会見に応じた習総書記
公明党の山口代表は、連立政権発足から1ヵ月も経たない1月下旬に訪中し、国家主席への就任が決まっていた習近平氏と会見。安倍首相の親書を手渡した。
日中間が〝国交正常化以来で最悪〟という状況になり、中国国内でも「反日」世論が沸騰していた時期である。これから国家主席になろうとする習氏にとって、日本の与党党首である山口代表と会見して安倍首相の親書を受け取ることは、本来は大きなリスクでしかない。
安倍首相がナショナリズムや戦争の方向に舵を切る危険な宰相になっていくならば、習氏のメンツにいきなり傷がつくからだ。
中国側が熟慮の末に会見に応じた背景には、中国としても対日関係を打開したいという思いとともに、安倍政権のもつ二面性を中国がしっかりと見極めたことがあったのではないだろうか。
すなわち、日本国内で暴走しかねないほど高まっている危ういナショナリズムを吸収し、そうした世論に依拠する政治勢力を無力化させ、政権を安定させるために、当面は首相自身がナショナリストとして振る舞わざるを得ない側面。
同時に、創価学会を支持母体とする公明党と自民党がしっかり連携することに成功すれば、けっしてナショナリズムを暴発させることなく、日中関係を修復できる政権となり得る側面。
山口代表が親書を携えて北京入りしたあとも、習総書記が会見に応じるかどうか不透明で、代表は数日間待たされた。中国の中枢はあらゆる面からリスクを検討したであろうし、結果として安倍政権と日中関係の修復が可能だと判断したからこそ、にこやかに山口代表を迎え、カメラの前で親書を受け取ったのである。
靖国参拝への米国の反発
中国との関係改善に配慮した安倍首相は、2013年夏の靖国神社参拝は見送った。だが政権発足から1年となる12月26日、外交ルートを通じて米国や中国には事前通告したうえで、モーニング姿で靖国に参拝した。
1年前にナショナリズムの風の中で政権を奪還し、日本維新の会の支持層を巧みに取り込んできた首相にとっては、自分なりの美学を貫き、権力基盤を強固にするための賭けであったのかもしれない。
当然のごとく、中国や韓国、さらにロシアもこの参拝を強く非難した。EU報道官も東アジアでの緊張を高めるべきでないと批判した。
ホワイトハウスは沈黙を守ったが、在日米国大使館は即日、
日本は大切な同盟国であり、友好国である。しかしながら、日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している。
米国は、日本と近隣諸国が過去からの微妙な問題に対応する建設的な方策を見いだし、関係を改善させ、地域の平和と安定という共通の目標を発展させるための協力を推進することを希望する。
米国は、首相の過去への反省と日本の平和への決意を再確認する表現に注目する。(米国大使館 政策関連情報・プレスリリース)
との声明を出した。
すでに中国は米国にとって最重要の国になっており、多国間の関係はかつてのような単純なものではなくなっていた。
1年前、日本の民主党政権下でピークに達した日中の緊張状態を安倍政権が打開し、東アジアの平和と安定に日本が建設的に取り組むことを強く求めたのである。
「民をもって官を促す」
米国からの強い反発は安倍首相も想定外だったのだろう。以後、安倍首相は靖国参拝を見送っている。
ちなみに日中関係はその後、着実に好転に向かっていく。この首相の靖国参拝で再び日中関係が冷え込んだ時期も、公明党が定期的に派遣している青年議員の訪中を打診すると、中国側は気持ちよく受け入れている。
かつて周恩来首相は「民をもって官を促す(以民促官)」という信念で、中国人民対外友好協会や中日友好協会をつくらせた。国と国との友好においては、政治次元よりも民衆レベルでの相互理解と友好が重要だと考えたからだ。
2014年10月7日、李小林・中国人民対外友好協会会長が率いる上海歌舞団が、東京で舞踊劇『朱鷺』のプレビュー公演をおこなった。これは池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長が創立した民主音楽協会との共催だった。
李小林氏は、池田会長が初訪中で会談した李先念副首相(のちの国家主席)の令嬢であり、習近平主席とは同じ太子党(共産党最高幹部の子弟グループ)の親しい関係にある。
翌年の本公演に先立ってこの10月のタイミングで開かれた『朱鷺』プレビュー公演には、中国側から李小林氏、程永華・駐日大使、日本側からは三笠宮彬子さま、安倍首相夫妻らが出席。安倍首相は李氏と言葉を交わした。
『人民中国』インターネット版は、
舞踊劇『朱鷺』は、中国人民対外友好協会と日本民主音楽協会(民音)の共催であり、「民をもって官を促す」という特色が顕著に表れていたため、安倍首相夫妻の観劇は11月の首脳会談の実現に向けた環境整備を意識したものだったと見られる。
と報じた。
そして、1ヵ月後の11月10日、北京で開かれたAPEC首脳会談に先立つ形で、習近平主席と安倍首相の初会談が実現するのである。
正常に戻った日中関係
2018年5月には、李克強首相が7年ぶりに日本を公式訪問。李首相は誇らしげに笑顔で、
両国関係は正常な軌道に戻った。
と明言した。このあと日中間では懸案だった「海空連絡メカニズム」の運用も署名されている。自衛隊と中国軍の偶発的な衝突を防ぐためのホットラインである。10年前から協議を重ねていたもので、民主党政権では実現できていなかった。
10月には首脳相互往来として、今度は安倍首相がやはり単独では7年ぶりの公式訪問を果たし、中国側は天安門広場で儀仗礼をおこなうなど異例の厚遇で迎えた。
安倍政権を軍国主義的な政権であるかのように単純にレッテル貼りし、公明党に対しても「平和の党ならば政権から外れるべきだ」という批判をする声がある。
だが日中関係のこの6年を直視しただけでも、公明党が政権にあることがどれほど日本と東アジアの平和と安定に寄与しているか、一目瞭然ではないだろうか。
それこそ仮に公明党が連立に加わらなければ、自民党は政権の安定のために極右の第三極と組んでいただろうし、そうなれば実際に中国との間で最悪の事態に発展していたかもしれない。
(④に続く)
「自公連立政権7年目」シリーズ:
自公連立政権7年目①――政権交代前夜の暗雲
自公連立政権7年目②――首相の巧妙な戦術
自公連立政権7年目③――大きく好転した日中関係
自公連立政権7年目④――平和安全法制の舞台裏
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