「外免切替」デマ、国会で決着――国民の不安解消を求めた公明党

ライター
松田 明

選挙直前に投下された悪質なポスト

 衆議院選挙の選挙戦が実質的に始まっていた昨年10月11日、公明党に関する悪質な投稿がSNS上にポストされた。
 投稿したのは元足立区議会議員を名乗る松丸まこと氏。前年(2023年)9月に公明党の西田まこと参議院議員(現・幹事長)がXにポストした、

外国の免許から日本免許への切り替えに、多大な時間を要していることから、その改善を求めていました。昨日、警察庁から通達が発出され、日本語が十分に理解できない申請者に手早く対応するため、自動翻訳機や音声翻訳アプリの導入や、手続きにかかる所要日数の公表など、改善策が促されています。(西田議員のポスト/2023年9月21日

の投稿に被せるかたちで、

【中国人観光客 日本運転免許 取得問題】
やはり公明党が動いていた。この問題は、10問中7問正解で学科合格、試験場のコースの運転審査で日本の運転免許が取得(外免切替)でき、日本発行の国際免許まで取得できる問題。中国人観光客の交通事故で日本人が亡くなっています。猛抗議いたします。(松丸氏のポスト/2024年10月11日

と投稿したのだ。

 どうやら、外国人が自国で取得してきた運転免許を日本で使用できる日本の免許に切り替える「外免切替」について言及しているのである。

「外免切替」の制度とは

 仕事や実習などで来日した外国人のなかには、自動車や自動二輪の運転が必要な者もいる。これは、日本人が同様の理由で諸外国に渡航した場合も同じであろう。
 日本で運転できる国際運転免許証は、ジュネーブ条約締約国が発行し、同条約に定める様式に合致した国際運転免許証のみである。その場合も、国際運転免許証の発給から1年以内であり、かつ日本に上陸した日から1年以内しか有効ではない。

 また、外国で発行された国際運転免許では日本の運転免許に切り替えることはできない。
 外国で通常の運転免許を取得した者に対してだけ、日本の運転免許に切り替えることができる。これが「外免切替」である。
 ただし条件があって、

①有効な外国の運転免許を保有していること
②免許の発給を受けた日から通算3カ月以上、発給国に滞在期間があること
③「外免切替」を申請する都道府県内に居住(一時滞在を含む)していること

となっている。

 原則として、それぞれの国の基準で技能実習と知識を身につけて運転免許を取得したと見なすのだが、やはりそこは厳格に各国の実態に合わせている。
 「外面切替」にあたって「知識確認、技能確認を免除する国等」は29カ国・地域のみ。

 アイスランド、アイルランド、アメリカ合衆国(オハイオ州、オレゴン州、コロラド州、バージニア州、ハワイ州、メリーランド州及びワシントン州に限る)、イギリス、イタリア、オーストラリア、オーストリア、オランダ、カナダ、韓国、ギリシャ、スイス、スウェ-デン、スペイン、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ニュージーランド、ノルウェ-、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、モナコ、ルクセンブルク、台湾(警視庁ホームページ

 知識確認は要するが技能確認のみを免除する国等は、アメリカ合衆国のインディアナ州のみ。

 つまり、中国やロシアなど、これ以外の国・地域の運転免許の場合は、知識確認と技能確認の両方が新たに求められる。
 まず知識確認では10問中7問を正解しないと合格にならない。この合格率は直近で91%である。
 同時に実際に試験場で運転技能の確認試験がある。こちらの合格率は29%。3割にも満たない。7割は合格できないわけで、切り替えとはいえかなり厳正な条件なのだ。

 さて、先の松丸氏のポストは非常に巧妙である。
 知識確認の10問中7問には触れながら、技能確認で合格できるのは3割以下であることには触れていない。何も知らずに読めば、そんな簡単に日本の免許が取得できるのかと多くの人は思い込むだろう。

 しかも、冒頭に「やはり公明党が動いていた」とだけ書いて、どこにも公明党が具体的に何をしたとは書かず、しかし、公明党が「外免切替」の条件に手心を加えたように〝誤読〟するよう印象づけ、最後は交通事故の話である。
 公明党のせいで中国人観光客による交通事故が起きたと、読む者が受け止めても不思議はない。

発信量を増やさないと対抗できない

 労働力不足などで外国人材が増えていることなどもあり、各地の運転免許試験場では近年、「外免切替」に訪れる外国人が急増している。しかも、言語の問題があって、説明や意思疎通することにも多くの課題が生じている。
 必然的に待ち時間だけが長くなり、長蛇の列ができるうえ、せっかく来場しても時間内に対応できないことも増えていた。
 試験場で混乱が生じ、現場で働く職員に過剰な負担が生じていたのである。

 西田幹事長の元のポストは、こうした現場の混乱を少しでも緩和するため、かねて「自動翻訳機や音声翻訳アプリの導入や、手続きにかかる所要日数の公表など」を所管行政に求めてきていたことに言及したものだ。
 運転試験場が混雑し、マンパワーが過剰に削がれれば、免許取得や更新で訪れる一般の日本人にも不利益が生じる。
 公明党はあくまで現場の日本人職員の負担軽減と、混乱の緩和への施策を求めただけなのだ。

 松丸氏は衆議院選挙の直前、その西田幹事長の1年前のポストに被せて、先の巧妙なポストをした。
 これに排外主義者らが多く釣られ、あるいは分かったうえで便乗し、国土交通相のポストを持つ公明党が「外免切替」を簡素にするよう行政府に働きかけ、その結果、訪日外国人による悲惨な交通事故が増えているというストーリーが拡散していった。
 タレントのほんこん氏なども、自身のYouTube番組やテレビ番組でこれを取り上げ、選挙戦の最終盤にはデマが広く拡散していったのである。

 残念ながら、公明党はこの件で初動の対応を誤ったように思われる。選挙戦の真っただ中で、そんなバカげたヘイトデマにいちいち対応していられないと思ったのか、深刻に受け止めていなかったのか、ともかく反論や抗議をしなかった。
 選挙が終わった11月に入って、ようやく何人かの議員らが自身のSNSなどで反論し、河西宏一衆議院議員は警察庁に対して、「外免切替」の試験内容を見直すことの検討や、すでに実施している外国人ドライバーに対する安全教育の一層強化など、国内の治安維持と安全確保を目的として、交通事故低減に取り組むよう要請した。

 ただ、多くの国民に届くかたちで、党として公式にデマを否定するには至らなかった。そのため実際には選挙が終わってもデマは拡散し続け、若い公明党支持層のなかにさえ、このデマを信じていた人が一定数いたようである。
 年が明けた2月12日に、公明党大阪府本部主催の党員研修会で、政治とメディア、SNSの役割について講演した西田亮介・日本大学危機管理学部教授は、

公明党を巡る陰謀論やデマが多数流通していることを認識しているが、一つ一つ打ち消すことは多分難しい。しかし、だからこそ、発信する量を増やしていかないと対抗できないのではないか。状況がややこしいときほど、しっかり発信する必要がある。誰かが正しいことを言わないといけない。(「公明新聞」2025年2月24日)

と述べている。

国会の場で警察庁がデマ内容を否定

 この3月28日、参議院予算委員会の場で、公明党の宮崎勝議員が質問に立ち、

①「外免切替」の制度所管は警察庁なのか国土交通省か?
②知識確認が簡単になったという事実はあるか?
③試験場が混雑しているという実態はあるか?

と問いただした。
 答弁に立った警察庁の早川智之交通局長は、

①所管は警察庁である
②知識確認は平成5年の道路交通法改正により導入され、これまでに問題数や判定基準を変更したことはない
③予約待ちにより一連の手続きに要する期間が長期化している例もみられたことから、手続きの円滑化を図るため、「外免切替」の申請の受理や申請体制の強化等について、令和5年9月、警察庁から都道府県警察に指示を行った

と述べた。
 交通局長が明言したように、まず免許の所管は警察庁であり国土交通省ではない。
 さらに、知識確認は平成5年(1993年5月)に新たに導入されたもので、その後は問題数も基準も変更されていない。つまり、試験が簡単になったという事実そのものが存在しないのである。
 SNS上などに溢れていた公明党うんぬんというデマは、国会での行政府(警察庁)からの答弁という議事録に残る正式なかたちで、跡形もなく払しょくされた。

 松丸氏が例のポストをした直前の2024年9月、埼玉県川口市内で当時18歳の中国籍の男が酒を飲んで一方通行を逆走。時速125キロで交差点に進入し、会社役員の車と衝突して死亡させる事故があった。
 3月13日、さいたま地検は自動車運転処罰法違反(過失致死)での起訴から、法定刑がより重い危険運転致死罪への訴因変更をさいたま地裁に請求している。

 一連のデマでは、この中国籍男性が「外免切替」で日本の免許を取得し、このような悪質で悲惨な事故に至ったという話がまことしやかに流通していた。
 宮崎議員はこの件にも言及し、

①当該男性は「外免切替」だったのか?
②短期滞在の中国人による交通事故が増えているとの報道がある。令和6年中に中国人による死亡事故は何件で、そのうち「外免切替」によるものは何件か? 短期滞在の者は何人いたか?

と問いただした。
 早川交通局長は、

①川口市の死亡事故の運転者は、日本の運転試験場で新たに取得した日本の運転免許証で、「外免切替」ではない
②令和6年に発生した中国籍の運転者による死亡事故は9件。そのうち「外免切替」によるものは1人であり、その1人も短期滞在者ではなかった

と答弁した。

政府から「改善」への言質を引き出す

 宮崎議員は、このように一つ一つデマをつぶした後、それでも国民のあいだには「外免切替」に関する不安があると指摘。
 具体的に、

①知識確認が10問というのは少ないのではないか?
②外国との相互主義で実施されていることと承知しているが、短期滞在者などがホテルの住所で切り替えが可能でよいのか?

と、人々の不安を代弁して国家公安委員長の答弁を求めた。
 これに対し坂井学国家公安委員長は、

①見直しの余地があると考えている。データを集めて検討したい
②相互主義なので日本人の海外での「外免切替」に影響が出る恐れもある。この点も調査を進めているところである

と答弁した。
 公明党は単に自分たちへの不当なデマを払しょくするだけでなく、国民が抱いている素朴な不安や疑問を政府にぶつけ、国家公安委員長から「見直しの余地がある」「日本人の不利益にならないような形で実態調査を進める」との明確な言質を引き出したのである。

 もちろん、こうした答弁が出てもなお、夏の都議会議員選挙や参議院選挙に向けて、公明党への悪質なデマの流布はさらに激しく続くと予想される。
 しかし、デマが広がれば社会が毀損され、最終的に不利益を被るのは国民だ。公明党はさらに知恵を出して、多くの国民がデマに惑わされないよう、しっかり届く的確な情報発信を検討してほしい。

 また、以前にも記したように、デマについては常にアンテナを張り、できるだけ速やかに対応を決裁する仕組みを整え、議員個人の発信に頼るのではなく「公式」のSNSや動画などで、機敏に正確な情報発信で対処してほしいと思う。
 とくに悪質な事案については、情報開示して警告し、それでも改善されない場合は名誉毀損等での賠償訴訟に踏み切ってよいと考える。

関連記事:
変わりはじめた公明党の発信――他党支持者からも好評
若者意識と「政党学生部」――2020年以降の変化とは
「年収の壁」問題は協議継続へ――与野党の合意形成に期待する
公明党、反転攻勢へ出発――「外側」の意見を大切に
公明党、次への展望(前編)――時代の変化に応じた刷新を願う
公明党、次への展望(後編)――党創立者が願ったこと
自公連立25年の節目――「政治改革」もたらした公明党
公明、「平和創出ビジョン」策定へ――戦後80年となる2025年
政治資金規正法改正案のゆくえ――公明党がやれたこと、やれなかったこと
新たな「総合経済対策」――物価研究の第一人者の見立て
首相「所得税減税」を指示――公明党の提言受け入れる
なぜ公明党が信頼されるのか――圧倒的な政策実現力
公明党を選ぶべき3つの理由――地方議員「1議席」の重み
物価高騰へ政府の本気――発揮された公明党の底力
大阪の中学生がいちばん支持した政党は?――ネットワーク政党ならではの力
日韓関係の早急な改善へ――山口代表が尹大統領と会談
2023年度予算案と公明党――主張が随所に反映される
都でパートナーシップ制度が開始――「結婚の平等」へ一歩前進
書評『今こそ問う公明党の覚悟』――日本政治の安定こそ至上命題
若者の声で政治を動かす――公明党のボイス・アクション
雇用調整助成金の延長が決定――暮らしを守る公明党の奮闘
G7サミット広島開催へ――公明党の緊急提言が実現
核兵器不使用へ公明党の本気――首相へ緊急提言を渡す
「非核三原則」と公明党――「核共有」議論をけん制
避難民支援リードする公明党――ネットワーク政党の本領発揮
高まる公明党の存在感――ウクライナ情勢で明らかに
公明党〝強さ〟の秘密――庶民の意思が議員を育てる
ワクチンの円滑な接種へ――公明党が果たしてきた役割

公明党、次への課題――SNSは宣伝ツールではない

「政教分離」「政教一致批判」関連:
公明党と「政教分離」――〝憲法違反〟と考えている人へ
「政治と宗教」危うい言説――立憲主義とは何か
「政教分離」の正しい理解なくしては、人権社会の成熟もない(弁護士 竹内重年)
今こそ問われる 政教分離の本来のあり方(京都大学名誉教授 大石眞)
宗教への偏狭な制約は、憲法の趣旨に合致せず(政治評論家 森田実)

旧統一教会問題を考える(上)――ミスリードしてはならない
旧統一教会問題を考える(下)――党利党略に利用する人々


まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。