それは東京都から始まった
赤地に白十字とハートのマーク。「ヘルプマーク」をご存じだろうか?
2020年東京オリンピック・パラリンピックなど外国人旅行者の増加に対応し、「駐車場」「救護所」「案内所」「温泉」などを示すマークが外国人にもわかりやすいよう、3月22日、経済産業省は7種類のピクトグラム(案内用図記号)の国内規格であるJISを変更する取りまとめを発表した。
旧来のJISによる図柄よりも国際規格(ISO)の図柄の方が日本人にも外国人にもわかりやすいという調査結果を受けたものだ。
同時に、「ヘルプマーク」もこれらと同時にJISに追加し、いずれも2017年7月から全国で活用実施されることとなった。
この「ヘルプマーク」とは何なのか。
これは、難病や内部障害を持つ人、人工関節を装着している人、初期の妊婦など、外見からはわからなくても援助や配慮を必要としている人が、そのことを周囲に示すためのものなのだ。
抱えている困難が外見上でわからないために、優先座席を譲ってもらえないばかりか、優先座席を使用していることを非難されたりすることが少なくない。
2012年から東京都が導入し、その後、いくつかの府県でも導入されているが、まだまだ認知度が低く、前述の7種類のピクトグラムと一緒にJISに加えられたことで、ようやく全国に普及する道が開かれた。
なお、「ヘルプマーク」と一体で、緊急連絡先や必要な支援方法などが記載されているのが「ヘルプカード」だ。聴覚障害者や知的障害者などが周囲に支援を求める際には欠かせない。
自閉症の子を持つ母の訴え
じつは、東京都でこの「ヘルプカード」が誕生したのは、自閉症の子を持つ1人のお母さんの言葉がきっかけだった。
2009年の春、地元で街頭演説を行っていた都議会公明党の伊藤興一(こういち)議員に、ある女性が声をかけた。
私には、自閉症の障がいがある子どもがいます。この子どもが、やがて1人で社会参加できるようになったときに、災害や事故に遭遇しても、周囲の人が支援の手を差し延べてくれるような東京都をつくってほしい……。
その女性の手には、家族の連絡先や万一の場合の支援方法などが記載された、手作りの「ヘルプカード」が握られていた。
議員になる前、19年間、児童センターで指導員や副館長として勤務していた伊藤議員は、自閉症児が抱える困難さをよく理解していた。
早速、都議会で行政として統一基準の「ヘルプカード」をつくることを訴えたが、都側の反応は鈍かった。
そこに2011年の東日本大震災が起き、都内でも数百万人の帰宅困難者が発生した。とくにさまざまな内部障害を抱えた人の困難と混乱は大きく、帰路から遠く離れた場所で保護された人もいた。
繰り返し「ヘルプカード」の必要性を伊藤議員が説得する中、2012年10月、ついに東京都は標準様式を区市町村に向けて策定し、補助予算も決定した。
併せて、「ヘルプマーク」の配布や優先席へのステッカー表示を都営地下鉄大江戸線から開始。その後、順次、都営の交通機関や都立病院などにも拡大してきた。
普及と理解促進を首相に迫る
経済産業省のJIS改正案の取りまとめを受けて、3月24日の参議院予算委員会では、浜田昌良氏(公明党)がこの「ヘルプマーク」および、その支援方法を記した「ヘルプカード」について安倍首相に質した。
今年の7月からこれが実現するということでございますけれど、このヘルプマークは提示された相手に意図が伝わらなければ意味をなさない。
東京オリンピック・パラリンピックに向け、街だけではなく心のバリアフリーをさらに進めていくために、マタニティーマークや車いすマークなど他のマーク同様、ヘルプカード、ヘルプマークの意味などを、国民への情報提供や普及、理解促進に努めていくべきだ。
これに対し安倍首相は、
大変意義があると考えている。政府としては関連する事業者の協力を得ながら、積極的に広報し、普及と理解を図りたい。
と答弁した。
自閉症の子を持つ1人のお母さんの声から8年。ついに、全国での実施、普及が決まり、首相自らがその理解促進を約束したのである。
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