沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流
第4回 「沖縄詣で」重ねる空手家たち(下)

ジャーナリスト
柳原滋雄

海外からひっきりなしに訪れる道場

那覇市から車を走らせて約40分。西原町の一角に黄色の原色使いの特徴的な建物が目に入る。正式名称は「沖縄県空手博物館」。1987年にオープンした空手・古武道に関する物品や資料を集めた個人資料館だ。館長を務めるのは、外間哲弘・沖縄剛柔流拳志會会長(ほかま・てつひろ 1944-)である。
ビルの1階が空手道場のスペースになっていて、階段を上った中2階部分が博物館の展示スペースだ。博物館は県立高校教諭だった外間氏が私財を投じて建設した。
karatehakubutu2 8歳から空手の手ほどきを受け、空手歴はゆうに60年を超える。剛柔流は比嘉世幸師(ひが・せこう 1898-1966)らに師事し、古武道は又吉系を習得した。
外間道場の特徴の一つは、子どもなど地元道場生のほか、海外の愛好家がひっきりなしに訪れる国際性の豊かさにある。中2階にはそのための簡易な宿泊スペースも用意されている。
記者が取材に訪れた際も、ベルギーから1年間「空手留学」中の男性(25)をはじめ、イギリス・ロンドン市警の男性(32)が稽古に来ていた。
35歳で道場を構え、以来38年。これまで海外から道場を訪れた空手家の総数は180ヵ国のべ8000人以上にのぼるという。自身もこれまで48ヵ国を指導で回ってきた。海外からの来訪者は年々増える傾向にあるという。

 海外の指導者の年齢が60歳を超え始めました。強さが落ちてくる時期で、力だけでは若い人に勝てなくなる。そうなると何が必要になるか。技です。ここにはそれを習いに来る人が多いんですよ。(外間会長)

空手博物館の外間哲弘館長

空手博物館の外間哲弘館長

勧められて体験稽古に参加してみた。その日は2人の外国人とたまたま一緒に行ったが、両手を捕(つか)まれた際の対処法や急所の効果的な攻め方など、実践的な「護身術」を対面式で体験したほか、ヌンチャクや棒などの古武道の稽古も盛り込まれ、あっという間の2時間だった。
稽古内容は初心者から有段者まで生徒のレベルに応じて随時変化するという。こうした指導を求め、海外だけでなく、流派を問わずに本土からも頻繁に空手愛好家が訪問する。フルコンタクト空手の代名詞ともいえる極真関係者も、本土などから5、6チームが定期的に訪れるらしい。
著名な空手家としては、極真空手清武会代表の西田幸夫師範(1949-)が著書『空手!極意化への道「どうすれば、いつまでも武術として使えるのか――」』で外間会長に師事していることを公にしている一人だ。
極真空手の稽古体系は、三戦(サンチン)立ちで基本稽古を行うなど、もともと剛柔流の影響が強い。外間氏が剛柔流の高段者であるため、親和性はより高いと思われる。

沖縄空手に着目した極真関係者

nicorasu2 極真空手・大山倍達総裁(おおやま・ますたつ 1923-94)の最後の内弟子ともいわれたニコラス・ペタス選手(1973-)が、国際放送向けのNHK番組の取材で沖縄を訪れたのは2011年のこと。その際、同選手は上記剛柔流の外間道場をはじめ、上地流の高宮城繁道場、小林流の上間康弘道場などを訪問している。
沖縄に来て、空手の型を行う意味を初めて納得したというニコラス選手が「もっと早く沖縄空手に出会っていれば……」と、悔やみにも似た気持ちを持ったとのエピソードは現地ではよく知られた話だ。実は極真空手で一世を風靡した選手が、沖縄古流空手に傾倒するケースは珍しいことではない。
極真の全日本大会で5回の優勝経験をもつ数見肇・数見道場館長(かずみ・はじめ 1971-)は、2004年に心道流(現・創新館)の宇城憲治師範(うしろ・けんじ 1949-)に出会い、組手で思うように体を動かすことができない体験をしたあとに弟子入りしている。
宇城師範の師匠に当たる心道流流祖の座波仁吉・最高師範(ざは・じんきち 1914-2009)は那覇出身で、座波師の実兄(座波次郎)が小林流の開祖・知花朝信(ちばな・ちょうしん 1885-1969)の高弟に当たったこともあり、心道流の稽古体系は沖縄空手そのものだ。
数見館長は宇城師範との出会いについて、すでに公刊されている出版物で

 まだまだ深い世界があるんだということを知り、ものすごい衝撃を受けました。(『武術を活かす 型ですべてが解ける!』

と語っている。
古流の型を中心とする沖縄空手と、自由組手やスパーリングを重視する極真空手は、空手の発想において対極に位置するように思える。極真の元著名選手が現役引退後に沖縄空手に着目する流れは何を意味するのか。

「沖縄空手博物館」(入館料300円)
沖縄県西原町上原147-2
098-945-6148
※体験稽古は2時間単位(要予約・有料)

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『沖縄空手への旅──琉球発祥の伝統武術』
柳原滋雄 著

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。