2019参院選直前チェック④終――政治を変える現実策とは

ライター
松田 明

バラ色の公約は守られたか

 2009年8月の総選挙で1政党としては戦後最多の308議席を獲得して政権の座に就いた民主党。
 政権交代の実現に喝采し、期待した国民も多かった。
 では、民主党が2009年8月の総選挙で掲げた公約は、政権の座にあった3年4ヵ月のあいだで、どれだけ達成されたのだろうか。
 これについては、当時の民主党自身が馬淵澄夫政調会長代理(当時)の作業チームによって検証し、結果を公表している。

 約160の政策を「実現」「一部実施」「着手」「未着手」の4分類で評価。「実現」は約3割にとどまった。(『日本経済新聞』2012年10月26日

 民主党が政権を獲って実現できた公約は31%にとどまっている。なお、この評価から外交分野は「評価に馴染まない」という理由で外された。
 民主党政権時代、日中関係は〝国交正常化以来で最悪〟という状況に陥り、日米関係はアメリカ側から「漂流」という強い言葉で失望が語られた。
 選挙の際に、あれもやります、これも実現します、と口にするのはたやすい。
 民主党は「最低でも県外」「埋蔵金がある」等々、夢のような話を語って308議席を獲得したが、内政も外交も行き詰まって国民から見切りをつけられた。
 その民主党政権の中枢にいた人たちが、今またバラ色の政策を語りながら「安倍政権を打倒する」と息巻いているのだ。

「政策実現力」がある

 私たちが選挙の際に真に重視すべきなのは、単に「何を言っているか」ではなく、その言ったことを実現する裏付けと実行力があるかどうかなのだ。
 ちなみに現在の政権与党である自民党と公明党の公約がどの程度実現されているか、客観的な調査がある。
「若者と政治をつなぎ、 投票の量と質を向上する」ことを目指して活動してきたNPO法人Mielka(ミエルカ)が、2013年7月の参院選公約について詳細に検証して、この6年間の検証結果を先ごろ公表した。
 これで見ると両党とも「達成」は過半数に達し、とりわけ公明党は8割近くまで「達成」もしくは「着手」にこぎつけているのがわかる。
 たとえば先の第198通常国会で議員立法として成立した食品ロス削減推進法。
 未利用食品を福祉施設や災害被災地などに提供する活動を続けている全国フードバンク推進協議会の米山広明事務局長は、

 超党派で合意形成を進める中で、公明党の役割は本当に大きかった。公明党は「政策実現力」があると言われているが、そのゆえんがよく分かった。心から感謝している。(『公明新聞』5月27日

と述べている。
 安倍政権がこれだけの長期政権を持続できている背景には、有権者に対して約束を果たせている政策実現力がある。

システムを微修正する能力

 かつて昭和の時代には、学生運動が自民党政権というシステムを打倒しようとしてデモと火炎びんの闘争をしたが、民衆の支持を失って挫折した。
 7月3日に発売されるやベストセラーになっている『NEWTYPE ニュータイプの時代』。著者の山口周氏はこうした過去の手法に言及したうえで、こう述べている。

 今の私たちを取り巻いている「システムの大きな問題」を解決するには、システムそのものをリプレースするのではなく、システムそのものを微修正しながら、その中に組み込まれる人間の思考・行動様式を大きく切り替えることが必要だということです。

 平成に入り、先述したように民主党は戦後最多の308という圧倒的な議席数を国民から与えられて政権交代を果たした。
 まさに有権者は「システムそのものをリプレース」しようと試みた。だが、民主党は風頼みで、そもそも政権奪取が目的化していたために、たちまち内部抗争と機能不全に陥ってあっけなく自滅した。
 その後SEALDsなども連日のように国会前でデモをおこなったが、やはり国民の広い支持や共感はまったく得られず、泡のように消えた。
 システムに問題があったとして、それを打倒したり解体して何かを変えようという発想は、山口氏の言葉を借りれば、もはやそれ自体が「オールドタイプ」なのである(立憲民主党や共産党のコアな支持層が全共闘世代というのは、これを物語っている)。
 これに対し、公明党は自民党と連立を組み、忍耐強い合意形成と選挙協力を進めることで、まさに「システムそのものを微修正しながら、その中に組み込まれる人間の思考・行動様式を大きく切り替える」ことを継続してきた。

熊本地震復興と公明党

 その結果、自民党は民主党政権が破綻させた日中関係を完全に修復し、平和安保法制では公明党が出した「新3要件」を受け入れた。消費税率引き上げに際しても財務省の反対を押し切って、公明党の主張した軽減税率の導入を決めた。
 がん対策基本法制定、この10月から始まる3つの教育無償化、未婚のひとり親支援など、今の政権は識者から「社会民主党的」と言われるほど弱者に寄り添うようになってきている。
 まさに公明党との連立によって、自民党の思考と行動様式がシステム内部から微修正され続けているのだ。
 以前も紹介したが、熊本地震の復興に取り組む蒲島郁夫・熊本県知事も、

 熊本地震のときに、もしも自民党の単独政権だったとしたら、私は〝自分のことは自分でやれ〟という新自由主義的な対応に傾く恐れがあったと思っています。(『第三文明』8月号

と述べ、熊本県が求めた負担の最小化と被災地への最大限の配慮、創造的復興という哲学に触れて、

 それらを政府に認めてもらえたのは、ほかでもなく公明党が政権内にいたからでしょう。(同)

と明言している。

公明党を強くすること

 作家の佐藤優氏は次のように指摘する。

 二〇一五年八月の戦後七〇年談話で、安倍首相は満州事変と国際連盟脱退を引き合いに出し、〈進むべき進路を誤り、戦争への道を歩んで行きました〉と明言した。過去の植民地支配を真摯に反省する「平和の党」公明党の強い意向を受けて、安倍首相が戦後五〇年の村山談話(一九九五年八月)よりも進歩的な内容の談話を発表したことの意義を、いま一度考えてみるべきだ。公明党が連立政権に入っていなければ、ここまで進歩的な戦後七〇年談話が発表されることはあり得なかったと思う。(『潮』8月号

 公明党がもし連立政権にいなければ、内政も外交・安全保障もどれほど不安定になっていたか。私のように自民党員でも公明党員でもない外部の目から見ると、公明党が与党にいなかった場合の悪夢のようなシミュレーションが簡単に思い浮かぶ。(同)

 今の日本政治の最大の問題は、野党が本来の野党としての機能を果たせていないことだろう。
 それは「数が足りない」という話ではない。「能力」の問題なのだ。
 政治とは多様な意見と利害の調整であり、合意形成である。今の野党は、どの議員も自分の次の選挙だけを考えて、ひたすら風向きを読み、合従連衡を繰り返すのみ。
 与党を説得する政策も出せず、若い世代や現役世代の多くの有権者からも見放されている。
 政権を倒せと叫んでも、それに代わる現実的な政権構想も政策も示さない。今回の参院選の候補者たちも、次の選挙のときは何党になっているかもわからない人たちだ。
 公明党は昨年3カ月かけて「100万人訪問調査」を実施したように、他党が絶対にマネのできない〝小さな声を聴く力〟つまり〝問題発見の力〟を持っている。
 政治をより良いものに変えていくリアルな道。
 それは、不安を煽り「打倒」を叫ぶオールドタイプの不安定要素を増やすことではなく、「政権内野党」として、システムを微修正する能力に長(た)けた公明党の議席をしっかり伸ばすことだと筆者は思う。

参院選直前チェック①~④:
2019参院選直前チェック①――議員としての資質があるか
2019参院選直前チェック②――「若者政策」各党の温度差
2019参院選直前チェック③――争点は「安定か混乱か」
2019参院選直前チェック④――政治を変える現実策とは

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