「選択的夫婦別氏」とは
時代の変化のなかで、結婚すると夫婦が〝同姓同名〟になりかねないという問題が浮上してきている――。
3月20日の衆議院法務委員会で、こんな注目すべき質疑がおこなわれた。
質問に立ったのは公明党の國重徹議員。
1996年に法制審議会から「導入」が提言されながら、いまだに法制化がなされていない「選択的夫婦別氏制度」と、旧姓の通称使用拡大についてである。
なお、一般に「選択的夫婦別姓制度」という表現もされているが、法務省は民法等の法律の表記にもとづいて「別氏」を使用しているので、本稿でも「別姓」「同姓」についてはそれにならう。
現在の民法では、結婚にあたって男性または女性のどちらか一方が必ず「氏(姓)」を改めなければならない。
選択的夫婦別氏制度とは、その夫婦が希望した場合、結婚後もそれぞれの結婚前の氏(姓)を称することを認める制度だ。「選択的」なので、もちろん現在のようにどちらかに改めることも引き続き可能である。
女性の社会進出の増加にともなって、改姓によって生じる職務上の諸問題が指摘されるようになり、いわゆる〝通称〟として旧姓のまま働き続けるケースも増えてきている。
それでも選択的夫婦別氏制度がいまだ法整備されていない背景には、「日本の伝統的価値観に反する」「夫婦が別氏になると家族の一体感が弱まる」「子供に悪影響がある」等といった意見があるという。
しかし今回、國重議員が指摘したのは、選択的夫婦別氏を早晩に導入せざるを得なくなる、ある理由だった。
それは、日本における子どもの名前の変化である。
中性的な名前が人気の傾向
國重議員は『たまひよ 赤ちゃんのしあわせ名前事典2018~2019年版』(ベネッセコーポレーション)のデータと分析を資料として示し、
ここ数年の名づけの傾向として、男の子、女の子の区別がはっきりとつく名前よりも中性的な名前が好まれています。(同書)
との分析を紹介した。
読みとして「あおい」「ひなた」「はる」「そら」「りお」「あさひ」「ゆづき」「ゆう」「みつき」「れい」といった名前が男女ともに増えているのである。とくに「あおい」は男女ともに漢字1文字の名前では人気ベスト3に入っている。
こうなると、どういうことが起きるか。
近い将来、同じ名前の人同士であっても結婚したいと思うことはレアケースではなくなってくる、これまで以上にふえてくると思われます。今でも同じ名字の人が、氏の人が結婚する場合もあります。しかし、この同じ名前のカップルが法律婚を選んだ場合、現在の夫婦同氏の義務化を前提にすると、夫婦は同姓同名にならざるを得ない。(國重議員/議事録)
つまり、たとえば佐藤蒼君と鈴木蒼さんが結婚しようとした場合、どちらの氏(姓)に改めたとしても、夫婦が〝同姓同名〟になってしまう。
郵便物や公的書類をはじめ、氏名に関するあらゆる場面で、夫と妻のどちらを指しているのか一見ではわからないという、まったく笑えない不都合が生じてくるのだ。
國重議員は、このまま現在の夫婦同氏の義務化が続くと、同じ名前のカップルが法律婚を躊躇したり、将来を考えて恋愛対象から同名の人を除外せざるを得ないようなケースが出てくる可能性を指摘した。
同氏義務化は世界で日本だけ
さらに注目すべきは、これに続く國重議員の質疑である。
國重議員はまず、「夫婦同氏」を義務化している国は日本以外にどのような国があるのかと法務省にただした。
答弁に立った小野瀬・政府参考人(法務省民事局長)は、
現在、婚姻後に夫婦のいずれかの氏を選択しなければならない夫婦同氏制を採用している国は、我が国以外にはございません。
と答えた。結婚による夫婦同氏を義務化しているのは世界で日本だけなのである。
では、反対論者の言う「夫婦同氏が日本の伝統」は本当なのだろうか。國重議員は夫婦同氏制度が導入されたのはいつかとただした。
我が国におきまして夫婦が同じ氏を称するという夫婦同氏制度が導入されましたのは、明治31年に施行されました民法においてでございます。(小野瀬・政府参考人)
日本の歴史において夫婦同氏が制度化されたのは1898年、わずか120年前のことなのだ。
明治以前、氏は血統を示すものとされておりまして、古来より、女性が結婚して夫の家に入ったとしても夫婦は別氏になっておりました。例えば、源頼朝の妻は北条政子、足利義政の妻は日野富子、江戸時代も同様の慣行がありました。(國重議員)
むしろ日本の歴史では夫婦が別氏であった時代のほうがはるかに長いのだ。ちなみに町民や農民ではどうだったか。
これを問われた法務省は、
平民に氏の使用が許されましたのは明治3年の太政官布告によるものでございまして、それ以前の江戸時代におきましては、一般に、農民、町民には氏の使用は許されていなかったものと承知しております。(小野瀬・政府参考人)
と答えた。
夫婦同氏制度が日本古来の伝統などではないことは、もはや明白である。ちなみに、今回、20歳から18歳に引き下げが閣議決定された成年年齢ですら約140年前にできたものであり、夫婦同氏はこれよりも新しい制度なのだ。
「絆に影響ない」が6割以上
夫婦が別氏になると家族の一体感が弱まるという意見は、本当に国民に根強いのだろうか。
この点を國重議員に問われた法務省は、2017年12月の内閣府による世論調査を引用し、「家族の名字(姓)が違うと、家族の一体感(きずな)が弱まると思う」と答えた者の割合が31.5%、「影響がないと思う」と答えた者の割合が64.3%だと答弁した。
弱まるという意見は3割にしか過ぎず、むしろその倍以上の国民が「影響がない」と答えているのである。
國重議員は、一方でこの世論調査では「夫婦別氏は子どもに好ましくない影響を与える」と考えている人が62.6%で、「影響はない」が32.4%と、子どもへの影響を漠然と懸念している人が多いことを踏まえ、この部分をさらに深掘りするよう法務大臣に求めた。
先述したように、世界のなかで日本以外のすべての国は夫婦同氏を義務化していない。また、過去には夫婦同氏制度だったが別氏制度に変更した国も多い。当然、もし夫婦別氏が子どもに何か好ましくない影響や不利益を与えるものであれば、それらの国々で問題になっていたはずだ。
國重議員の要請に対し、上川陽子・法務大臣は、諸外国の事例の研究調査について前向きに対応したいと答弁した。
世界で日本だけに残された特異な制度によって、これからの時代を生きる若い人々が苦痛や不利益を受けることのないよう、公明党には引き続き取り組みをお願いしたい。
※リンク: 国重とおる公式サイト「衆・法務委 選択的夫婦別氏について質疑」
関連記事:
「ヘルプマーク」を知っていますか?――1人の母の声がついに政府を動かした
「給付型奨学金」がついに実現――〝貧困の連鎖〟を断て