①公明党・斉藤代表が「婚姻の完全平等を求める」と初の公式見解
②同性婚をめぐる訴訟で、現行規定を「違憲」とする高裁判決が連続している
③先進諸国を筆頭に世界では38カ国・地域で同性婚が法制化されている
④法制化に反対する主な意見には、合理的な理由が見当たらない
⑤日本でも国民の過半数が(29歳以下では9割が)法制化に賛成している
⑥高裁判決は「国会の不作為」を浮き彫りにしている
⑦与党・公明党には国会での合意形成の期待が寄せられている
斉藤代表「婚姻の完全平等を求める」と明言
12月17日、定例記者会見に臨んだ公明党の斉藤鉄夫代表。福岡高裁で「同性婚が認められていない現行制度は憲法違反」との判決が出たことについて、以下のように発言した。
先週13日、福岡高裁で「同性婚を認めないことは憲法違反」との判決が下されました。札幌高裁、東京高裁に続きまして、これまでの3件の高裁判決すべてで「違憲判決」となったわけでございます。
福岡高裁は「憲法13条に違反する」という初めての判断を示しました。同性カップルに異性同士と同じ婚姻制度を認めなければ、憲法違反の状態は解消されない。このように言及したわけでございます。
これまで公明党は、同性婚につきましては、国民的議論を深め同性婚の法整備を進めると訴えてまいりましたが、「婚姻の完全平等に向けて法整備を進めていくべきである」と、改めて申し上げたいと思います。明日18日に党の「性的指向と性自認に関するプロジェクトチーム」、谷合(正明・参議院会長)さんが座長ですけれども、このプロジェクトチームで当事者グループや役所から早速ヒアリングをおこなうところでございます。
今後、こういう議論が国会のなかでも広がり、合意形成ができるように、公明党としてもしっかり頑張っていきたいと思います。
(公明チャンネル「斉藤代表 定例記者会見」12月17日 ※下線は筆者)
公明党代表から公式見解として〝婚姻の完全平等を求める〟と明言されたのは初めてのことである。
以下、現在全国で同時進行している「同性婚訴訟」について、各地の高裁が連続して現行制度に対し「違憲」判決を下している背景を説明したい。
とりわけ、今回の福岡高裁が初めて憲法13条の「幸福追求権」に言及した意味は大きい。
すでに全世代への世論調査でも過半数が同性婚の法制化に「賛成」し、とくに29歳以下では9割を超す人々が「賛成」している。
斉藤代表が会見で「婚姻の完全平等」という言葉を使ったように、この問題は特定のセクシュアリティを持つ人々の特殊な問題ではなく、あらゆる人に婚姻の権利が与えられるという普遍的な人権の問題なのだ。
公明党は結党以来、どの党よりも人権を重視し、今も「生命・生活・生存」を最大限に尊重すると掲げている。だからこそ、議員のみならず党員・支持者も「婚姻の平等」への理解を深め、党の合意形成を力強く後押ししていってもらいたいと思う。
3例目となった高裁の「違憲」判断
すべての人に〝婚姻の自由〟を認める「婚姻の平等」をめぐる問題で、司法から踏み込んだ判断が続いている。
12月13日、福岡高等裁判所は「国が同性同士の婚姻を認めていないのは憲法13条・14条・24条に違反する」との判決を下した。
日本国憲法は、13条で「幸福追求権」、14条で「法の下の平等」、24条で「婚姻の自由」「個人の尊厳と両性の平等に基づいた家族法の制定」を定めている。
【日本国憲法】
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
この裁判は、同性同士の婚姻が認められていないのは憲法違反だとして、福岡県と熊本県に住む同性カップル3組が国を訴えていたもの。
1審の福岡地方裁判所は、
同性カップルに婚姻制度の利用によって得られる利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない本件諸規定はもはや個人の尊厳に立脚すべきものとする憲法24条2項に違反する状態にある。(福岡地裁判決要旨/「ハフポスト日本版」編集部2023年6月8日)
と「違憲状態」にあると判断した。ただし、憲法制定時には同性婚が想定されていなかったとして、同性婚を24条の「婚姻」に含むことは困難とした。
また、「原告らが婚姻制度を利用できない不利益は憲法13条に反するとまでは言えないものの」「個人の尊厳に立脚すべきものとする憲法24条2項に違反する状態にあると言わざるを得ない」と判断していた。
高裁が「幸福追求権」に言及した重み
同性婚をめぐっては、全国5つの地方裁判所で6件の訴訟が同時に争われてきた。地裁の判断は、札幌地裁と名古屋地裁が「違憲」、東京地裁の2件と福岡地裁が「違憲状態」、大阪地裁が「合憲」としていた。
いずれも高等裁判所に控訴され、札幌高裁は2024年3月に「憲法14条と24条1項、2項に違反する」、東京高裁は2024年10月に「憲法14条と24条2項に違反する」として、「違憲」との判決を下してきた。
2025年3月には、名古屋高裁と大阪高裁でも判決が出る予定だ。
このたびの福岡高裁は、これまで認められていなかった「憲法13条」(幸福追求権)に初めて言及し、婚姻制度の利用が同性同士に認められていない現状は13条、14条1項(法の下の平等)、24条2項(個人の尊厳と両性の本質的平等)に〝違反〟するとした。
一連の同性婚訴訟のなかで、高裁が「幸福追求権」に関しても現状を「違憲」と認めた意義は大きい。
福岡高裁判決では、まず人々の「性的指向」(恋愛や性愛、性的魅力を感じる対象となる性別)について、
性的指向は、出生前又は人生の初期に決定されるものであって、個々人が選択できるものではなく、自己の意思や精神医学的な方法によって変更されることはない(福岡高裁判決要旨/「ハフポスト日本版」編集部12月13日)
と明記した。
そのうえで、
互いに相手を伴侶とし、対等な立場で終生的に共同生活をするために結合し、新たな家族を創設したいという幸福追求の願望は、両当事者が男女である場合と同性である場合とで何ら変わりがない(同)
にもかかわらず、両当事者が同性である場合の婚姻について法制度を設けず、法的な保護を与えないことは、異性を婚姻の対象と認識せず、同性の者を伴侶として選択する者が幸福を追求する途を閉ざしてしまうことにほかならず、配偶者の相続権などの重要な法律上の効果も与えられないのであって、その制約の程度は重大である。(同)
とし現行規定の問題を指摘した。
幸福追求権としての婚姻の成立および維持について法的な保護を受ける権利は、男女のカップル、同性のカップルのいずれもが等しく有していると判断したのである。
合理性を欠く「反対」理由
あらゆる人に婚姻の自由を認める「婚姻の平等」は、今世紀に入って世界的な潮流になりつつある。先進主要7カ国では、すでに日本を除くすべての国で同性婚が合法化されており、性的差別を禁じる法制度も整備されている。
アジアでも台湾(2019年)、ネパール(2023年)に続き、先ごろタイでも合法化され、2025年1月22日をもって施行される。世界全体では、タイを含めると38カ国・地域で合法化されている。
日本では「伝統的家族観の崩壊につながる」「少子化が加速する」「同性婚カップルに育てられると子どもに悪影響が生じる」といった主張で保守派が反対しているほか、憲法24条の条文にある「両性の合意のみ」を〝男女の合意〟だとして反対する声、婚姻は生殖を目的とするものなので同性間には不要といった声さえある。
しかし、まず「婚姻の平等」を同性カップルにまで広げたところで、従来の異性カップルの婚姻が何ら影響を受けるものではない。したがって、これまでの家族観が崩壊するわけでもないし、出生数が減る理由もない。事実、これまで同性婚を認めた国や地域で出生数が減ったという有意な統計はない。
また、子どもの健全な発育に父親と母親が必要だという主張は、父親のみ/母親のみで子育てをしているシングル親の家庭や子どもに対する侮蔑であることを自覚すべきであろう。
同性カップルの養育に関する研究は国際的に数多く進んでいるが、両親が異性カップルでも同性カップルでも子どもに対する変化はないと結論付けられている。
さらに、夫や妻と死別や離婚したあと子どもを連れて同性パートナーと暮らすなど、実態としては日本でも同性カップルに養育されている子どもは一定数存在している。婚姻の平等が認められないことは、こうした子どもたちの権利を大きく阻害することにもなる。
憲法24条の「両性の合意のみ」の文言は、婚姻が家同士の取り決めで成立していた旧憲法に対し、結婚する当事者のみの合意でよいと定めたものだ。たしかに憲法制定時には同性婚までは想定されておらず、これまで国はこの条文を盾に同性婚法制化を拒んできた。
だが、2024年3月の札幌高裁判決では、24条1項についても、
人と人との間の自由な結びつきとしての婚姻をも定める趣旨を含むものであって、異性間の婚姻のみならず、同性間の婚姻についても、異性間の場合と同じ程度に保障していると考えるのが相当である(札幌高裁判決要旨/「ハフポスト日本版」編集部3月14日)
と、「両性」の文言には異性間も同性間も等しく含まれるべきとの考えを示している。
したがって、もはや「両性」を異性間のみと解釈することはできない。
また、異性間の婚姻においても、必ずしも生殖を目的としない(あるいは年齢や身体的事情で生殖の可能性がない)結婚は珍しくないわけで、「妊娠・出産ができない」ことを理由に同性婚を排除する合理的な理屈は成り立たない。
なお、わざわざ同性カップルにまで婚姻の自由を認めずとも、すでに自治体などではパートナーシップ制度があるからいいではないかという意見が、一部当事者などからもある。
しかし、「婚姻」と「パートナーシップ制度」では、相続権など認められる法的権利や制度的保障に大きな差がある。なにより、特定の人々の結びつきにだけ格差を強いるという発想そのものが差別的なのだ。
札幌高裁判決でも、
同性と婚姻することができず、これによる制度的な保障が受けられないことから、異性愛者の場合に異性との婚姻の成立によって享受可能となる様々な制度が適用されないという著しい不利益を様々な場面で受けている。(同)
と、その不当性を糾弾している。
高裁判決が示した「国会への怒り」
さて、一連の高裁判決が突き付けているのは〝立法府の不作為〟なのだ。法制度を整えるのはあくまで立法府の仕事であるのに、国会がそれを怠ったままにしていることへの批判である。
福岡高裁判決は、報道機関各社などが実施した最新の世論調査で、同性婚を認めるべきとする回答が過半数を大きく上回って、反対がいずれも25%程度しかないことを指摘し、地裁判決文に加えるよう指示した。
産経新聞社とFNNが実施した調査では、賛成71%、反対19.6%であり、18~29歳では賛成が91.4%に達していることが、判決文でも取り上げられている。
同時に、この福岡高裁判決について駒村圭吾・慶應義塾大学教授は、
国会がほぼ何もしていない状況への疑念や怒りが感じ取れる(「NHK NEWSWEB」12月13日)
と指摘する。
今や国際的にも「婚姻の平等」が先進国の主流になり、国内世論も圧倒的に「賛成」に傾いている。それでもなお現状が変わらないのは、立法府の怠慢と不作為でしかない。
3つの高裁が立て続けに「違憲」と判断したことは重く、最高裁判決にも大きな影響を与えるはずだ。もはや国会は最高裁判決を待つのではなく、速やかに仕事をすべきであろう。
じつは公明党は、「性的指向と性自認に関するプロジェクトチーム」の谷合正明座長が選挙直前の9月20日のイベント(LGBTとアライのための法律家ネットワーク、ベルギー大使館の共催)で、
「異性間の婚姻と同性間の婚姻を完全に平等にするべきだ」とも述べ、国会の議論を活発化させていく考えを示した。(『公明新聞』9月22日)
と見解を述べている。
また、山口那津男代表(当時)も、9月21日に公開した公明党チャンネルで、
私は賛成なんです。(Youtube「公明党チャンネル」)
と述べている。
立憲民主党、日本維新の会、れいわ新撰組、日本共産党、社民党が同性婚法制化に「賛成」している一方、国民民主党は「議論を進める」という立場。自民党内には反対論が根強く、参政党は「反対」と表明している。
公明党はこれまで「国民的議論を深め同性婚の法整備を進める」という立場だったが、今般、斉藤代表がいよいよ公式見解として「婚姻の完全平等を求める」ことを明言した。
公明党の具体的行動への期待
今回の福岡高裁判決を受けて、谷合正明・参議院会長は、
札幌、東京に続き、福岡でも高裁判決で違憲となりました。
記者からコメントを求められましたので、一連の訴訟で憲法13条違反の判断は初めて、婚姻の完全平等に向け法整備を進めるべきと答えました。
来週、公明党性的指向、性自認に関するPTを開催します。(12月13日の谷合議員のポスト)
と自身のXに投稿。
すると、著名な法学者である南野森・九州大学教授が、谷合議員の投稿にかぶせて、
公明党が与党にいる意味の一つが、このような少数者の人権問題の解決を早めるということではないかと思います。谷合議員のコメントはまさにその通りで、公明党の早急かつ具体的な動きに期待しています。(12月14日の南野教授のポスト)
とXに投稿した。
公明党が与党にいてくれてよかったと、多くの国民が実感できるように、合意形成に向けた粘り強い努力をお願いしたい。
同時に、日本最大級の青年集団である支持母体の創価学会青年部の方々も、〝すべての人の権利に関わる問題〟だという認識で、理解を深めていってほしい。
公明党の国会議員・地方議員の方々も、今般の斉藤代表の発言をきちんと受け止めて、「婚姻の完全平等」が実現する日本社会へ行動していっていただければと思う。
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シリーズ:「わたしたちはここにいる:LGBTのコモン・センス」(一部公開)
第1回 相方と仲間:パートナーとコミュニティ
第2回 好きな女性と暮らすこと:ウーマン・リブ、ウーマン・ラブ
第3回 フツーを作る、フツーを超える:トランスジェンダーの生活と意見(前編)
第4回 フツーを作る、フツーを超える:トランスジェンダーの生活と意見(後編)
第5回 社会の障壁を超える旅:ゆっくり急ぐ
第6回(最終回) 【特別対談】すべての人が自分らしく生きられる社会に