会期延長、不誠実なのは誰か?――かつて会期の撤廃すら主張していた人々

ライター
松田 明

国民生活に広く関わる法案

 6月20日、国会の会期を7月22日まで32日間延長することが決まった。
 今国会(通常国会)が20日に会期末を迎えたため、同日朝、自民党と公明党の幹事長らが国会内で協議し、衆参両議長に延長の申し入れをすることで合意した。
 今国会については、働き方改革関連法案やIR整備法案など、重要法案の成立という点ばかりに注目が集まりがちだ。
 だが、それ以外にも、水道管の老朽化対策を進める水道法改正案、成年後見制度の「欠格条項」を見直す法案、洋上風力発電の導入を促す法案、さらに受動喫煙を防ぐための健康増進法改正案など、国民生活に広く関わる重要な法案がめじろ押しだ。
 先般の大阪府北部を震源とする地震では、老朽化した水道管が各地で破裂している。会期を延長してでも、これらの法案を一つ一つ成立させていくことは、そのまま私たちの暮らしに直結する。
 そもそも国会審議が会期中に十分進まなかった理由は、野党が古色蒼然としたさまざまな手口でひたすら審議を遅らせる〝日程闘争〟をしたことに最大の原因がある。

「失敗したと後悔させる」

 この会期延長に対して早速、その〝日程闘争〟をした野党の一部などから批判の声があがっている。
 立憲民主党の枝野幸男代表は6月20日の党両院議員総会で、国会が会期制をとっている以上は、その会期内で法案を成立させるべきだと発言。

 結果的に延長して失敗したと後悔をさせるような残りの会期にしていかなければならない(「立憲民主党HP」枝野幸男代表)

と非常に強い言葉を使って非難した。今の立憲民主党の立ち位置というかメンタリティーを物語って余りある言葉づかいだ。
 共産党の志位和夫委員長も記者会見で、

 安倍政権は数の暴力をふるうことに恐れも慎みもなくなってしまっている。強く抗議する(『しんぶん赤旗』6月22日)

と非難した。
 また、東京新聞は翌21日の社説で、

 今の通常国会はきのう会期末を迎えたが、政権側は七月二十二日まで延長することを決めた。(『東京新聞』6月21日社説)

 法案に問題点があり、野党がそれを指摘しているにもかかわらず、政権側が強引に成立させるための延長だとしたら、直ちに賛同するわけにはいかない。(同)

と書いている。

与野党の賛成多数で可決

 まず、20日に衆議院本会議で可決された会期延長だが、これは自民党、公明党だけでなく、日本維新の会、希望の党などの野党も賛成して、文字どおりの〝賛成多数〟で可決成立したものだ。
 そこを意図的にぼやかし、あたかも与党が数で押し切ったように語るのは詐術である。
 志位氏の「安倍政権は数の暴力をふるうことに恐れも慎みもなくなってしまっている」との発言は、事実を歪めたいかにも共産党らしいプロパガンダだ。
 一部野党も賛成して可決された会期延長を、あえて〝政権側が決めた〟と表現して批判した東京新聞の社説も、読者をミスリードしかねない書き方だと思う。
 ちなみに読売新聞と日本経済新聞の21日付社説は、

 重要法案の成立を図るためにはやむを得まい。(『読売新聞』6月21日社説)

 せっかく時間ができたのだから、有効に使わなければもったいない。与野党ともよく考えてもらいたい。(『日経新聞』6月21日社説)

と理解を示し、朝日新聞と産経新聞の社説は会期延長そのものに言及さえしなかった。

民主党時代と真逆の主張

 会期延長に反対した「野党」とは、正確には立憲民主党、国民民主党、共産党、無所属の会、自由党、社民党の5党1会派である。
 ここで奇妙なことがある。
 じつは、民主党政権時代の2010年、その民主党は参院選マニフェストで、現在のような会期を切った国会のあり方に異議を唱え、

 国会審議を活性化するため、通常国会の会期を大幅に延長、実質的な通年国会を実現するとともに、委員会のあり方を見直します。(「民主党マニフェスト2010」PDF)

と訴えていたのだ。
 さらに下野したあとの2013年10月にも、「今後の国会改革の方向」を発表し、「いわゆる『通年国会』の検討」を第一に掲げている。
 その際の民主党の主張は、

 国会は毎年1月召集で会期150日間の通常国会と重要案件がある場合に開く臨時国会、衆院選の後に開く特別国会がある。民主党の提案は通常国会の閉幕後、続けて臨時国会を開くなどして事実上の通年国会にするのを念頭に置く。会期末に法案を廃案にするかどうかの与野党の駆け引きをなくし、審議を充実させることに主眼がある。(『日経新聞』2013年10月23日)

というものだった。
 ちなみに、この民主党で幹事長や内閣官房長官を務めていたのが枝野氏である。
 かつてそう主張していた人々が、分裂してそれぞれ看板を掛け替えたとたんに、

 会期制をとっている以上、その会期の中で政府は与党と協力して通すべき法案を通す。その会期内に通らないのはそれだけ問題があったからであり、ここで会期を閉じて特に問題になっているカジノ、働き方改革、TPP等についてはいったん廃案にして出直すべきである。(「立憲民主党HP」枝野幸男代表)

 さらに強引な会期延長で通そうとしていることに対しては、私たちは今後も総力を挙げて戦っていかなければならない。(同)

と真逆のことを叫んでいるのである。
 まさに今の立憲民主党などの姿こそ、〝会期末に法案を廃案にするかどうかの与野党の駆け引き〟に明け暮れている醜態ではないのか。
 会期延長が決まった直後の週末(6月22日~24日)におこなわれた各社の世論調査では、立憲民主党の支持率が軒並み、顕著な下落を見せたことを書き添えておく。

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