参院選直前チェック① イギリスの「後悔」は対岸の火事ではない

ライター
松田 明

離脱派が「ウソ」を認める

 国民投票で「EU離脱」を決定した英国で動揺が広がっている。
 事前の世論調査などでは「残留」派が勝つとの予測でほぼ一致していたのが、ふたを開けてみれば51.9%対48.1%で、「離脱」が過半数になってしまった。
 そして、その結果判明直後に英国内でグーグル検索されたワードのランキングが、世界中に新たな衝撃を与えた。

 1位 EU離脱が意味することは?
 2位 EUって何?
 3位 EUの加盟国は?
 (@GoogleTrends

 英国民の多くが、そもそも国民投票で問われていることの中身をよく知らないまま「離脱」に投票したのではないかということなのだ。
 さらに、投票が終わったあとになって、離脱派の政党が訴えていたことがウソであることが判明した。

 欧州連合(EU)離脱を決めた英国の国民投票を巡り、離脱派の主要人物が訴えてきた公約の「うそ」を認め、国民から強い批判が出ている。ツイッターでは「離脱への投票を後悔している」という書き込みがあふれ、英政府に2度目の国民投票を求める署名は350万人を突破した。(毎日新聞電子版6月27日)

 離脱派の政党や政治家は、「離脱すればEUに支払っている毎週3億5千万ポンドの金を国民医療サービスに回せる」と虚偽の宣伝をし、これを大書きしたキャンペーンバスを走らせていた。投票が終わると、「間違いだった」と引っ込めたのである。

「戦争をする国になる」というプロパガンダ

 事前の世論調査を覆すかたちで「離脱」となった背景には、こうした不安や憎悪を煽りたてる政党のデマに踊らされた人々がいたことに加え、EU離脱が何を意味するか、その選択のあと社会がどうなるのかも深く理解しないまま、キャメロン首相への〝批判票〟として「離脱」に1票を投じた人々の投票行動があったのだ。
 そして、この笑えない教訓は日本にも突きつけられている。
 7月10日の参院選に向けて、一部の政党は平和安全法制を「戦争法」と呼び、「戦争をする国になる」「自衛隊から戦死者が出る」「徴兵制が始まる」といったキャンペーンを張っている。
 共産党の藤野政策委員長は6月26日のNHK日曜討論で、防衛予算を「軍事費」と呼んだうえで「人を殺すための予算」と発言。与党議員から発言の取り消しを求められたが応じず、批判が高まった夕方になって発言を撤回した。
 ちなみに平成27年度防衛関係予算のうち、じつに42.4%は自衛隊員の給与や食糧といった人件・糧食費なのだ。
 軍事アナリストで静岡県立大学特任教授の小川和久氏は、昨年の衆議院で平和安全法制特別委員会の参考人を務めた。小川氏は、近著『戦争が大嫌いな人のための 正しく学ぶ安保法制』のなかで、民進党や共産党、SEALDsが集団的自衛権と集団安全保障をわざと混同させ、さらにPKO法を捻じ曲げている実態を「プロパガンダ」「政治的な印象操作」と一蹴。
 国連や国際社会が70年間も粘り強い努力を積み重ね、平和の維持に努めてきた歴史を紹介し、

 そこに日本が参加することを指して「日本が海外で戦争できる国になる」というのは不見識にもほどがあります。

と、手厳しく批判している。どうしても平和安全法制に不安がある人は、ぜひ同書を自分で読んでみればいいと思う。
 参議院選挙は衆議院選挙のような直接の政権選択選挙にはならない。それだけに、政権の維持を望む有権者であっても、なんとなく〝ちょっと首相にお灸をすえておこう〟という気分に突き動かされがちになるのだ。
 英国では今、BRITAIN(英国)とREGRET(後悔)を合わせたBREGRETという造語がツイッター上で自嘲的に飛び交っている。

「参院選直前チェック」シリーズ:
参院選直前チェック② 当選した「野党統一候補」はどこへいくんだ?
参院選直前チェック③ 「3分の2を取らせない」のごまかし
参院選直前チェック④ 平和安全法制は「戦争法」なの?
参院選直前チェック⑤ 数字で見る「アベノミクス」
参院選直前チェック⑥ 「成熟社会」が求める政治とは
参院選直前チェック⑦ 若い世代ほど自公政権支持な理由