2019参院選をふりかえる(下)――ポピュリズムの危うさ

ライター
松田 明

「自分ファースト」の野党

 あれだけ「年金制度」と「消費税」で国民の不安を煽り立てながら、野党は有権者の票を集めることができなかった。
 投票率は過去2番目の低さとなったうえ、共同通信の出口調査では10代から70代以上までの全世代で、与党に投票した人が上回る結果となった。
 2012年の民主党政権下で「税と社会保障の一体改革」をおこなった張本人たちが、今になって声高に年金不安や消費増税反対を叫ぶ無責任な姿を、有権者は冷ややかに見ていたのだろう。
 投票日翌日の日本経済新聞「社説」は「大きな変化を望まなかった参院選」と題して、こう書いている。

 参院選が盛り上がらなかった責任が、与党以上に野党にあることは間違いない。目指す方向の違いから選挙直前に民進党が分裂した2年前の衆院選での敗北はある程度しかたないとしても、その後も再結集するでもなく、新たな政策の旗を打ち立てるでもなく、あまりに無策だった。
 衆参同日選が取り沙汰された通常国会の終盤に内閣不信任決議案を出すかどうかをためらった印象を与えたのが、その象徴である。要するに、「自分の議席ファースト」と思われたわけだ。(『日本経済新聞』7月22日「社説」

 野党が内閣不信任決議案を出すと決めたのは、衆議院の解散がないとわかった国会閉会の前日になってから。
 国民民主党では、国会の真っ最中に国対委員長代行である山井和則衆議院議員が離党届を提出。犬猿の仲である立憲民主党の会派入りを表明していた。ダブル選挙を想定して、まさに〝自分の議席ファースト〟で勝ち馬に飛び移ったのだろう。
 選挙期間中は波風を立てずに「野党共闘」を演じていた国民民主党は、選挙が終わった24日、この山井氏を裏切り者として「除籍(除名)」処分にした。
 野党第一党の立憲民主党が伸びたとはいえ、今回獲得したのは17議席。非改選と合わせても全勢力は32議席。
 14議席を獲得して過去最高の28議席になった公明党と比較しても、とてもではないが政権交代など口にできるような勝ち方ではない。
 2017年の総選挙で大敗北したあと、今回の参院選の目標を「850万票、15%以上」とぶち上げていた日本共産党は、448万票にとどまり改選議席を1減らした。

試されているのはリベラル

 そんな既成野党の失速のなかで議席を増やしたのが日本維新の会であり、れいわ新選組だった。
 前者はいわば〝右からのポピュリズム〟であり、後者は〝左からのポピュリズム〟である。
 ノンフィクションライターの石戸諭氏は、

 日本政治に左派ポピュリズム政党が誕生した。7月21日の参院選は日本においても、欧州で吹き荒れるポピュリズムの風が吹くという結果になった。山本太郎、「れいわ新選組」である。比例での得票率は4.6%に達し、既成野党への不満の受け皿となり、政党要件を満たした。大事な点は彼らの主張は、欧米の左派ポピュリズムそのものということだ。(Yahoo!ニュース「山本太郎、れいわ…左派ポピュリズムの衝撃とどう向き合うか?」

と指摘。
 批評家の東浩紀氏は開票が進む中のツイートで、右であろうと左であろうとポピュリズムはダメだとし、〝れいわ旋風は本質的に危険であり、目のまえのいくつかのよい結果(障害者当選など)に幻惑されて歓迎するとまずいと思っている〟と表明した。
 さらに津田大介氏がナビゲーターをつとめるラジオ番組でも、

東:僕としては、れいわ新選組ってかなりポピュリズム的な政党だと思うんです。つまり、「現実に実現できないかもしれないけど、そうなったらいいな」という口当たりのいい政策を使い、かなり劇場型政治を演出して、一気に浮動層をかき集めることがポピュリズムだとしたら、今回のれいわ新選組はまさにそうであって、次回の衆院選にもこの戦略を持って向かうので、今後このポピュリズムにどのように接していくのかをリベラルは試されているところだと思います。(J-WAVE NEWS「JAM THE WORLD」7月22日

と指摘した。

ポピュリズムの危うさ

 今の日本維新の会の生みの親である橋下徹氏が、かつておおさか維新の会でブームを巻き起こした際、そのポピュリズムの危うさをいち早く批判したのが中島岳志・東工大教授だった。
 その中島氏も毎日新聞で、

 山本さんのやり方は政治学の分析の枠組みでとらえると「ポピュリズム」になります。(『毎日新聞』7月24日

 日本のポピュリズムは維新の橋下徹さんとか自民党の一部とか、右派がずっと担ってきましたが、これにリベラル側が参入したということだと思います。(同)

と言明。そのうえで、山本太郎氏にはイデオロギーへのこだわりがないことを指摘して、

 そこが危うさになる可能性もある。戦前を研究してきた人間からすると、5・15とか2・26事件を起こすような人たちは、基本的には下からの運動なんですよ。(同)

 山本さんも2013年の秋の園遊会で、天皇陛下に直接、手紙を手渡して直訴したことがありました。彼は母子家庭で育ちましたが、雑誌のインタビューで「(天皇は)『父無き子の父』のような存在」と述べていました。こういうマインドは戦前の革新右派に近い。
 血盟団事件(1932年に発生した連続テロ事件)を起こしたような人たちも、茨城県・大洗の農家の子弟などで、エリートではない。れいわも一転して「一君万民」的なものになる可能性があると思います。イデオロギー運動ではなく、ポピュリズムだからです。さまざまな思想とつながるというのがポピュリズムの最大の特徴です。(同)

と、新たなポピュリズムの危険性を懸念した。

維新を当選させた「れいわ」

 れいわ新選組は、公明党と創価学会を批判する候補者をあえて山口那津男代表と同じ東京選挙区から立候補させ、世間に対し山口代表と勝負するというようなアピールをした。
 国政選挙において、特定の宗教団体の信仰に踏み込んで批判し、その変更を要求する主張を公然とする。まさに東氏や中島氏が懸念する「危うさ」である。
 公明党は微動だにせず、山口代表は全体の投票率が大きく下がったにもかかわらず、前回選挙を上回る81万票余で2位当選。
 むしろ、れいわの候補に流れたのは、出口調査によると立憲民主党などの票で、結果として最後の6議席目を維新の新人と争った立民の新人が落選した。
 急ごしらえの左派ポピュリズム政党が単に野党の票を削り、丸山穂高議員の醜聞などが大きな批判を浴びたにもかかわらず、日本維新の会という右派ポピュリズム政党が東京で議席を獲るという皮肉な結果となった。
 以前からポピュリズム路線まっしぐらの日本共産党は、大敗した執行部の責任を追及することもなく、早くもれいわ新選組にラブコールを送っている。
 しかし、れいわ新選組に票を奪われた立憲民主党など既存野党のなかには、憤懣抑えがたい人々も少なくない。エリート意識の高い旧民主党幹部たちが、こうしたポピュリズム政党と手を取るのは難しいだろうし、安易に手を結べば必ずまた不満が爆発するだろう。
 熱狂のなかで史上最多の308議席を獲り、政権の座にまで就いたあの民主党が、なぜあっけなく行き詰まり、国民から見放されて消滅したか。
 つくづく、国民を軽んじ甘く見ている者は、本当はいったい誰なのかと、考えざるを得ない選挙結果であった。

2019参院選をふりかえる(上)(下):
2019参院選をふりかえる(上)――バランスを求めた有権者
2019参院選をふりかえる(下)――ポピュリズムの危うさ

参院選直前チェック①~④:
2019参院選直前チェック①――議員としての資質があるか
2019参院選直前チェック②――「若者政策」各党の温度差
2019参院選直前チェック③――争点は「安定か混乱か」
2019参院選直前チェック④――政治を変える現実策とは

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