催眠商法のような「新しい政治」
7月の参院選の勝敗ラインについて、安倍首相は「自民・公明で改選121議席の過半数(61議席)を獲得すること」と明言し、公明党の山口代表もこれに応じている。
だが、対する民進党の岡田代表は、民進党としての勝敗ラインを問われても明言を避け、「与党に3分の2を取らせないことだ」という言い回しに終始している。
与党に3分の2を絶対に取らせてはいけない。3分の2になれば憲法改正だ。
安倍さんの好きなようにはさせない。民進党が中心になって皆で力を合わせ、「新しい政治を始める」。そのために私たちに力を貸してください。(6月22日の街頭演説)
ともかく「憲法改正」を阻止するために民進党を勝たせてほしいというのだ。
ところが、この「民進党が中心となった新しい政治」が具体的にどのような政党会派の枠組みになるのか、民進党はいっさい明らかにしない。しないというより、できない。
岡田代表自身が「共産党との連立はあり得ない」と繰り返すように、民進党と共産党は政策も基本理念も相いれない。では、社民党や生活の党と組めるのかといえば、これも民進党内で何の合意もできていないし、むしろ拒絶反応のほうが強いだろう。
残る野党といえば、おおさか維新の会、日本のこころを大切にする党、新党改革くらいだが、いずれも「憲法改正」を掲げている。
いったい、民進党の主張する「民進党が中心となった新しい政治」というのは、どこの誰と一緒に実現するというのだろうか。まるで悪質な催眠商法のような話だ。
前回マニフェストでは「憲法改正」
じつは、岡田代表が口をつぐんでいることが、もうひとつある。民進党内の改憲勢力のことだ。
ことさらに「憲法改正阻止」を訴えているものの、寄せ集め所帯である民進党内には「憲法改正」を主張してきた議員たちが相当数いる。なにより前回2013年の参院選で、当時の民主党はマニフェストで「未来志向の憲法を構想します」と、はっきり憲法改正を掲げてきた。
なので岡田代表は「安倍政権下での憲法改正には反対」という、よくわからない言い方をせざるを得ない。
憲法に1文字たりとも手をつけないか否かで「護憲」「改憲」と分けるのはナンセンスな話で、実際には復古主義的な改憲を主張する党もあれば、戦後70年経って環境権など時代の変化に応じた新たな項目の加憲を提案する党もある。そこで分ければ、今や与野党問わず「憲法改正」を掲げている政党のほうが圧倒的に多い。
そして、民進党内にもそのような「憲法改正」論者は少なくないのだ。
そこをごまかしたまま、あたかも民進党が躍進すれば「憲法改正」への流れが止まるかのように語るのは、有権者を騙すことになりかねない。
有権者が望んでいるのは経済政策
民進党に衣替えしても支持率が伸びない岡田代表は、共産党との蜜月に向けてアクセルを踏んでいる。この参院選も15選挙区で民進党候補を共産党支持者が全力で支援する。岡田代表と志位委員長は口をそろえて、参院選の争点は「憲法」と「戦争法」だと叫ぶ。
しかし、有権者の主な関心はそこにはない。公示直後に読売新聞が実施した世論調査では、投票先を決める際に重視する政策として、
社会保障 38%
景気や雇用 19%
震災復興 8%
税制改革 7%
子育て支援 7%
憲法改正 7%
外交安全保障 6%
と答えている。同時期の毎日新聞の調査でもトップは「年金・医療」だ。
有権者が望んでいる経済政策を打ち出せない民進党は、意図的に争点を「憲法改正」に持ち込もうとしているが、それは国民の関心事としては低い。しかも、自分たちも「憲法改正」を掲げておきながら、共産党と手を取り合って「憲法改正反対」を叫ぶ。
この野党第一党の実態は厳しく見極めておきたい。
「参院選直前チェック」シリーズ:
参院選直前チェック① イギリスの「後悔」は対岸の火事ではない
参院選直前チェック② 当選した「野党統一候補」はどこへいくんだ?
・・・
参院選直前チェック④ 平和安全法制は「戦争法」なの?
参院選直前チェック⑤ 数字で見る「アベノミクス」
参院選直前チェック⑥ 「成熟社会」が求める政治とは
参院選直前チェック⑦ 若い世代ほど自公政権支持な理由