沖縄伝統空手のいま 道場拝見 第7回 沖縄空手の名門道場 明武舘(剛柔流)〈下〉

ジャーナリスト
柳原滋雄

国際色豊かな大人クラス

一般クラスのサンチン。八木館長が後ろから気合を入れる

 子どもクラスの稽古が終わるとそのまま中学生以上の一般クラスに移る。一般クラスは子どもと同じく火・木・土に加え、日曜を入れた週4回(時間は19時から20時半までの1時間半)。
 通常の稽古は20人くらいというが、この日は海外からカザフスタン、フランス、イギリス、カナダのメンバーが加わり30人以上の大人数となった。それでもぎりぎり練習できるくらいのスペースが確保されている。
 定刻の午後7時をやや遅れてスタート。まずは「サンチン」の型から始まった。子どもも大人も、型はサンチンから始まる。呼吸に力点が置かれ、呼吸と体の動きを合わせることを目的とする剛柔流の基本型だ。
 沖縄剛柔流は弟子の系統の流れから大きく3つの系統(比嘉世幸系統、八木明徳系統、宮里栄一系統)に分けられるが、八木明徳系のサンチンは最後の虎口(とらくち、一般には「回し受け」ともいう)を1回しか回さない。

約束組手。相手の中段突きを下段払いで受けているところ

 サンチンを終えると一対一の相対稽古に移った。一方が突き、一方が受ける約束組手である。上段突きを上段受けで受け、中段突きを四股立ち下段払いで受ける。さらに手刀おろし打ちを上段受けで受け、逆手刀(手刀内打ち)を上段受けで受ける。
 次は小手鍛えとなった。さらに剛柔流の特徴でもあるカキエーが始まる。腕と腕を互いに向かい合って掛け、押し合い引き合いを行う。
 その間、八木明人館長は流ちょうな英語を使い、外国メンバーに適切に指導する。館長の英語はカナダ仕込みだ。
 祖父の八木明徳、父の八木明達(やぎ・めいたつ 1944-)につづく3代目として、3歳で空手を始めた。祖父の指導は優しかった思い出ばかり。中学に入ると、父親の指導に代わった。高校では空手部に入り、競技空手(組手)にものめり込んだ。高校卒業後、カナダへ。30歳で3代目館長を引き継ぐと、英語の重要性を痛感し、再度カナダのトロントやバンクーバーで1年間空手指導をしながら英語を学んだ。英語はその時代に培ったものだ。

四方約束組手のシーン

 国際明武舘は30カ国に100を超える支部道場を抱える。海外の空手家が定期的に本部道場の沖縄に〝出稽古〟に訪れるのは、他の道場と変わらない。
 新型コロナ禍が広がるまで3年近く東京で支部建設の活動を続けていたが、常設道場を開いてこれからというときにコロナ禍による自粛期間が広がった。道場を閉めて沖縄に戻り、いまは沖縄の本部道場を中心に指導する。
 稽古に話を戻すと、四方に敵を見立てた上中下の〝四方組手〟に移っていた。帯が上のほうから1人ずつ中に入り、上中下の高さで4人と続けざまに約束組手を行う。約束とはいえ、実戦さながらのスピードと力がぶつかる激しく攻防だ。それらが終わると休憩時間に入った。

「撃砕」から「転掌」まで

海外メンバーに個別に指導する八木明人館長

 後半は型稽古となる。日本と海外メンバーに分かれてそれぞれ行った。最初に日本メンバーが「撃砕1」と「撃砕2」を行う。
 次に海外メンバーが同じ「撃砕1」と「撃砕2」を行った。やはり海外メンバーのほうが動きにばらつきがあるのが私にもわかる。
 つづけて日本メンバーが「サイファ」と「シソーチン」。続けて海外メンバーと入れ替わり、同じく「サイファ」と「シソーチン」を行った。八木館長が英語で説明を加える。
 さらに「サンセールー」と「セーサン」。入れ替わって同じことを海外メンバーも繰り返す。ここで海外メンバーから多くの質問が飛び出した。
 それが終わると、こんどは全員で「天地の型」(身を守る型)を行った。八木明徳が独自に創案した型という。
 最後に「サンチン」と並んで剛柔流の重要な型とされる「転掌(てんしょう)」を行った。

ここまでにしましょうね

 館長が告げると、この日の稽古は終了した。3週間の滞在の最終日となったカナダのメンバー5人が英語であいさつする。
 板張りの道場には汗が滴ってその部分だけ色が変わっていた。

宮城長順が独自につくった型「転掌」

 2代目館長の父・八木明達も若い頃から海外生活が長かった。アメリカ、グアム、サイパン、フィリピンなど主に英語圏を転々としながら、海外セミナーを2000回以上開催。以前、その八木明達に取材した際、八木家の祖先が久米三十六姓にあることを耳にしていた。かつての久米一帯は〝離れ島〟で、長崎の出島のような感じだったと説明された。
 明武舘道場の位置する久米からさほど遠くない場所(那覇商業高校近く)に松山公園がある。宮城長順の自宅からも近かったその公園内に、東恩納寛量(ひがおんな・かんりょう 1853-1915)と宮城長順の顕彰碑が設置されている。2022年11月、公園入り口に近い場所に八木明徳の顕彰碑も建てられた。
 3代目館長の八木明人は現在、沖縄4大空手組織の1つで父親の明達が会長を務める「沖縄空手・古武道連盟」の理事長を務める。(文中敬称略)

「国際明武舘剛柔流空手道連盟 総本部 八木道場」(沖縄空手ナビ)

一般クラスの集合写真

※沖縄現地の空手道場を、武術的要素を加味して随時紹介していきます。

シリーズ【沖縄伝統空手のいま 道場拝見】:
①沖縄空手の名門道場 究道館(小林流)〈上〉 〈下〉
②戦い続ける実践者 沖拳会(沖縄拳法)〈上〉 〈中〉 〈下〉
③沖縄空手の名門道場 明武舘(剛柔流)〈上〉 〈下〉

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。