学会と宗門、25年の「勝敗」――〝破門〟が創価学会を世界宗教化させた

ライター
青山樹人

仏教史上に例のない供養

 かつて〝日本最大の隆盛〟を誇りながら、わずかこの25年で、風前の灯火のように衰亡した仏教宗派がある。
 日蓮正宗――。そう言われても、もはやほとんどの人が名前も知らないだろう。
 静岡県富士宮市の大石寺を総本山とするこの宗派は、日蓮の弟子・日興を開祖とし、古くは日蓮宗興門派や富士派を名乗っていた。日蓮正宗と改称したのは、1912年(明治45年)のことである。
 身延の日蓮宗などと比べてもはるかに弱小教団だった日蓮正宗が発展したのは、古くからの檀家(法華講)とは別に、昭和に入り、在家団体として創価学会が誕生したからだった。
 戦時下、初代会長の獄死という大弾圧を乗り越えた創価学会は、戦後のまだ貧しい時代から、最優先で日蓮正宗への外護(在家が宗門を支えること)にあたってきた。学会は独立した宗教法人でありながらも、出家と在家の平等を説く本来の仏教の精神に則り、僧俗和合しての広宣流布(社会に仏法を広めること)をめざしてきたのである。
 創価学会が日蓮正宗に寄進した末寺の数は、じつに356ヵ寺。総本山大石寺には大客殿や正本堂などの日本近代建築史に特筆すべき壮麗な名建築が整い、延べ7000万人の参拝者でにぎわった。仏教史上に例のない規模の、民衆からの供養である。
 本来なら、出家である僧侶が、在家の真心と奮闘に感謝し、布教や教学振興の先頭に立つべきであろう。ところが、日蓮正宗は繁栄につれて僧侶の腐敗堕落が深刻化する。
 労せずして〝日本一〟の繫栄を得たものの、総じて布教も教学も在家である創価学会員にかなわない。屈折したコンプレックスは、〝僧侶が上で、信徒は下〟という、時代錯誤の封建的な差別意識を蔓延させていった。

巧妙に仕掛けた破壊工作

 とりわけ、1979年に阿部日顕が法主になると、その「信徒蔑視」と「金満体質」は歯止めが利かなくなっていく。
 創価学会に新たに200ヵ寺の寄進を要求する一方で、料亭で芸者遊びを繰り返す者、ポルシェなどの高級車を買う者、億単位の貯蓄をする者など、常軌を逸した僧侶の放蕩が各地で露見した。中でも、その腐敗堕落を極めていたのが、阿部日顕の一族と、取り巻きのファミリーだった
 一方、創価学会は池田SGI(創価学会インタナショナル)会長が、各国の指導者や有識者との対話、平和への具体的行動を広げ、世界から注目と共感を集めていた。80年代後半になると、各国元首との会見も増える。
 日蓮の精神を完全に見失い、宗教貴族と化して肥え太るだけ太った阿部日顕ら日蓮正宗の中枢は、目障りな池田会長を追放して創価学会を解体し、黙って供養を差し出す信者だけを囲い込むことを密かに謀議する。(一連の経緯については筆者の近著『新版 宗教はだれのものか 三代会長が開いた世界宗教への道』に詳述した →当サイト書評ページ
 1990年の12月26日~27日、日蓮正宗は臨時宗会で宗規を改変し、いきなりマスコミに記者会見を開くというやり方で、池田会長を法華講総講頭(全信徒の代表)から罷免すると発表した。学会には何の通告もしないばかりか、その数日前には素知らぬ顔で新たな末寺の寄進さえ受けているのである。
 年末年始、学会の機関紙『聖教新聞』が数日間の休刊に入り、学会内の情報が混乱することをあえて企図しての恐るべき奸計だった。

「人間のための宗教」へ

 だが、創価学会はビクともしなかった。むしろ、阿部日顕が宗内僧侶にも隠して謀議を進めていたこと、密かにプール付きの豪邸を計画していたことなどが露見。日蓮の教えに違背して腐敗堕落し、在家信徒を収奪の対象としか見ない彼らの本性こそが次第に明らかになっていく。
 日蓮正宗は「法主は御本尊に等しい尊体」などという珍説をかざして批判を封じ込めようとしたが、追い詰められた1991年11月28日、ついに創価学会に「破門通告」なるものを出した。江戸時代さながらの上下意識に浸っていた彼らは、これで学会員が雪崩を打って宗門に隷属すると考えていたのだろう。
 全世界の学会員は、なおも「衣の権威」を振りかざす出家の呆れた行状を笑い飛ばし、時代錯誤の〝葬式仏教〟から訣別する「魂の独立記念日」として喜び合った。
 なにより、この日蓮正宗の聖職者たちの狂態に立ち向かったことで、全世界の学会員は「宗教のための宗教」ではなく「人間のための宗教」こそ、人類が待望する新たな宗教のあり方だという深い精神性を身につけたのである。

訣別が世界宗教化をもたらした

 以来、この2016年末で四半世紀が過ぎた。
 SGIは世界192ヵ国・地域に拡大。各国政府や社会から高い信頼を得ている。イタリア共和国では14年間の審査を経て、首相が列席して国家とイタリアSGIのインテーサ(宗教協約)が締結された。
 池田SGI会長は、北京大学で3度、モスクワ大学、ハーバード大学でのそれぞれ2度の講演を含め、フランス学士院や中国社会科学院などで30回を超す講演をおこない、各大陸を代表する最高学府から370近い名誉学術称号を受けてきた。
 公明党は安定した連立政権のパートナーとして、外交や安全保障、税制にも存在感を示している。創価教育の出身者も、今や各界で陸続と活躍している。
 作家の佐藤優氏は、次のように述べている。

 宗門と訣別し、その前時代性の鉄鎖から解き放たれたとき、世界宗教として飛躍する条件が整った。(『創価学会を語る』第三文明社)

 創価学会/SGIは、ほかの宗教団体とも平和的に共存・共栄できる教団ですね。そのことが各国政府にも理解されてきたからこそ、インテーサを結ぶような形で受け入れられるのです。(同)

 対する日蓮正宗は、愚かにも信徒の98パーセントを失い、多くの末寺が今や本山からの資金援助なしでは経営できない窮状に陥っている。信徒がいなくなり、廃寺となるところも出はじめた。
 とりわけ謀略の首謀者である阿部日顕については、台湾でも「花和尚(堕落坊主)」とマスコミに報道されるなど、その行状が世界中に知れわたった。
 せめて他宗派なみの社会貢献でもすればよいものを、ときどき創価学会を誹謗中傷するビラを撒く以外は、震災時に信者が庇護を求めても門扉を閉ざし、社会性のかけらもない。彼岸や盆の時期になると、高齢者の家などを狙って供養の催促をする、絵に描いたような〝葬式仏教〟なのだ。
 あの「魂の独立」から25年。今やあまりにも鮮やかに勝負のついた双方の姿が、正邪のありかを雄弁に物語っている。

「三代会長が開いた世界宗教への道」(全5回):
 第1回 日蓮仏法の精神を受け継ぐ
 第2回 嵐のなかで世界への対話を開始
 第3回 第1次宗門事件の謀略
 第4回 法主が主導した第2次宗門事件
 第5回 世界宗教へと飛翔する創価学会

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あおやま・しげと●東京都在住。雑誌や新聞紙への寄稿を中心に、ライターとして活動中。著書に『最新版 宗教はだれのものか 世界広布新時代への飛翔』、『宗教は誰のものか』(ともに鳳書院)など。