【コラム】発達障害へのさらなる支援と理解を

ライター
佐山 要

発明王の才能を伸ばした母

 電灯、電話、ラジオ、映画、電気の発送電の仕組みなどがない暮らしは想像できない。そしてこれらの発明にひとりの人物が、かかわっていたことに思いを至すと、改めて人間の持つ可能性に心が躍る。その人物とは、トーマス・エジソンだ。
 幼い頃から何にでも興味を抱いた。アヒルが卵をかえすのを見て、自分もと卵を温めるが、割ってしまう。火の燃えるのが不思議で、火をつけているうちに、物置小屋を燃やしてしまう。学校へ行くようになると、「2たす2は4」と教わり、意味が分からずに教師を質問攻め。厄介がられて居場所を失う。父親は手のかかる子どもと溜め息をつく。
 しかし母親は違った。教師の経験を持つ彼女は、当時の学校教育が息子に合わないのだと、みずから勉強を教えた。大人の読む歴史書などを与えて一種の英才教育を施したのだ。これがエジソンの能力を伸ばした。のちに彼は、「わたしの成功は、すべて母のおかげ」と語っている。

子どもに合わせた教育環境を

 生涯で1093件の特許を取り、発明王と称されたエジソンは、発達障害だったといわれる。発達障害には、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、自閉症などがあり、エジソンはLDだったらしい。
 文部科学省の調べでは、全国の公立小中学校で、1クラス(40人学級)で2、3人の児童・生徒、つまり61万4000人に何らかの発達障害があり、しかもそのうち約4割は特に支援を受けていないことが分かった。
 このような子どもたちの教育にとって、もっとも大切なことは、発達障害について理解し、障害に即した方法を考えることだ。
 発達障害の子どもたちは特殊な例ではない。足の遅い子、歌の不得手な子がいるように、読むことや計算、人とのコミュニケーションが苦手なだけだ。苦手は誰にでもある。同時に得意なものも誰もが持っている。
 現在の脳科学では「発達障害を持つ子どもには、持たない子どもよりも高い能力を有する分野が潜在している場合がある」とされる。
 エジソンが入った学校は、子どもを一定の枠組みに嵌め込んでしまい、能力の芽吹きを損なわせた。
 一方、母親は、息子の性質をよく呑み込み、得意なものを伸ばすほうへ導いた。
 元来、教育とは、子どもに合わせた枠組みをつくるべきもので、子どもを教育の枠組みに従わせるのは本末転倒だ。発達障害の子どもは、教育の本義を教えてくれる存在である。
 2011年、障がい者を支援する『改正障害者基本法』が成立し、公明党の主張で、障害には「発達障害」も含まれることが明記された。
 私たちの社会が発達障害について理解し、障害を持つ子どもたちに即した教育をするための1歩は、まだ踏み出されたばかりだ。

<月刊誌『灯台』2013年5月号より転載>


<参照文献> 『いたずらと発明の天才 エジソン』(崎川範行著/講談社火の鳥伝記文庫)、『「学力」と「社会力」を伸ばす脳教育』(澤口俊之著/講談社+α新書)、『毎日新聞』2012年12月6日付