浮き彫りになった課題
長年の懸案だった(と筆者が個人的にずっと思っていた)公明党の〝発信力〟が、少しずつ変わりはじめたような気がする。
LINEが日本での運用を開始したのが2011年6月。じつは2013年調査から2024年調査に至るまで、国政政党のなかでLINEの「友達」登録者数が一番多いのが公明党だった。
そのほかにYouTubeのチャンネルやX(旧Twitter)、インスタグラムなど、党公式のSNSもある。かつて公明党はSNSの取り組みで先駆的な党とも語られていた。
ところが、近年の何度かの選挙を通じて浮かび上がってきたのは、これら公明党のSNSがあまり効果的に使われていない実情だった。
党や議員の運営するSNSのフォロワーや「友達」は、おそらくほぼすべてが党員や熱心な支持者。いわば〝身内〟のなかで情報発信と〝いいね〟が行き交うエコーチェンバー現象が続いていたのだ。
日々、膨大な量の情報が発信されているにもかかわらず、一般有権者には大事なメッセージが何も伝わっていなかった。
昨年(2024年)の衆議院補選、東京都知事選、衆議院選、兵庫県知事選は、日本の選挙においてSNSがときに勝敗を左右するほど大きな影響力を持つ段階にきていることを図らずも証明した。完全にフェーズが変わったのである。
既成政党がおしなべて伸び悩んでいるなか、国民民主党やれいわ新選組、参政党など新興勢力が一定の支持を伸ばしてきた最大の要因は、彼らがSNSの運用に早くから注力してきたことに異論はないだろう。
これらの政党は、党首や党幹部自身がSNSに手慣れた世代であることも大きい。
「公明党のサブチャンネル」が好評
衆議院選のあと、公明党も岡本三成政調会長や伊佐進一中央幹事(前衆院議員)らを筆頭に、これまで以上に積極的なSNS発信に取り組んでいる。
なにより、多くの党員や支持者が、公明党の発信力の課題に対して率直な声を上げるようになったことも大きい。
公明党は2025年に入って、YouTube公式チャンネルとは別に「公明党のサブチャンネル」を開設。岡本政調会長は早速、個人的に仲がいいという国民民主党の玉木雄一郎氏をゲストに招いて対談をおこなった。
異色の取り合わせと両者の親密なやりとりが新鮮で、興味深いことにコメント欄には国民民主党の支持者からも「公明党のイメージが変わった」「岡本さん、応援します」等の書き込みが続いている。
公明党のありのままの姿を〝外〟の人たちに見てもらうためにはどうすればいいか。これは岡本政調会長の知恵の勝利であろう。
この動画が反響を呼んだことで、BSフジの「プライムニュース」からもオファーがあり、2月7日の生放送では岡本氏と玉木氏が登場した。
YouTubeで今も見ることができるから、関心のある人はぜひご覧いただきたい。
伊佐氏は、自身のYouTubeチャンネルで「公明新聞ニュースライブ」と称し、月曜日から金曜日の朝8時半から10分間、その日の「公明新聞」の主要記事の解説というかたちで、現下の政治課題や公明党の取り組みをわかりやすく語っている。
衆議院選のあとに筆者も本コラムで、
さまざまなテーマについて、公明党がどのような議論をし、あるいは自民党や政府、野党などとの協議をしたのか。現状、どのような課題があり、公明党はどのように考え、それに対して政府や他党からどのような意見が示されているのか。
それぞれの課題について、今どのような議論が進んでいて、何がどこまで前進し、あるいは膠着し、どのように結論を導くべきと考えているのか。
そうした進捗状況を整理した解説を、少なくとも毎週1回、公明党の公式のYouTubeなどで5分くらいの尺で配信したらどうだろうか。(「公明党、反転攻勢へ出発――『外側』の意見を大切に」2024年12月10日掲載)
と提案した。
週1回どころか週に5回もやっていただいて、伊佐氏の熱量には頭が下がる。
伊佐氏は、議員の歳費(給料)の実情紹介や、公明党が「媚中」などとレッテル貼りされていることへの明確な説明もしている。
ほかにも、自身のYouTubeチャンネルなどで短時間の配信を定期的にはじめた議員や予定候補者もいる。
公明党の実績を投稿する「#やるじゃん公明党」というハッシュタグも生まれた。
こうした取り組みはもちろん万能薬ではないし、どちらかといえば即効性のあるものでもない。
やってみて、上手くいったというケースもあれば、空振りすることもあるだろう。だからこそ、地道な試行錯誤を重ねていくことが必要なのだ。
可視化された「チーム3000」の力
先日、SNSならではの、ひとつの理想的なかたちが可視化された出来事があった。
1月下旬、プロフィール欄に国民民主党員と明記した女性が、不妊治療の助成について市役所に行ったものの必要書類が足りないと言われたとXにポストした。
たまたまそれを目にした公明党立川市議団(東京都)の大沢純一議員が、
ポストを拝見しました。不妊治療助成は、自治体によって申請などの扱いが違うようですね。
そのため対応について一般論で答えても解決に結びつかないかもしれないので、方法としてはその自治体の議員に相談するのが一番かと思います。
僕で差し支えなければ、現地の議員にお繋げできればと思います。よろしければDMください。(大沢議員のポスト)
とリプライをした。
先方はさぞ驚いたと思うが、さすがに〝国民民主党員が票も投じていない公明党に頼るのは申し訳ない〟と返信。
これに対し大沢議員は、困っているときに、どこの党を応援しているなんて関係ないので、よければ手伝わせてほしいと応じた。
その結果、ポスト主の国民民主党員はダイレクトメッセージを通じて同議員に連絡。大沢議員は先方が暮らす富山県の公明党・新開ひろえ市議と連携し、ポスト主とつなぐことができた。新開議員は市の子ども子育て課長にすぐに事情を伝えた。
最終的にやはり必要書類を残していなかったことで今回は申請できなかったそうだが、ポスト主だけでなく、一連のやりとりを見ていた人たちからも、全国の議員が連携する公明党の「チーム3000」の機動力と、党派を超えた善意に感謝や感嘆の声が広がった。
これは多くの公明党議員にすれば、ごくあたりまえの日常的なことなのだろう。SNSの上でたまたまその顛末が可視化されたのだ。
そして、このようにSNSを活用することで、今後は公明党の「チーム3000」が他党ではマネのできない機動力を発揮し得るということが、ひとつ証明されたのである。
SNSは「愛着」を生むツール
一方で、まだまだSNSの使い方に不慣れなのか、従来の一方通行的な宣伝告知で終わっている議員や予定候補者も見受けられるようだ。
3年前の2022年、参院選の思わしくない結果を受けて筆者は公明党の情報発信について、
重要なことは、それらが誰に向かって発せられ、支持層の拡大にどこまで結実していくかだ。もしも党勢拡大を支持者に依存し、支持者を介する前提で何かを仕掛けているなら、その発想は時代からズレていると思う。(「『立党精神』から60年――公明党の新たな出発を願う」2022年9月12日掲載)
と率直な思いを述べさせてもらった。
党組織や自前のメディアが整っていたがゆえに、公明党の情報発信は、どうしても「内向き」が習い性になっている。かつてはそれでよかったが、今は時代が変わった。
このことは僭越ながら、一昨年の統一地方選のあとにも、昨年の衆議院選のあとにも繰り返し申し上げた。
議員や予定候補者にすれば、日々、なにを発信すればよいのか悩むことも多いだろう。しかし、とりわけSNSというツールのありがたさは、本来なら会うことも、チラシを渡すこともできない相手に、自分の思いを届け、ファンになってもらえる可能性さえあることなのだ。
そのことは、2024年を通していくつもの選挙が証明した。
著名なコミュニケーション・ディレクターである佐藤尚之氏は、企業におけるSNS、あるいはその担当者の重要性について、次のように述べている。政党や政治家に置き換えても通じる内容だと思う。
重要視している企業でも、「拡散担当」くらいに思われているところがあるが、情報過多なこの時代において、特にSNSをヘビーに使っている生活者が「企業からの一方的な拡散」に注意を払うことはほとんどない。(『ファンベース』ちくま新書)
単なる企業からの一方的なお知らせを発信するのが彼らの仕事ではない。SNS担当者は、他に代えがたい愛着を作ってくれている貴重な存在なのだ。(同)
議員が従来の支持層の外側に新たな支持者や理解者を広げようと考えたり、新人として立候補を予定している者が選挙区に認知とファンを広げようとしたりするならば、SNSが「一方的な拡散」になっていないかどうか、よくよく注意してほしい。
公明新聞の切り抜きを貼ることも、それがわかりやすい場合もあるのだろうし、「〇〇を訪問してきました」というような報告が必要な場合もあるだろう。
ただし、自分をまったく知らない無党派層の有権者や、他党に投票していた有権者が、そういったSNS発信を通して自分に関心を持ち、〝愛着〟を持ってくれるのかどうか。もしも政策などに関心を持ってもらえるとすれば、それは愛着関係が生まれてからなのである。
悪質な「デマ」には徹底した対処を
日々更新されるメディアがテレビ・ラジオ・新聞しかなかったような時代と異なり、現代は「情報過多」の時代だ。
かつて人々は新しい情報を貪欲に欲していたが、今は余計な情報を遮断することのほうに重きが置かれている。
そのなかで、どうすれば自分と無縁だった人々が自分について知りたいと思うようになってくれるか。繰り返しになるが、政治空間におけるSNSの重要性は、もはや新しいフェーズに突入している。
SNSを賢明に活用し、新たな〝共感層〟と〝ファン〟を広げていけるかどうかは、今やどの政党にとっても、党勢の浮沈を左右しかねない大きな課題になっている。
前述の佐藤尚之氏は、
生活者との距離感を理解し、自分のオーガニックな言葉を駆使して愛着を積み重ねること(同)
が企業SNS運用の急所だと述べている。これも、そのまま政党や議員にあてはまる。「オーガニックな言葉」とは、ありがちな紋切り型ではない自分らしい自然なメッセージである。
なお、選挙イヤーの今年は、SNSを悪用した公明党へのデマや中傷の拡散もこれまで以上に増えるだろう。
デマに対しては、機を逸せずきちんと対応するスピードが不可欠だ。火事と同じで初期消火を怠れば、ボヤでも大火に広がってしまう。
そして、デマ対応はできるだけ党の公式SNSで、いつでも誰でも確認できるかたちで発信してほしい。個々の議員が発信するだけでは、外から見れば「個人の見解」になりかねなず、コミュニティノートを制作するにも説得力に欠ける。
党員や支持者が懸命に支援を広げているなかで、悪質なデマが放置され拡散していくようでは、あまりにも情けない。
消防が火事を消すときも、徹底して小さな火種まで消しきっていく。
例の免許をめぐるデマのような悪質なものには、法的措置を講じるなり、国会で担当省庁から答弁を得るなり、誰が見ても白黒がわかるようにするべきだと思っている。
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