人文系学問は不要なのか?
2015年6月8日に文部科学省が発した通達「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」は、社会に少なからぬ波紋を広げた。
とりわけ衝撃を持って受け止められたのが次の箇所だった。
特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする。
これをただちに〝文系廃止論〟と判断することは早計だとしても、国際競争が熾烈になるなかで、大学教育では〝金にならない文系〟より〝金になる理系〟を重視すべしという空気が経済界や政府のなかにあることは衆目の一致するところだ。
東京大学副学長の吉見俊哉氏がただちに『「文系学部廃止論」の衝撃』(集英社新書)を出版するなど、教育界からは危機感が表明された。
「鏡」としての人間学
本書『ヒューマニティーズの復興をめざして』の執筆は、創価大学文学部の教授陣によって、
「文系の学問は社会に何を提供できるのか」という問いに間接的に答えることを一つの目標として始まった(「あとがき」)
ものだが、それは歴史学、社会学、福祉学、哲学、倫理学、言語学、文学、文化人類学と、多様な学問領域にまたがるものとなった。
そして、そのいずれの学問もひとえに「人間とは何か」という問いに応答しようとするものであることが、本書を通して浮き彫りになっている。
私たちがこの社会でよりよい価値を創造していくには、人間の心を映し出す「鏡」としての「人間学」は不可欠ではないか。これが、本書を通じてのわれわれ著者の主張である。(同)
第Ⅰ部では、脳死臓器移植問題、能と狂言、ゲームを通したメディア論、求められる社会福祉像が。第Ⅱ部では、コスモポリタニズム、日本史を学ぶ意味、消滅危機言語、グローバルな日本研究。第Ⅲ部では、哲学、文学、文化人類学、福祉の立場から文系理論の社会的有用性が語られている。
最高ランクの評価
1971年に東京・八王子の丘陵に開学した創価大学は、2012年に文科省の「グローバル人材育成推進事業」に採択。14年には「スーパーグローバル大学創成支援」と「大学教育再生加速プログラム」に採択された。
このうち「スーパーグローバル大学創成支援」では、2018年2月に公表された中間評価で、5段階のうち最高ランクの「S」評価を受けた。
800近い全国の大学のなかで「スーパーグローバル大学創成支援」に採択されたのは37大学。
そのなかで「S」評価となったのは、筑波大学、名古屋大学、国際基督教大学、上智大学、創価大学、豊橋技術科学大学の、わずか6大学のみである。(財団法人日本学術振興会「スーパーグローバル大学創成支援事業 中間評価結果の総括」平成30年2月22日)
牧口常三郎と戸田城聖による創価教育学を実現する大学として、池田大作・創価学会第3代会長によって創立されたが、宗教学部や仏教学部は持たず、いわゆる宗教教育はおこなわないことを建学以来の伝統としている。
司法試験合格者数などで安定した成果を出す一方、政界、財界、教育界や、プロ野球などスポーツ分野でも卒業生が顕著な活躍を見せている。
国際交流の強さも同大の伝統で、世界196大学(2018年3月末現在)と学術交流協定を締結。じつは、駐日中国大使の程永華氏、駐日ロシア大使のミハイル・ガルージン氏も創価大学に留学した〝卒業生〟である。
なお、本書の第Ⅳ部には、創価大学文学部の授業「人間学」で作家・文学者として特別講演をおこなった、宮本輝、森淑仁、古川智映子、佐藤優の各氏の講演録が掲載されている。
本書のサブタイトルが「人間学への招待」となっているとおり、ある意味で他の大学にはなし得ない、創価大学ならではの〝文系の魅力〟を発信した好著といえる。
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