若者意識と「政党学生部」――2020年以降の変化とは

ライター
松田 明

新たに台頭した「ネット地盤」

 2024年の衆議院選挙は、与党が過半数割れの少数に追い込まれただけでなく、野党第一党の立憲民主党を含め、いわゆる既存の〝組織政党〟にも逆風が吹いた。
 大きな要因として、まず「SNS」を中心とした〝ネット地盤〟が台頭したことがある。

 かつてSNSは若い人のツールと思われていた節があるが、コロナ禍が様相を一変させた。高齢者でもネットにはまる人が急増したのである。「令和5年高齢社会白書」によると、高齢者のネット利用は2017年から2022年で約2.5倍に増えている。
 先の兵庫県知事選挙でも、若者だけでなく少なからぬ高齢者もSNSで情報収集し投票先を決めていた。

 とくに30代以下では新聞やテレビを読まない/見ない人が多く、情報収集はほぼネットになっている。
 データジャーナリズムで世論調査や選挙情勢調査の精度に定評のあるJX通信社代表取締役の米重克洋氏は、朝日新聞のインタビューに次のように答えている。

 選挙の支持層をあらわす「地盤」という言い方がありますが、私は「ネット地盤」という言葉を使っています。これまでの政党は、町会や労働組合などのつながりが地盤でしたが、都市部の若者や現役世代は、単身や核家族が増えています。ネット以外ではアクセスしにくい人たちです。(「朝日新聞デジタル」2024年12月17日)

 この「ネット地盤」の流れは、今後ますます強まっていくだろう。

新たな支持者を広げた「学生部」の存在

 先の衆議院選挙では、既成政党が軒並み苦戦したなかで、国民民主党だけが議席を4倍に増やした。代表の玉木雄一郎氏は民主党出身であるし、党も労組に支えられてきた〝組織政党〟である。
 すでに多くの指摘がなされているように、ほかの野党が「政治とカネ」批判の選挙戦を展開したなか、国民民主党の勝因は「手取りを増やす」というワンイシュー戦略に出て、それが若い世代や現役世代に刺さったことにある。

 それを可能にしたのも、やはり玉木氏が獲得していた「ネット地盤」だった。玉木氏は2018年から自身のYouTubeチャンネルを開設し、試行錯誤を繰り返しながら「ネットどぶ板」と語るほど視聴者との関係を築いてきたのである。
 東京15区補選、東京都知事選挙、衆議院選挙、兵庫県知事選挙と、いずれも動画を中心としたネット戦略が注目された2024年に、こうした玉木氏の取り組みがうまくはまったとも言えるだろう。

 もう1つ、国民民主党が躍進した背景に指摘されているのは、学生世代との連携が功を奏したことだ。
 同党はコロナ禍の2021年から「国民民主党学生部」を発足させ、初代・2代といずれも現役学生が代表を務めている。
 初代代表を務めた鈴木拓理氏は2023年5月のインタビューで、

この30年成長していない日本を動かし、何より給料を上げることに解決策を見出さない、問題を真正面から議論しようとしない政党は、無責任だと思います。(「elaboマガジン」2023年5月26日

と語っている。
「手取りを増やす」というのは、なにも衆議院選挙で急に出てきた話ではなく、この学生部のなかでも早くから最優先課題として取り上げられていたのである。
 日本若者協議会代表理事の室橋祐貴氏は、

 ヨーロッパの政党を見ていると、特に学生部に力を入れています。日本でも最近躍進している政党の学生部は人数が多く、元気のよさがあります。とてもアクティブですし、個々人が積極的に演説なども行っています。こうした学生部の存在によって、既存の支持者ではない外側の支持、とりわけ若い層の支持を獲得しているのだと思います。(江守正多・東京大学未来ビジョン研究センター教授との対談/『第三文明』2025年2月号)

と指摘する。

一貫して若者の声を拾い続けた公明党

 じつは、すべての国政政党のなかで、早くから若者世代の声を政策に反映させる取り組みをしていたのは公明党だったといって過言ではない。

 たとえば携帯電話のキャリアを変更しても電話番号が変わらないのは、2006年に携帯番号ポータビリティ制度が実施されたことによる。それまでは番号が変わってしまうことで、キャリアを変えるハードルが高かった。
 この制度の実現に大きな役割を果たしたのが、公明党青年局が2003年7月から開始した1012万人超の署名運動である。
 当時この署名に参加した人々は、若者が声をあげれば政治が動くのだということを強く実感したと語る。

 その後も、18歳選挙権が実施になった2016年から、公明党は議員が若者の声を聞く「ボイスアクション」を継続して実施してきた。不妊治療の保険適用、幼児教育の無償化なども、この「ボイスアクション」から生まれた政策だ。

 近年では2021年に携帯電話料金が各社軒並み約6割の大幅値下げとなった。これは当時の菅政権が目玉政策の1つとして携帯各社に要請したものだが、官邸を動かしたのはやはり公明党だった。コロナ禍でオンライン授業などが増え、若い世代の負担が増えるなか、「実感できる値下げ」を提言したのだ。
 日本大学の西田亮介教授は当時、こうした公明党の取り組みを率直に評価し、

 2010年代前半から、多くの政党がネットやSNSを活用しながら、若者の声に耳を傾けようというポースを見せました。しかし、その運動を大規模な形で継続している政党は、公明党以外に見当たりません。(『第三文明』2021年8月号)

と語っている。

ポスト安倍で離れた若者の支持

 政権交代した2012年に自民党に投票した20代は33%だったが、2017年には50%に達していた。
 安倍政権が若者の強い支持を受けていた背景には、民主党政権時代に比べて就職率などが目に見えて上昇したことと、女性や若者目線の政策が次々に実現していったことなどがある。

 その若者の声を政治に反映させることは、コロナ禍がはじまり、菅政権、岸田政権に移っても実際には続いていた。
 先の室橋代表理事もコロナ禍の渦中にあった2022年夏の時点で、

「生理の貧困」への対応や「ブラック校則」の解消、学生への緊急給付金など、若者政策がこれほど矢継ぎ早に実現しているのは、戦後で初めてなのではないかと思います。もちろん、公明党のボイス・アクションがこの流れに一役買っているのは言うまでもありません。(『第三文明』2022年8月号)

と述べている。

 ところがこの時期、当の若者の意識は変わりはじめていた。秦正樹・大阪経済大学准教授(当時は京都府立大学准教授)は翌2023年秋、朝日新聞に対し次のような数字を示している。
 政党ごとの好感度を100点満点で示した場合、18~24歳の若者の自民に対する評価は、安倍政権下の2019年参院選では60点弱だったが、岸田政権になった直後の2021年衆院選で50点ほどに下がり、2023年には45点程度まで下がったというのだ。

 朝日新聞は、この記事を以下のように総括している。

 安倍政権が発した「強い日本経済を取り戻す」といった世論への強いメッセージは、岸田政権からは感じられない。
 安倍政権が民主党政権と比較されて支持を広げた一方、岸田政権は安倍政権と比較され、支持率が低下している。政治への関心が低く、比較的、報道や周囲の意見に影響を受けやすい若者の支持が連動して離れていくのは必然だろう。(「朝日新聞デジタル」2023年11月26日

 実際には「若者政策が矢継ぎ早に実現」しているのに、学生世代は過去と対比できる肌感覚がないので、プラスの変化が実感しづらいのだろう。

〝より開かれた〟政党学生部へ

 こうした若者の政権支持離れが起きたなかで、連立与党の公明党も苦戦を強いられることになる。
 政治学が専門の慶應義塾大学の小林良彰名誉教授は、2024年10月18日~21日に投票行動研究会が実施した全国意識調査の結果を踏まえて、『月刊公明』(2025年1月号)でこのように分析している。

かねてから指摘されているように公明党支持者の高齢化が挙げられる。年代別に支持者を見ると70歳代以上が最も高く、20代が1.6%しかいないことが課題である。これはコロナ禍で大学がキャンパスでの対面授業をやめてオンライン授業に変わったことで学生同士が対面でお互いを知り合う機会を失ったことが原因となっている。従来、公明党は学生同士のつながりを通して若い支持者を補充してきたが、コロナ禍で数年、途切れていることが問題となっている。今後、若い世代の支持者をいかに増やしていくのかが大きな課題である。(「24年衆院選に見る有権者意識と公明党の今後」)

 参考までに2019年参院選に関して東京大学が調査した際は、10代・20代では5.9%が比例投票先に公明党と回答している(「2019年参議院議員選挙における投票行動と情報行動」)。

 世界保健機関(WHO)が新型コロナの緊急事態宣言を発出したのは2020年1月30日。宣言の終了は2023年5月5日。この時期に大学生だった人たちは、学生生活の大半をオンラインで過ごさざるを得なかった。
 小林名誉教授は、こうした学生同士の対面接触の機会激減が若い公明党支持層の減少に拍車をかけたと分析しているのである。

 今の国民民主党は、コロナ禍にあった2020年9月、旧・国民民主党が分裂して一部が立憲民主党に合流したことで新たに結党された。
 ポスト安倍の時代になって若者の与党支持が下がりはじめ、コロナ禍に突入したタイミングで、国民民主党は代表のYouTubeチャンネルなどで若い支持層の獲得に試行錯誤を開始した。現役学生を代表に「学生部」が発足したのも2021年。
 今や支持率で立憲民主党を抜いている国民民主党は、3年以上の時間をかけて〝仕込み〟をしていたのである。

 小林名誉教授は、自民党が単独で過半数を失っている現在の状況は、見方を変えれば公明党本来の主張を実現する好機ととらえることもできると語っている。
 単独で何かを決められない自民党としては、公明党だけでなく他の野党とも政策ごとに組む必要に迫られている。国民から見えにくい与党内の議論だけで多くのことが決まってきた従来に対し、公明党も他の野党と並んで自民党の選択肢になる。
 公明党には他の野党との競合あるいは合意形成が課せられるわけだが、それは公明党が何を主張し、結果として何を実現できたかが、国民に見えやすくなるチャンスでもあるのだ。

 一方、室橋代表理事は公明党へのアドバイスとして、次のように述べている。

公明党も、より開かれた政党学生部をつくれると、さらなる発展につながるのではないでしょうか。(『第三文明』2025年2月号)

 つまり、支持母体の学生部や青年部に大きく支えられてきた従来の手法に拘泥することなく、より広範な外側の学生を巻き込んでいくイメージであろう。政党学生部が学生世代の共感を得るためには、国民民主党のように現役学生がリーダーシップをとって、街頭演説で同世代に訴えかけるような取り組みも不可欠だと思う。

 あるいは公明党のなかで、すでに何か着手しているのかもしれない。言うは易(やす)しで、一朝一夕ではことが簡単に動かないことも承知している。
 ともあれ、公明党青年局は20年以上にわたって政策実現に関わってきた確かな経験値がある。党も支持者も新しい柔軟な発想で、より幅広い若者世代に公明党らしさが伝わるように、創意工夫をしていってもらいたいと願う。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。