「オール沖縄」また敗北――閉塞感漂う日本共産党

ライター
松田 明

自民・公明推薦の候補が圧勝

 普天間飛行場を抱える沖縄・宜野湾市の市長選挙が、9月8日に投開票日を迎えた。今回の選挙は松川正則・前市長が7月に急逝したことに伴うものだ。
 選挙戦は、自公が推薦した佐喜真淳氏(60歳/無所属)と、オール沖縄勢力が推薦した桃原功氏(65歳/無所属)の事実上の一騎打ちとなった。
 佐喜真氏は、宜野湾市議や沖縄県議を経て2012年に宜野湾市長に当選。2期目だった2018年に沖縄県知事選に立候補するために辞職していた。桃原氏は、宜野湾市議8期目のベテラン。玉城デニー知事を支える「オール沖縄」が擁立を決めた。
 選挙結果は以下の通り。約8000票の大差で自民・公明が推薦した佐喜真氏が当選した。

佐喜真淳(無所属・元) 2万4173票(当選)
桃原功(無所属・新)  1万6195票
比嘉隆(無所属・新)     705票

 佐喜真氏は今回の選挙で、普天間飛行場の名護市辺野古移設容認を明確に打ち出した。普天間飛行場の基地負担が市政の最大の課題になっているとして、負担の早期軽減のために返還期日の確定や、所属機や訓練の県外への分散移転などを政府に求めることを訴えた。
 対する「オール沖縄」の桃原氏は、移設問題を前面に掲げることを避け、子育て支援や賃金アップの政策を訴えたが、市民には響かなかった。

辺野古移設を決めたのは民主党政権

 「オール沖縄」とは、辺野古移設反対を掲げて生まれたものだ。その「オール沖縄」候補が辺野古移設問題を避けたのは、近年の主要な選挙で「移設反対」を訴える「オール沖縄」候補が連敗していることへの危機感がある。
 復帰50周年となった2022年には、県内7つの市長選挙(名護市、南城市、石垣市、沖縄市、宜野湾市、豊見城市、那覇市)ですべて連敗。
 2023年は市長選も町村長選もなかったが、2024年6月の沖縄県議会選挙では、玉城知事の与党である日本共産党、立憲民主党などが敗北。「オール沖縄」結成以来はじめて知事の与党勢力が過半数を割り込む結果となった。
 そもそも、住宅密集地のなかにあって〝世界で最も危険な基地〟と言われてきた普天間飛行場の移設先を名護市辺野古に決定したのは、民主党政権なのである。
 民主党の代表だった鳩山由紀夫氏は、2009年7月、当時は衆議院選候補者だった玉城デニー氏の集会で、移設先を「最低でも県外」とぶちあげた。これが大きな反響を呼んで、8月の衆議院選挙で民主党は圧勝。政権交代が起きた。
 だが9カ月後の2010年5月、鳩山氏が首相を務める民主党政権は辺野古移設を閣議決定し、日米共同声明として発表した。「公約違反ではないか」と問われた鳩山首相は、「(県外移設は)党としての発言ではなく、代表としての私個人の発言」と開き直った。

沖縄を分断してきた日本共産党

 それでも、元自民党県会議員や那覇市長を務めた翁長雄志氏による当初の「オール沖縄」は、文字どおり保革の党派を超えた連帯だった。
 ところが日本共産党が県政与党になると、沖縄県と政府、そして沖縄県民どうしのあいだに、戦略的に「分断」「対立」「対決」が作り出されていく。日本共産党にとっては、沖縄県と日本政府が対立し続けてくれるほうが都合がいい。
 県下のさまざまな選挙でも、県民市民の暮らしや就労、教育福祉などより基地問題を争点にする。「基地反対派」対「基地推進派」の戦いという単純な図式にして、まさに社会を分断させてきたのだ。
 こうした「オール沖縄」の変質に嫌気がさして、多くの重鎮たちが離れていった。沖縄経済界の中心者として翁長氏の「オール沖縄」を支えた平良朝敬氏(かりゆしグループ会長)や、翁長雄志氏の後継として「オール沖縄」の支援で那覇市長を2期つとめてきた城間幹子氏らも離反。
 2022年の那覇市長選挙では、翁長雄志県政で副知事として「オール沖縄」側に身を置いた浦崎唯昭、安慶田光男両氏、城間市政で副市長を務めた久高将光氏らも、自公の候補の支援に回った。
 沖縄に寄り添うふりをして、自分たちの勢力拡大のために沖縄を分断するだけの日本共産党の実態に、今や多くの人々が気づき始めたのである。
 それを物語るように、宜野湾市長選での「オール沖縄」の得票数も、選挙のたびに減っている。

宜野湾市長選における「オール沖縄」候補の得票数
2016年 2万1811票
2018年 2万 975票
2022年 1万8458票
2024年 1万6195票

共産党と距離を置きはじめた立憲

 その日本共産党は、中央政界でも行き詰まりを見せている。
 目下、代表選挙へ候補が出そろった立憲民主党では、有力候補者の1人である枝野幸男氏が出馬会見で共産党との全国一律の衆院選協力を否定。あくまで地域ごとに連携を進める考えを示した。
 枝野氏は代表だった当時の2021年衆議院選挙で、日本共産党と連携を深めた結果、大敗。党の創業者でありながら責任を取って代表の座を降りた。
 さらに枝野氏は、2015年から日本共産党が主導してきた「野党共闘」の肝であった平和安全法制についても、

安全保障関連法について、「現状の運用は個別的自衛権で説明される範囲だ。法律は現状では問題ない」との認識を示した。(「時事ドットコム」8月28日

と発言した。2021年の衆議院選挙で野党4党と市民連合が交わした「野党共通政策」で謳っていた安保法制の廃止を、事実上、撤回したかたちだ。
 最有力候補と目されている野田元首相も、立候補を表明した日の会見で日本共産党との関係について聞かれ、

対話をできる関係ってのは私は必要だとは思います。ただ、これは政権取りに行って、 例えば同じ政権を一緒に担えるかっていうと、それは私はできないと思いますのでね。どういう対応をするかということだと思います。(『東京新聞』8月29日

と政権を共にすることはできないと否定した。
 さらに平和安保法制についても、

「すぐに変えていくことは現実的ではない」と継続させる可能性に言及。安保法制廃止は、立憲がかつての国政選挙で共産や社民党などと連携する際に掲げた「共通政策」だったが、これを見直す考えを示した形だ。(『朝日新聞』9月5日

と軌道修正を示した。

執行部批判と離党者が相次ぐ

 7月の東京都知事選挙で、立憲民主党支持層が日本共産党への忌避感を示した結果、蓮舫氏は事前予想を大きく下回る3位の惨敗に終わった。
 日本共産党と連携することは、仮に個別の選挙区で一時的に有利になることはあったとしても、全体で見れば失うもののほうがはるかに大きい。それは、中央での「野党共闘」と沖縄で「オール沖縄」をやったこの10年間の結果が物語っている。
 それ以上に深刻なのが、日本共産党内に広がる閉塞感と絶望感ではないか。日本共産党は、党内からの執行部への批判や提言に対して「除名」「除籍」「解雇」「公開でのつるし上げ」を連発。党内では〝粛清〟への恐怖感と重苦しい空気が広がっているのだ。
 2024年だけでも、3月には青森市議団で相馬純子議員が離党。埼玉県ふじみ野市議会の田中早苗市議も体調悪化を理由に離党。
 5月には埼玉県蕨市議会で「党員から複数回にわたり、パワハラやモラハラ行為を受けた」として宮下奈美市議が離党。6月には再び青森市議団で山田千里議員も離党。
 9月1日には、東京・東大和市議である尾崎利一氏が離党。東大和市は日本共産党の宮本徹・衆議院議員の選挙区だが、尾崎氏の離党によって同市の共産党会派は消滅した。
 翌9月2日には、茨城県取手市議団の佐野太一議員が「政策について民主的な議論を尽くして決定することができなかった」「ハラスメントと感じる事態が長く改善されなかった」などとして離党。
 どう考えても異常な数の離党者であろう。
 なお、日本共産党福岡県委員会が同党専従職員だった神谷貴行氏を「除籍」「解雇」した件については、福岡県はもとより東京や大阪など各地でも党員からの抗議行動が起きている。X(旧ツイッター)では、#日本共産党は神谷さんを解雇するな というハッシュタグで抗議の声が広がっている。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。