合意形成に動いた公明党
第216臨時国会が12月24日に会期末を迎えた。10月の衆議院選挙で自公は過半数を割る少数与党となり国会運営を危ぶむ声もあった。
だが振り返ってみれば、野党とも合意形成を図ったうえで、「政治改革関連法案」や補正予算の成立などを果たすことができた。与野党間の合意形成において、公明党が持ち味を発揮できたと思う。
まず、「政治改革関連法案」では、
①政治資金規正法改正案(「政策活動費」の全面廃止)
②第三者機関設置法案(政治資金監視委員会の国会設置/未記載や虚偽記入などへの調査・是正・公表)
③政治資金規正法改正案の修正案(収支報告書のオンライン提出義務化)
④歳費法改正案(旧文通費の使途公開/未使用分の返還義務化)
といった内容で、自民、公明、立憲民主などの賛成多数で17日に衆議院を通過。24日に参議院で成立する。
第三者機関の設置は、自民党内での収支報告書未記載が問題化した直後の2024年1月、他党に先駆けて公明党が「政治改革ビジョン」として提案していたものだ。
政党や議員の政治活動には一定のコストがかかることは当然で、「政治とカネ」をめぐって国民の疑念を払しょくし不正を防止するには、専門性を持った第三者機関がチェックする仕組みと、収支報告書のデジタル公開が不可欠だと公明党は考えてきた。
今回、自民党案では不十分だと考えた公明党は、野党の国民民主党の案に乗るかたちで、結果として自民党との3党合意の橋渡しをした。
もちろん、少数与党になったうえ公明党も大きく議席を減らしたがゆえの選択であったのは事実だが、〝政策で足並みをそろえる〟ことは公明党にとっても国民民主党にとっても、意義のある経験になるだろう。
労組からの献金は受けたい立憲民主党
一方、今国会で見送りになり議論の継続となったのは、政党資金の「入り」の部分である。「企業・団体献金禁止法案」については、年度末までに結論を得るというかたちになった。
立憲は企業・団体献金を「改革の本丸」とうたい禁止法案を提出。企業献金を死守したい自民に揺さぶりをかけてきた。しかし、しだいに野党内の足並みが乱れ、押し通しきれなくなったのが実態だ。(「朝日新聞デジタル」12月17日)
立憲民主党は企業・団体献金を禁止すると主張する一方で、例外規定として「政治団体」からの献金は認めるとしている。
立民としては、支援を受ける労働組合に賛同する個人が政治団体を組織し、そこから献金を受ける余地を残しておきたい思惑が透ける。(『産経新聞』12月10日)
こうしたダブルスタンダードともとれる立憲民主党の主張には、自民党だけでなく他の野党からも批判が相次いだ。
なお、「企業・団体献金の禁止」に関して、12月22日のNHK「日曜討論」に出演した自民党の小野寺五典政調会長は、
有識者から意見を聴取することも選択肢との考えを示した。公明党の岡本三成政調会長、国民民主党の浜口誠政調会長も同調した。(「時事ドットコム」12月22日)
半年で〝変節〟した立憲民主党
さらに立憲民主党が〝変節〟したのが政治資金パーティーをめぐる対応だった。
今年前半の通常国会会期中の5月20日、同党は「政治資金パーティーの開催の禁止に関する法律案」を衆議院に提出していた。その渦中で、党幹部である岡田幹事長や大串選対委員長(当時)らが政治資金パーティーを開催しようとしていたことが非難を浴びたことも記憶に新しい。
この時、出演したテレビ番組で「成立していないとはいえ、法案をまとめた側の道義的、政治的責任は既に発生している」と岡田氏や大串氏を党内から批判したのが、現在の幹事長である小川淳也氏だった。
だが政治資金パーティーについては、立憲民主党の小沢一郎氏も禁止には反対の立場だ。清廉潔白で知られる岡田幹事長でさえ、平成13年(2001年)から令和5年(2023年)までの23年間に政治資金パーティーで得た収入は合計18億円にのぼる。
国会議員の政治活動には多額の経費がかかり、その収入の道を閉ざしてしまえば特別に裕福な人間しか議員を務められなくなる。
立憲民主党は自民党の反対で絶対に法案が通らないことを見越して、パフォーマンスでパーティー禁止法案を提出したのではないかという声も聞こえていた。
案の定というか、この臨時国会で立憲民主党が提出した法案からは、「政治資金パーティーの全面禁止」が消えていた。
12月10日の定例会見で、記者から「なぜ消えたのか」と質問された小川幹事長は次のように答えた。
一連の騒動のなかで、これは企業団体献金という、あるいは企業団体によるパーティー券購入という一部の問題にとどまらず、このパーティー方式、収益率9割、20万円まで誰が買ったかわからない、という方式そのものに全面的に向き合うことが、当時の国民世論に対する誠意だという判断があったと。当時まあ(私は)執行部にはいませんが、そう受け止めています。
それから若干年月を経て、そして総選挙を経、ある意味、少し頭を冷やして、一方で彼らの言う政治活動に一定の資金が必要で、それをいかに透明化するかと、いうことが冷静な論点として浮かび上がってると。最近の情勢もちゃんと見なきゃいけないとは思っています。(「立憲民主党公式チャンネル」12月10日)
わずか半年前は「パーティー全面禁止」法案を出すことが〝国民世論に対する誠意〟だったが、今になって頭を冷やしたら、やっぱりパーティーは必要かもしれないというのである。言い訳をするにしても、あまりにもお粗末すぎないだろうか。
かつての民主党は2009年の衆議院選挙の公約に「政治資金パーティー禁止」を掲げて政権交代を果たしながら、1年後にはあっさりと解禁に踏み切った前歴がある。
「政治とカネ」をめぐる問題については、政治が有権者の信頼を取り戻す1丁目1番地だ。野党第一党があいかわらず、実行する気もない口先だけの空手形を切るようなことでは困る。
「103万円の壁」は継続協議を確認
24年度の補正予算も17日の参議院本会議で、自民、公明、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決・成立した。
これには、物価高対策としての来年1月~3月の電気・都市ガス代補助(3194億円)のほか、地域の実情に応じた物価高対策のきめ細かい支援の財源として、自治体が独自に使用できる「重点支援地方交付金」(1兆908億円)が計上されている。
地震と大雨で大きな被害を受けた能登半島の被災地復旧・復興などに6677億円が計上された。いずれも公明党の主張が反映されたものだ。
なお、17日におこなわれた「年収103万円の壁」をめぐる与党と国民民主党の6回目の税制会議では、国民民主党がわずか10分で退席した。
19日、公明党中央幹事会に出席した斉藤鉄夫代表は、
「103万円の壁」の引き上げを巡り、国民民主党から合意を無視したとの声が出ているが、全くそのようには考えていない。178万円をめざして協議を進めていくという合意があるので、引き続き誠実に協議を進めていく。これが公明党の考え方だ。(『公明新聞』12月20日)
と「誠実な協議の継続」を明言。赤羽税調会長からも、
いっぺんに178万円にできないことは、3党幹事長の中で共通認識がある。知恵を出し合っていかないといけないので、まず第一段階として123万円を提示した。国民民主の意見もしっかり聞いて議論を詰めたかったが、6回目で席を立たれてしまった。与党の側から協議を打ち切った認識はないし、国民民主側との議論ができるならば、引き続き進めていきたい。(同)
との発言があった。
19日には、自公の税制協議会が開かれ、2025年度与党税制改正大綱に盛り込む項目について合意。20日の政策責任者会議で決定をみた。
主な内容は、
①高校生年代の扶養控除の維持
②住宅ローン控除の上乗せ1年延長
③年収「103万円の壁」を来年から「123万円」に
④特定扶養控除の子どもの年収要件を103万円から150万円に
⑤中小企業の軽減税率特例を2年延長
である。
翌12月20日、自民、公明、国民民主の3党は幹事長会談を開催。国民民主党が求めている「103万円の壁」について、協議を継続していくことで合意し、確認書を交わした。
会談で公明党の西田実仁幹事長からは、
私から、誠実に協議をつづける以上、与党税制改正大綱にも明記すべきだと主張し、森山幹事長にもご理解いただき、与党としてまとめた。与党の意思として受け止めてもらいたい。引き続き協議したい。(『公明新聞』12月21日)
との意向が国民民主党に伝えられた。ここでも、公明党が合意形成に努力したかたちだ。
社会を分断してはならない
国民民主党が恒久的な財源を示さないまま178万円への引き上げを主張していることには、新聞各紙の社説も揃って厳しい論調だ。
国民民主が公約した75万円の引き上げ幅は、明らかに過大だ。約30年で最低賃金が7割上がったのが根拠というが、物価上昇率を参照するのが筋だろう。それなら引き上げ幅は1割ほどだ。
基礎控除を一律で75万円増やせば、住民税も含め年7兆~8兆円の減税になり、財政に大穴があく。高所得者ほど減税額が大きく、所得再分配も損なう。非課税枠は、税率構造や金融所得課税など所得税全体のあり方と合わせて丁寧に議論すべきだ。(『朝日新聞』「社説」11月2日)
非課税枠を178万円にまで広げた場合、政府は、国と地方合わせて7兆~8兆円の税収が減ると試算している。巨額の税収減による行政サービス低下を避けるには別途財源が必要だ。
政府・与党は近年、当初予算と補正予算の主要財源を国債発行に頼ってきたが、日銀が利上げ方向にかじを切り、利払い費の大幅増加に直結する安易な国債増発がもはや許される状況ではない。(『東京新聞』「社説」12月14日)
178万円という水準はインフレ調整の枠を超えた減税政策である。そうであれば財源を確保し、行政が混乱しないようにするのが責任政党のあり方のはずだ。(『日本経済新聞』「社説」12月20日)
国民民主は「経済が活性化して税収も増える」と主張するが、楽観的過ぎる。来年の参院選目当てのアピールなら無責任だ。与党も国民民主案を丸のみして財源を置き去りにすべきではない。(『毎日新聞』「社説」12月21日)
国と地方で7兆~8兆円の減収になるとの試算を踏まえた財源確保も納得できる具体策を示さなかった。
これでは無責任である。税制改正を担う政党としての自覚に欠け、「対決より解決」という看板も色あせて見える。(『産経新聞』「主張」12月21日)
国民民主の古川元久代表代行は12月22日になって、テレビ番組で財源案のひとつとして「地価税」を挙げた。かつてのバブル時代に実施されていた税制で、大口の土地所有者に課税するというものだ。
しかし〝減税〟するために〝増税〟するというのでは、いよいよ何をやっているのかわからなくなる。
与党とりわけ公明党は、国民民主党との合意形成に誠実に向き合っていく姿勢を崩していない。この問題で各党の支持者同士が互いを罵倒しあうようなことは不毛である。社会を分断しないためにも、与野党の賢明な議論と合意形成を期待する。
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