自壊しゆく「日本維新の会」――〝相手陣営に偽装潜入〟の衝撃

ライター
松田 明

事務局長が相手陣営に偽装潜入

 わずか10日前に千葉市議会で、市議による請願書の偽造が発覚した「日本維新の会」で、ふたたび信じられない不祥事が発覚した。
「日本維新の会」の京都4区支部長であり、衆議院京都4区公認予定者だった松井春樹氏が、9月24日付で同支部長を辞任し「日本維新の会」を離党した。
 松井氏は京都府出身。26歳という若さと東京大学法学部卒業の弁護士であることをセールスポイントに掲げ、2023年6月に公認候補予定者である支部長に就任したばかり。10月30日に亀岡市で開かれた演説会には、日本維新の会共同代表である吉村洋文・大阪府知事も駆けつけている。
 突然の立候補取りやめと離党に至った理由は、衝撃的なものだった。
 松井氏の個人事務所で最初期から「事務局長」をつとめる男性が、昨年12月から同じ京都4区選出の北神圭朗衆議院議員の事務所に、偽名を使い大学生を装ってボランティアとして潜入。街宣活動、ポスターの貼り換えや電話かけなどの活動に従事していたことが明らかになったというのだ。
 週替わり、日替わりで「不祥事」が続く「日本維新の会」ではあるが、陣営の事務局長が対立候補の事務所に偽名で潜り込んで活動していたというのは、さすがに前代未聞の出来事である。ネット上には「あり得ない」「信じられない」という声が溢れた。

外部からの指摘があり、日本維新の会が23日、松井氏本人から聴き取りをしたところ、事実関係をおおむね認め、「恣意(しい)的に行ったことではないが事務局長はもともと友人関係で止められなかった」と説明したということです。(「NHK 京都NEWSWEB」9月25日

不法行為を把握しながら黙認

 松井氏が自身のXに投稿した弁明によると、この男性は事務局長として松井氏の政治活動を支えていた小学校の同級生だという。

昨年の12月頃、事務局長より私に相談がございました。「偽名で他陣営の候補とラインを交換しており、他陣営から街宣活動に誘われている」という内容でした。私はもちろん「やめてくれ。リスクでしかない。」と強く反対しました。その後に本人に確認すると街宣に実際に参加したことが発覚し、その時にはさらに強く引き留めました。その後は話題にならず活動は辞めているものと考えておりましたが、3月に再度、別の話の流れで、政治塾への参加に加え、後援会行事の参加や選挙期間のサポートにも入ったことを聞くに及びました。関わりが深くなっていることに危機感を覚え、再度説得を試みましたが、彼の気持ちを変える事は出来なかったように思います。(「松井氏のXへのポスト」2024年9月24日

 松井事務所の事務局長である当該男性が偽名で対立候補に近づき、LINE交換して街宣活動に誘われていることを、昨年12月の時点で松井氏は本人から打ち明けられているのだ。しかも、その後、実際に街宣に参加したことも把握している。
「その後は話題にならず活動は辞めているものと考えておりましたが」という言い訳も話にならないが、3月の時点で「政治塾への参加」「後援会行事の参加」「選挙期間のサポートにも入ったこと」まで、松井氏は把握している。
 中学生や高校生ならいざ知らず、松井氏は現職の弁護士なのだ。当該男性の行為がもはや偽計業務妨害罪に該当する恐れの高い不法行為であることを理解していたはずである。しかも、この時点で松井氏は京都4区の候補予定者になっている。
 当該男性が考えを改めなかったというのであれば、すみやかに自身の事務所と男性との関係を絶ち(それでもスパイ行為の疑念は消えないが)、候補内定者である選挙区支部長に在籍し続けることの是非について、所属する「日本維新の会」に判断を求めるべきではなかったのか。

「彼とは連絡がつかない」

 しかし、松井氏は「お金も人もない中でボランティアであるにも関わらず多大な貢献をしてくれる彼を、東京から京都に戻り政治活動の最初から手伝ってくれた同級生の彼を失うことを恐れて」という理由で、そのまま当該男性を事務局長に据えたまま政治活動を続けた。
 自分の陣営の一番中心にいるスタッフが、相手陣営に偽名で潜り込んでボランティアをしていることを承知していた立候補予定者など、聞いたことがない。
 藤田文武幹事長の会見によると、この9月下旬に入ってメディアからの取材と相手陣営からのクレームで発覚。23日に党幹部らが松井氏にヒアリングをしたところ、当該男性の行為を〝黙認〟していたことを認めたという。
 事態が明らかになると、被害を受けた北神議員は「相手陣営の事務局長が素性を偽って偽名で当方の事務所に出入りすることは、名簿を奪われる恐れなどもあり、政党としても総括していただきたい」とコメントを出している。
 これに対し「日本維新の会」の共同代表である吉村大阪府知事は、「報道があるのは知っています。報道が事実ということであれば、他陣営に対しては申し訳ないと思いますし、あってはならないことだと思います」とコメントした。
 松井氏は24日のポストで、

その後彼と連絡がほとんどつかず、この件に関する詳細は私も未だ完全には把握できておりません。一部に、彼が名簿などを盗む目的で他の政治団体に近づいたのではないかとの疑いを持つ方もおられますが、少なくとも自分が聞いた範囲では、そういった不法行為は無かったと聞いていますし、それを信じたいと思います。(同上の松井氏のポスト)

と釈明している。なお、文末に「関係者の皆様に深くお詫びを申し上げます」としているものの、有権者への謝罪は一言もない。

不透明な飲み食いに党内から批判

 9月25日におこなわれた「日本維新の会」国会議員団役員会では、浅田均・参院会長と猪瀬直樹・参院幹事長が、執行部の問題点を追及した。
 浅田氏らが問題にしたことの一つは、党本部の政策活動費の不透明さ。「身を切る改革」と称して議員報酬の2割をカットさせている一方で、国会議員団の執行部だけは非公開の政策活動費で飲み食いを続けている。
 たとえば2023年11月と12月の政策活動費を開示したが、600万円を超す政策活動費のほとんどは飲食代で、支出先も1回あたりの会食費も塗りつぶしている(「日本維新の会 政策活動費 公開」2024年5月29日)。
 浅田氏らは「政策活動費」について党内に監査チームを作り、過去の支出まで遡って調べるよう要求した。
 9月22日におこなわれた大阪府摂津市選挙区での府議会補選でも維新の候補は敗北。同選挙区で維新候補が敗れるのは2010年の結党以来初めてという。同日におこなわれた摂津市長選挙でも、元維新府議だった候補が敗れている。
 ともかく次から次へと信じられない不祥事が続くのが「日本維新の会」だ。党内での内ゲバも過熱し、根深いハラスメント体質に離党者も止まらない。維新が擁立し「大阪以外で初の知事」と豪語してきた兵庫県の斎藤元彦知事は、目下、兵庫県政を大混乱に陥れている。
 耳当たりのいい言葉とハリボテの改革イメージだけで有権者を幻惑してきた「日本維新の会」。政治家になることを自分のキャリアアップ程度にしか考えていない人間ばかりをリクルートしてきたツケが、いよいよ回ってきたとしか言いようがない。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。