主導権と政党交付金
統一地方選挙と参議院選挙が重なる12年に一度の「亥年」。早くも浮足立っているのが、支持率の低迷から抜け出せない野党である。
1月22日には国民民主党の玉木雄一郎代表と自由党の小沢一郎代表が会談し、両党を合流させることで一致。
24日には〝将来的な党の合流〟を前提に衆参で統一会派を結成した。
結党以来、支持率が1パーセント前後のままの国民民主党にとっては、自由党と合流することで参議院会派が27人となり、立憲民主党の25人を抜いて国会運営の主導権を握れる算段があった。
また、自由党にとっては国民民主党が持っている巨額の政党交付金と〝財布〟が一つになるという大きなメリットがある。
合流に動いた背景には、夏の参院選に向けて立憲との選挙協力が難航していることもある。国民内には「与党を利してでも我々を潰すつもりだ」と強い危機感が広がっていた。(朝日新聞WEB版/1月22日)
2012年末の政権交代後、有権者の信頼を回復できないまま低迷していた当時の民主党は、クルクルと代表の首をすげ替え、共産党と歩調を合わせて「野党共闘」し、民進党へと看板を掛け替えたものの支持率はさっぱり上がらず。
党内には執行部への不満と焦燥感だけが募り、2017年9月、衆議院の解散直前に小池・東京都知事が希望の党を設立すると、多くの民進党議員たちが大挙してその船に飛び移った。その際に〝排除〟された者たちが急ごしらえしたのが立憲民主党である。
それだけに、希望の党に移った者たちが旧民進党の残留組と再び合流して結党した国民民主党に対して、立憲民主党側の憎悪と拒否反応は凄まじいものがある。
「大局観のない政党」
今回も、国民民主党の動きに即座に対抗したのが立憲民主党だった。
立憲民主党はすぐさま社民党と参議院議員2名と統一会派を結成。24日には国民民主党の参議院議員・藤田幸久氏が自身のWEB上で、
立憲民主党への入党を申請し、同党会派への入会は24日付で承認頂きました。(1月25日ブログ)
と表明。
これによって参議院会派は立憲が28、国民が26になるかと思われたが、国民民主党は藤田氏の離党を認めず、立憲民主党と非難合戦が続いている。
この野党各党の醜い応酬には、さすがに有権者から冷ややかな視線が注がれている。
リベラルなメディアからも厳しい苦言が出ている。
近い将来の政権交代を訴えていくのであれば、参院選で本格的な与野党対決の構図をつくることが必要だ。しかし、最大野党として選挙協力に汗をかくべき立場にある立憲の枝野幸男代表は、国民民主を蹴落としてでも野党内での優位を確保しようとしているように映る。
これでは安倍政権と対峙する前に野党同士で潰し合っているようなものだ。大局観のない政党に国民の期待が高まるはずがない。(『毎日新聞』1月30日「社説」)
枝野代表の奇妙な弁明
まず国民民主党と自由党との統一会派結成だが、「脱原発」を掲げる自由党に対し、国民民主党は原発容認の電力総連に支えられている。
一方の立憲民主党と社民党も、社民党は自衛隊を違憲とし日米安保条約に反対するなど、双方の安全保障政策などを含めてあまりにも隔たりが大きい。政策の整合性などおよそ欠いた、とりあえずの数合わせに過ぎないことは明白だ。
それを物語るように枝野代表は1月28日の会見で、
立憲民主党の国会における考え方について、(社民党の)それぞれが個人として一致していると確認したので会派を共にした。(「産経ニュース」1月28日)
などと意味のよく分からない説明をし、しかも統一会派は参議院選挙までの期間限定であることをほのめかした。
政策など捨て置いて、ただただ国会での野党内の主導権争いを優先したということだ。
野党各党の政策はバラバラ
さらに驚くのは、自由党の共同代表である山本太郎氏の2月1日の代表質問での発言だった。山本氏は、国民民主党との「統一会派」として代表質問に立ちながら、
これは、会派ではなく私個人からの意見として提案です。消費税増税? ありえない。凍結? ありえない。消費税は減税しかないだろ、というのが私の考えです。
と発言した。
これは消費増税を主張している国民民主党の政策を真っ向から否定するものだ。「統一会派」の代表質問で、一方の党の「共同代表」から「個人の意見」で会派の政策と異なる主張をされても、政府は耳の傾けようがない。
有権者を愚弄した、非常に無責任なパフォーマンスだ。しかも山本氏は、
野党の固まりに集結し、立憲民主党のカラーに野党を染め上げてほしい。(「産経ニュース」2月1日)
と呼びかけたのである。
互いに憎しみあう立憲民主党と国民民主党は、やはり根本的な政策が違う。立憲民主党最高顧問である菅直人氏は、「立憲民主党と国民民主党の政策の違い」と題する自身のブログで、
立憲民主党と国民民主党とは原発ゼロか原発容認かで政策がはっきりと違っています。立憲民主党が永田町での合流話に距離を置いているのは、政党が合同することで主張があいまいになることを恐れているからです。その象徴が原発政策です。(2018年8月4日ブログ)
と綴っている。
言わばそれぞれの党が有権者に対して〝目玉〟としている政策がおよそチグハグなまま、彼らは単なる数合わせに終始しているのだ。
仮に彼らが大同団結できたとして、その政治勢力は税制や、原発、安全保障にいかなる政策を掲げるのか。これまでの主張を180度変える議員たちは、どう説明するのか。そんな集団にどうやって国民は政権を託せばいいのか。
テーブルの下では互いの足を蹴り合いながら、具体的な政権構想も一致した政策も示さず、「野党の結集」という絵に描いた餅で有権者に儚(はかな)い幻想を抱かせようとするのは、もはや〝催眠商法〟に近い。
統計問題を政局化する無責任
明るみに出た厚生労働省の不正統計問題は、少なくとも2004年からはじまっていたと報じられている。
野党は「アベノミクスは偽装」などと主張して厚労大臣の罷免を要求しているが、この15年間の13人の厚生労働大臣のうち、およそ3分の1にあたる4人の大臣は民主党政権時代の大臣だ。ならばその当時の担当大臣の監督責任はどうなるのだろうか。
この問題は、2008年度には257人いた職員が以後は年々削減されるなど、統計職員の予算と人員が縮小していた構造そのものに起因しているとも指摘されている。
いずれにしても、政策の遂行にとって最重要の統計資料の信頼が揺らぐことはあってはならないことで、民主党政権下でも続いていた経緯も含め、与野党を超えて原因の究明と再発防止策の実現に取り組むべきであろう。
それを恣意的に現政権だけの問題であるかのように騒ぎ立て、国民生活そっちのけで、ひたすら〝政局〟の材料にしようとする態度は、立憲民主党など野党に政権を担う気概も能力もないことを露呈していると言わざるを得ない。
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