大差で勝った与党候補たち
10月23日、注目されていた衆議院補欠選挙が終わった。
小池百合子東京都知事の議員失職に伴う東京10区と、鳩山邦夫・元総務相の死去による福岡6区。7月の参議院選挙後初めて、また民進党の蓮舫・新代表になって初めての国政選挙である。
野党側は、参院選に続いて今回もまた、両選挙区とも共産党が候補者擁立を取り下げ、民進党の候補を共産、自由、社民が支援する「野党統一候補」で臨んだ。
一方の与党側は、東京10区では都知事選でいったんは自民党都連と対立する形となった若狭勝氏が自民党候補となったことや、福岡6区では自民党が鳩山二郎氏と蔵内謙氏の分裂選挙となり、予断を許さないという観測もあった。
投票日4日前の10月20日には、福岡6区に4野党の幹部がそろい踏みし、野党統一候補への支援を呼びかけた。
共産党の志位委員長は前夜も久留米市内で応援演説に立ち、新潟県知事選挙で野党系の候補が勝ったことを引き合いに出して、
新潟では圧勝した。野党と市民が力を合わせれば、自民党に打ち勝つことができる。(『西日本新聞』10月20日付記事)
と強気を見せた。
だが、投票箱が閉まった午後8時の直後、NHKは選挙管理委員会の発表を待たずに若狭候補と鳩山候補の「当確」を打った。両選挙区とも与党側の圧勝だったのである。
看板倒れだった「提案型」政党
なぜ2つの選挙区とも、野党統一候補は大差で敗れたのだろうか。
理由の第1は、民進党への有権者の失望だろう。
民進党は、その人気にあやかって蓮舫氏を新代表に据えた。蓮舫氏は党イメージの一新を図ろうと「批判型ではなく提案型」だと宣言してみせた。
しかし、国会審議が始まると民進党は相変わらず年金制度改革関連法案を「年金カット法案」とネーミングするなど、レッテル貼り作戦に終始。TPPでも厚生労働委員会でも審議拒否を続けるなど、旧態依然の姿を露呈した。
評論家の宇野常寛氏は、民進党の問題点は「実務的な政権担当能力がないこと」「言葉の最悪な意味で左翼だと思われていること」だと指摘している。
現代日本において左翼というのは、究極的には自分探し文化以上のものだとは思われていない。もちろん、そうじゃない人たちもいるのですが、全体的に現実と遊離したきれい事を言ってウットリする文化が定着しすぎていて、現実的な問題解決に寄与するケースが少なく、ジャーナリズムやアカデミズムのそれを商売にしている人と彼らの顧客である自分探し層以外からは基本的に相手にされていない。民進党は今回の野党共闘で、端的に言えば自らこの「左翼」のレッテルを貼られに行ってしまった。(『東京新聞』10月8日付「民進党の明日は」宇野常寛氏インタビュー)
広がる共産党への拒絶感
理由の第2は、まさにその〝左翼〟、つまり共産党への拒否反応である。それは、民進党の内部にも、支持層にも、有権者全般にもある。
岡田代表時代、支持率の伸びない民進党は共産党の「野党共闘」路線に便乗した。だが民進党と共産党では基本政策があまりにも一致しておらず、岡田氏自身「共産党との連立政権はあり得ない」と繰り返してきた。
たしかに世論調査では野党共闘に一定の支持があったが、それは「一強多弱」といわれる状況下で野党が罵り合うよりはマシという程度の消極的評価に過ぎなかったと思う。
共産党が語る「国民連合政府」などというものが、そもそも成立のしようもないことは、誰よりも民進党の議員たちがよくわかっている。
東京10区では、民進党候補者自身が共産党への違和感を表明していたし、福岡6区では最終盤ではこんな場面があった。
民進党の支持基盤の連合福岡などには「共産アレルギー」が強い。反発を懸念した陣営は、新井氏と志位氏が同じ写真に納まらないよう画策。演説会の前半で新井氏を中座させ、後半に登場する志位氏との「接触」を避けるシナリオを描いた。
結果的に志位氏が予定よりも早く到着し、新井氏を含めた5人が手を取り合った。シナリオが崩れた陣営幹部は「仕方ない」と不満げで、連合福岡幹部も「事故みたいなもの」と冷ややか。安住氏も次期衆院選を念頭に「政権選択となるといろんな問題をクリアしないといけない」と記者団に語り、共産党との微妙な温度差をにじませた。(『西日本新聞』10月20日付記事)
来るべき衆議院選挙は、政権選択の選挙となる。ハイテンションで「野党共闘」を連呼するのは共産党とその支持層だけで、民進党はますます出口のない泥沼に沈みつつある。
民進党は、国民の憎悪や不安を煽り立てるだけという共産党の手法に便乗する体質から1日も早く脱却し、内政も外交も現実に政権を担えるような、政策論争の「王道」をいくべきではないのか。
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