の交流ではないだろうか。

〝その国の良き市民であれ〟

 アジア各地の精神風土の多様さに目を配り、敬意を払い、相互理解を深めていくこと。池田会長のこの真摯な構想は、東洋哲学研究所、民主音楽協会の創立へと結実していく。
 1962年に創立され、65年に財団設立、2010年には公益財団法人となった東洋哲学研究所は、今日では中国社会科学院世界宗教研究所、ロシア科学アカデミー東洋古文書研究所、モントリオール大学東アジア研究所、インド国立ガンジー博物館、ブラジル哲学アカデミー、オックスフォード仏教学研究所、マラヤ大学文明間対話センターなど、世界の名だたる学術機関と学術交流協定を締結している。
 また、1963年に創立された民主音楽協会は全国に100万人の会員を擁し、年間約800の演奏会、また世界の100を超える国々と交流を持つ、日本はもとより世界でも最大級の音楽団体に発展している。
 創価学会のアジア諸国への伝播も、国ごとの社会慣習や精神性を尊重し、〝どこまでもその国の良き市民であれ〟との池田会長の指導のもとに進んできた。
 20世紀後半になってもいたるところで戦火が絶えず、あるいは軍事政権や事実上の戒厳令下に置かれた地域もあった。反日感情の癒えない国もあった。
 多民族が共生する国や地域も多く、今も会合では多言語が飛び交う国も少なくない。
 さまざまな困難があるなかで、各国の会員たちと池田会長は、心を通わせながら平和と安寧を願い、社会からの理解と信頼を勝ち取ってきた。

各国で発展するSGI

 東インド会社の社員であったトーマス・スタンフォード・ラッフルズ卿が、無名の漁村だったシンガポールに上陸したのは1819年1月。
 彼はこの地に理想的な自由貿易港を建設するプランを構想し、今も〝シンガポールの建設者〟として、その名を称えられている。
 その200年の佳節を記念する意義も込めた、シンガポール独立54周年祝賀のナショナルデー・パレードが、2019年8月9日、同国の独立記念広場で開催された。
 ハリマ・ヤコブ大統領、リー・シェンロン首相らも出席した、国家の最重要の行事に、今年も要請を受けてシンガポールSGIのメンバー600人が出演した。
 この式典への出席は25年連続。通算34回目となる。多民族国家シンガポール社会でのSGIに対する評価と信頼を物語るものだ。シンガポールには1993年に創価幼稚園も開園している。
 池田会長がシンガポール建国の父リー・クアンユー初代首相と初めて会見したのは1988年。2度目は、2000年に会長が香港中文大学から名誉社会科学博士号を授与された際、リー氏も同じく名誉博士号受章者として式典に並んだ。
 会長は、マレーシアで今も首相を務めるマハティール・ビン・モハマド氏(通算22年間の首相在任)とも、親交を深めてきた。
 マレー系、中華系、インド系の人々が共存し、イスラム教を「連邦の宗教」と定めているマレーシアでも、SGIの発展は著しい。首都クアラルンプールには、本部機能を有する12階建てのマレーシア総合文化センターがそびえ、13州すべてに合わせて約100の会館がある。
 2016年にはジョホールバルに、SGIアジア教育文化センターが落成。近隣諸国のSGIメンバーの研修にも使用されている。
 世界最多のイスラム教徒を抱えるインドネシアでも、SGIは広がっている。
 池田会長は、イスラム穏健派指導者としても知られる故アブドゥルラフマン・ワヒド大統領と友情を深め、対談集を発刊。
 ワヒド氏亡き後も、2017年に夫人が来日して創価大学で講演をおこなうなど、温かな交流が続いている。
 かつてのフランス植民地からカンボジアを独立させたノロドム・シアヌーク殿下が、ポルポト政権下で北京に亡命した際、最初に会見した外国人は池田会長だった(1975年)。
 その後、カンボジアの民主化に際しては、国連の明石事務次長(当時)の要請を受けて日本の創価学会が28万個のラジオを集めて送り、国連主導の民主化選挙を成功に導いた。
 戦火を乗り越えた社会主義国ベトナムからも、ハノイ国家大学などから名誉学術称号が授与されている。

「アジアに広がる創価の哲学」:
アジアに広がる創価の哲学(上)――発展著しいインド創価学会
アジアに広がる創価の哲学(中)――異なる価値観への尊敬と共生
アジアに広がる創価の哲学(下)――池田会長が結んだ信義の絆

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あおやま・しげと●東京都在住。雑誌や新聞紙への寄稿を中心に、ライターとして活動中。著書に『最新版 宗教はだれのものか 世界広布新時代への飛翔』、『宗教は誰のものか』(ともに鳳書院)など。