作家は、子供の心、若者の肉体、老人の知恵を備えていなければならない。子供は好奇心が旺盛だ。身の周りのさまざまなものに関心を持つ。僕もつねに時代や社会を呼吸し、風を肌で感じている。
あるとき、ネットで調べ物をしていたら、「パーマカルチャー」という言葉にひっかかった。聴いたことがあるような、ないような……勘が働いて、何かおもしろそうなことが待っていそうな気がして、調べてみた。
パーマカルチャーというのは、人間にとっての恒久的持続可能な環境をつくり出すためのデザイン体系のことである。
とパーマカルチャーの創始者のひとり、ビル・モリソンはいう。パーマカルチャーは、パーマネント(permanent=永久の)とアグリカルチャー(agriculture=農業)からなる造語で、カルチャー(culture=文化)にもかかっている。
文化というものは、永続可能な農業と倫理的な土地利用という基盤なしには長くは続きえないものだからである。
ビル・モリソンは、1928年にオーストラリアのタスマニアの漁村で生まれた。15歳で学業を離れて漁師になる。その後、さまざまな仕事を転々とし、54年からはCSIROの野生調査部やタスマニア漁業省で生物学者として働く。
やがて学業に復帰。生物地理学の学位を取得して、タスマニア大学で教職についた。74年、学生だったデビッド・ホームグレンとパーマカルチャーの構想を練る。このとき、パーマカルチャーは多種作物農法だったが、やがて土地の利用法や経済活動など人間の生活全体をふくむシステムへと広がる。
『パーマカルチャー 農的暮らしの永久デザイン』は、パーマカルチャーの教科書ともいえる文献だ。現代文明が自然に逆らい、自然から搾取するのに対し、自然に従い、自然の恵みを享受する生き方を提唱する。
思想書というより実用書のおもむきで、用地の設計から始まり、家の建て方、菜園、果樹園の作り方、動物の飼育の仕方、水産物の養殖の仕方など、詳しく手ほどきしてくれる。眺めているだけで新しい世界と生活が迫ってくる。
後半のほうに、都市におけるパーマカルチャーの実践が述べられている。おそらく、このあたりに触発されたのが、『都会からはじまる新しい生き方のデザイン』だろう。
この本を監修したソーヤー海は、1983に東京で生まれた。カリフォルニア州立大学で心理学、有機農法を学ぶ。のちに旅へ出て、2007年にコスタリカのジャングルでパーマカルチャーの創始者のひとりがまとめた本と出会った。
その後、アメリカ西海岸のブロックスなどでパーマカルチャーを学び、11年の東日本大震災を経験して、都市が農村を搾取する構図を変えるため、農村で生まれたパーマカルチャーを都市で応用する「アーバンパーマカルチャー」を構想した。
ただ、ソーヤー海にとってパーマカルチャーは、単なる生態系のデザインにとどまらない。彼はいう。
パーマカルチャーは、人間関係や社会の『デザイン』にも応用することができる。
いわば、パーマカルチャーが提供できるのは、『新しい生き方のデザイン』。いかに今ある状況、今ある自分の身の回りの資源を最大限に活用して、より幸せな、豊かな生き方を作れるかがポイントだと思う。
『都会からはじまる新しい生き方のデザイン』は、もともとzine(自主制作本)として考えられていただけあって、写真をふんだんに取り入れ、パーマカルチャーを実践する人々との対談もあり、雑誌を読んでいるようなアクチュアルな持ち味がある。
都市でエディブルガーデン(食べられる植物を育てる庭や菜園)をつくり、電気や家などをDIYし、ギフト経済(分かち合い)を楽しむ。キーワードは、「消費者から創造者へ」である。
70年代のヒッピームーブメントを目の当たりにしてきた僕としては、パーマカルチャーには、どこか既視感もあるのだが、若い世代がリアル・ポリティクスを通過せずに、現実を変えていこうとする試みをしていることに関心を持った。
21世紀もそろそろ20年。時代や社会を動かす新しいムーブメントが出てきてもいいころだ。
お勧めの本:
『パーマカルチャー 農的暮らしの永久デザイン』(ビル・モリソン/レニー・ミア・スレイ著/田口恒夫・小祝慶子訳/農文協)
『都会からはじまる新しい生き方のデザイン』(ソーヤー海[共生革命家]監修/東京アーバンパーマカルチャー編集部編/エムエム・ブックス)