「核廃絶」へ世界世論の喚起を――原爆投下80年となる2025年

ライター
青山樹人

ノーベル委員会の意図

 2024年の「ノーベル平和賞」を受賞した日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)。日本時間の12月10日夜にノルウェーの首都オスロ市役所でおこなわれた授賞式では、代表委員の田中熙巳さんが受賞の演説に立った。
 田中さんは13歳のとき、長崎市内の爆心地から3キロほどの自宅で被爆した。

一発の原子爆弾は私の身内5人を無残な姿に変え一挙に命を奪いました。その時目にした人々の死にざまは、人間の死とはとても言えないありさまでした。誰からの手当ても受けることなく苦しんでいる人々が何十人何百人といました。たとえ戦争といえどもこんな殺し方、こんな傷つけ方をしてはいけないと、私はそのとき、強く感じたものであります。(田中さんの演説から「NHK NEWSWEB」

 約20分におよぶ演説が終わると、聴衆は立ち上がって拍手を送った。各国から集まったメディアの数も例年にない多さで、世界からの関心の高さを示した。
 授賞式に合わせて、現地ではさまざまなイベントも開催された。日本から派遣された4人の「高校生平和大使」も、オスロ市内などで高校生や大学生らと交流。授賞式にも参列した。
 高校生平和大使は、インドとパキスタンが相次いで核実験を実施した1998年に、長崎市が2人の高校生を国連本部に派遣したのが始まり。全国から公募され、これまで高校生平和大使を経験した人は250人を超えている。

 今回、授賞式に出席した被爆者は、いずれも80代、90代だ。被爆者の高齢化が進むなか、今の高校生平和大使や、その同年代の世界の若者たちは、戦争被爆者から直接話を聞くことができる〝最後の世代〟といってもいい。

 12月24日、代表委員の田中熙巳さんら日本被団協のメンバーが東京の日本記者クラブで会見に臨んだ。
 会見で明かされた話によると、ノルウェーのノーベル委員会は当初、原爆投下から80年となる2025年の授賞を考えていたという。しかし、むしろ前年に授賞することで、2025年に向けて核廃絶への国際世論が高まることを期待し、本年の授賞になった。
 この話は、授賞式のあと、ノーベル委員会のフリードネス委員長から田中さんらに伝えられたそうだ。

 田中さんは受賞演説のなかで、戦後も占領軍によって被爆者が沈黙を強いられていた事実、日本政府からも見放され、「被爆後の10年間、孤独と、病苦と生活苦、偏見と差別」に耐えなければならなかった歴史に言及した。
 しかし、1954年に第五福竜丸の乗組員がビキニ環礁での水爆実験で「死の灰」を浴びたことを契機に、原水爆禁止を求める運動が広がった。
 被団協が結成されるのは1956年8月10日のことである。

 演説では核廃絶への訴えを世界に広げてきた被団協の活動にも言及された。

1978年と1982年にニューヨーク国連本部で開かれた国連軍縮特別総会には、日本被団協の代表がそれぞれ40人近く参加し、総会議場での演説のほか、証言活動を展開しました。核兵器不拡散条約の再検討会議とその準備委員会で、日本被団協代表は発言機会を確保し、あわせて再検討会議の期間中に、国連本部総会議場ロビーで原爆展を開き、大きな成果を上げました。(受賞演説/同)

「民衆が支える国連」への転換を

 じつは、この1982年の第2回国連軍縮特別総会の際、「被爆証言を聞くNGOの集い」や「反核討論集会」を実施したのが、国連広報局のNGOである創価学会だった。
 前年の8月、米国のレーガン政権は「中性子爆弾」の生産を決定していた。核開発競争が再び過熱し、国連不要論が世界的に叫ばれていた。

 日本人として国連事務次長(広報・軍縮・人権担当)に就いていた明石康氏は事態を憂慮し、東京で池田SGI(創価学会インタナショナル)会長を訪ねた。
 SGI会長は、「国家が支える国連」から「民衆が支える国連」への転換を訴え、核兵器の惨状を世界の指導者に伝える展示など、具体的な提案をおこなっている。

 1982年6月の特別総会では、開幕4日前から会期終了まで、創価学会が国連広報局と広島市・長崎市と協力し、国連総会議場ロビーで「現代世界の核の脅威展」を開催した。
 被爆後の広島市と長崎市の惨状を写した写真、原爆で焼けた衣類、溶けた瓦などが展示され、広島型原爆がニューヨーク上空で爆発した場合の被害予想などもパネルで示された。
 この展示会場には、当時のデクエヤル国連事務総長をはじめ、国連関係者、総会に参加した各国大使を含め、じつに20万人が足を運んだ。

 明石氏は後年、このときの創価学会の取り組みを振り返り

特別総会での「世界軍縮キャンペーン」採択にも大きな影響を与えたと思っている。核廃絶への世界世論を形成する、大きな役割を果たされたと思う。(『潮』2010年7月号)

と述懐している。
 第2回特別総会の2か月後、来日したデクエヤル事務総長は迎賓館で池田SGI会長と会見し、深い感謝を伝えた。

 なお、翌年にはジュネーブにある国連欧州本部でも同展が開催されている。さらに、この展示は「核兵器――現代世界の脅威展」として、インド、中国、ソ連(当時)の核保有国を含む24カ国・39都市を巡回し、170万人が見学した。
 SGI会長は1983年から逝去の前年2022年まで、40回にわたって毎年1月26日の「SGIの日」に記念提言を発表し続けてきた。

2度の授賞式に招かれたSGI

 創価学会青年部が戦争体験者の聞き取りを集めた証言集『戦争を知らない世代へ』(第三文明社刊)は、1985年に全80巻が完結した。さらに、女性たちによる『平和への願いをこめて』(同)も、1991年に全20巻の刊行が完結している。
 1998年には、核時代平和財団のキャンペーン「アボリション2000」に協力し、核廃絶を求める民衆の声を可視化するため、学会青年部で1300万人の署名を集め、国連に提出した。

 2007年に核兵器禁止条約を求める運動としてICANが発足すると、ICAN議長の要請に応じてSGIは国際パートナーに就いている。両者は協力して、世界各国での啓発活動に取り組んできた。
 2017年にICANがノーベル平和賞を受賞した際、ノルウェーのノーベル委員会は授賞式に被爆者の代表とSGI代表を招いている。

 今回の日本被団協の受賞にあたっても、やはりノーベル委員会はSGI代表を授賞式に招聘した。
 授賞式前日の12月9日には、SGI代表団がノーベル委員会のフリードネス委員長、トーヤ副委員長と会見。
 11日には、ノーベルウイークの主要行事である「ノーベル平和賞フォーラム」が、SGIも後援団体として参画し、オスロ大学で開催された。
 また、同大学内でSGI主催の「被爆者と青年の対話イベント」も開かれ、ICANのメリッサ・パーク事務局長や日赤長崎原爆病院の朝長万左男・名誉院長らが登壇している。

原爆投下80年となる2025年

 戸田城聖・第2代会長は後継の青年たちへの〝第一の遺訓〟として「原水爆禁止宣言」(1957年)を発表した。
 これこそが創価学会の核廃絶への運動の原点である。国連をはじめとする国内外の団体や運動が創価学会を信頼して連携してきたのは、池田SGI会長のリーダーシップによって、民衆の手で常に具体的な実践をしてきたことに加え、創価学会が「民衆の連帯で国家悪を超える」世界的な運動だからだ。

 2025年は原爆投下から80年の歴史的な節目であり、第二次世界大戦終結80年でもある。
 公明党の斉藤鉄夫代表は、11月27日に首相官邸に石破茂首相を訪ね、原爆投下80周年を踏まえた「緊急要請」を手渡した。

この中で斉藤氏は、来年3月にニューヨークの国連本部で開かれる核兵器禁止条約の第3回締約国会議に、日本がオブザーバーとして参加するよう求めました。

これに対し石破総理大臣は「『核の傘』によって安全が保障されているドイツは締約国会議にオブザーバーとして参加しており、その経緯などを検証する必要がある。唯一の戦争被爆国である日本が最も強い説得力を持つ」と応じたということです。(「NHK NEWSWEB」11月27日

 思えば1975年に広島で開催された創価学会の第38回本部総会で講演した池田SGI会長は、核廃絶をめざす首脳会議を被爆地・広島で開催することを提唱した。
 2023年5月、広島で開催されたG7(主要先進7か国)首脳会議では、バイデン米国大統領はじめG7首脳、オブザーバー参加したG20の首脳、特別に招待されたウクライナのゼレンスキー大統領も、広島平和記念資料館を見学し、慰霊碑に献花した。

 核兵器のない世界を願う世界の人々、なかんずく次世代にとって、創価学会のような歴史・規模・実績を持った世界市民の連帯は、おそらく他に見当たらないはずだ。
 重要な節目となる2025年、世界各国の創価学会青年部の手で、核廃絶への世界世論を一段と高めていくことを期待したい。

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あおやま・しげと●ライター。著書に『宗教はだれのものか』(2002年/鳳書院)、『新装改訂版 宗教はだれのものか』(2006年/鳳書院)、『最新版 宗教はだれのものか 世界広布新時代への飛翔』(2015年/鳳書院)、『新版 宗教はだれのものか 三代会長が開いた世界宗教への道』(2022年/鳳書院)など。WEB第三文明にコラム執筆多数。