微笑ましい〝豆拳士〟たち
筆者は2018年の「第1回沖縄空手国際大会」は取材しているが、2022年の「第2回沖縄空手世界大会」「第1回沖縄空手少年少女世界大会」(同時開催)は見ていない。
今回の「第2回沖縄空手少年少女世界大会」では、最終日(8月12日)の決勝・準決勝のほか、前日(11日)に行われた本大会予選(海外・県外)を観戦することができた。
各部門(古武道を除く)とも「少年少女Ⅰ」は6歳以上7歳以下(小学生低学年)が対象となるが、〝豆拳士たち〟の可憐な演武ぶりは微笑ましさを感じさせた。
演武で使用された型名を記録すると、「首里・泊手系」で目立ったのは、小学生は「セーサン」や「ピンアン・初段~五段」、中学生では「セーサン」「パッサイ大(松村のパッサイ)」「パッサイ小(糸洲のパッサイ)」が目についた。この場合の「セーサン」は松村宗昆の弟子である喜屋武朝徳系のセーサンであり、那覇手系や上地流系の同名の型とは別種のものだ。
また、「那覇手系」は、小学生の低学年では「ゲキサイⅠ・Ⅱ」が目立ち、上がるにつれて「サイファー」や「セーユンチン」、中学生になると「シソーチン」「サンセールー」が混じった。
「上地流系」は、小学生低学年では圧倒的に「カンシュウ(完周)」、中・高学年になると「カンシワ(完子和)」や「セーチン(十戦)」となり、中学生は初段レベルの型とされる「セーサン(十三)」が目についた。
「古武道(棒)」では、「佐久川ぬ棍(小)」や「周氏(しゅうし)ぬ棍(小)」を中心に、「徳嶺(とくみね)ぬ棍」「朝雲(ちょーうん)ぬ棍」、さらに「公望(くぼう)ぬ棍」が演武された。
「沖縄空手」の〝冠〟のつく大会で、「上地流系」と「古武道」はまさに沖縄独自の流派・武術であり、沖縄本来の競技といってよい。問題は本土のスポーツ空手と型名が重なる「首里・泊手系」や「那覇手系」だ。実際、道場によっては教え方に困る面も生じていた。
青少年の場合、競技(試合)があってこそモチベーションが維持され、稽古を継続する要因にしやすい面も確かにある。だが競技に流されがちの環境下、閉会式で大会講評をした新垣良勝氏(首里・泊手系競技専門部会/部会長)は、「高得点を取るためでなく、先人の空手を受け継ぐものでなくてはならない」との手紙を受け取ったことを紹介し、「審判員の力量にかかっている」と力を込めた。
「首里・泊手系」では島袋3姉妹の同時入賞が脚光を浴びる(沖縄タイムス・8月13日付)。国際沖縄少林流聖武館空手道場に通う3姉妹で、島袋善保氏の孫にあたる、善俊氏の娘たちだ。長女・愛彩さんが「少女Ⅰ」優勝、次女・由彩さんは「少年少女Ⅲ」準優勝(=前回優勝)、3女・日南彩さんも「少年少女Ⅱ」優勝(=2連覇)の結果で、3人とも型は共通してセイサンを使った。
県外参加者が健闘した古武道
一方、県外勢の活躍が目立ったのが「古武道(棒)」だ。
特に筆者の目をひいたのは小学5年生で「少年少女Ⅲ」で優勝した伊藤展梧(てんご)君だった。決勝戦で同じ琉棍会選手との〝同門対決〟を制し、前回大会につづく2連覇を果たした。小さな体から繰り出す棒の動きがピタッと決まるさまが強く印象に残る。
さらに展梧君の兄で中学2年生の伊藤瑚太郎(こたろう)君も「少年Ⅰ」で3位入賞を果たした。弟の展梧君は「周氏ぬ棍」、兄の瑚太郎君は「朝雲ぬ棍」を演じた。
兄弟は棒を握って3年目。父親とともに琉棍会に所属し、同会三重県同好会で稽古する。沖縄総本部の伊波光忠館長からオンラインで指導を受けるなど稽古を続けてきた。空手のほうは3人とも本土の松濤館空手を行っているという。
一方、沖縄勢の意地を見せたのが古武道「少年Ⅰ」だ。この種目でベスト4に残った沖縄勢は独りだけ。優勝した同じ琉棍会の横田龍輝(りゅうき)君(総本部・中学2年)は、師匠が得意とする型「朝雲ぬ棍」で大会2連覇を果たした。将来は「警察官になるのが夢」と語る。
知事が主催する大会
今回、玉城デニー沖縄県知事(大会実行委員長)が会場に姿を見せたのは本大会予選の一部(11日)と本大会最終日(12日)だった。公務で「開会式」を欠席したが、表彰式・閉会式には自ら立ち合い、19人の優勝者に直接賞状を手渡した。また大会終了後に近くの「宜野湾トロピカルビーチ(出島エリア)」で行われたフェアーウエルパーティーにも姿を見せ、参加者をねぎらった。同じ会場には空手振興課初代課長の山川哲男さんの姿もあった。
なお、大会期間中の8月9~11日、「沖縄空手セミナー」が同時開催され、記者は劇場棟(壇上)で行われた知念賢祐・小林流10段(ワールド王修会)の2時間のセミナーを体験取材した。
スポーツ空手は左手で受けて右手で突くといった2動作で捉えがちだが、同セミナーで最も強調された〝沖縄伝統空手の極意〟は、左手で受けたらそのまま左手で突く、しかも「1」「2」という2段階の動作としてではなく、「1」の範疇で瞬時に完結するというものだった。さらに次の言葉も印象に残った。
(組手のときに)後ろに下がってはいけない。下がると相手の間合いになる。必ず前に出なければならない。それによって初めて自分の間合いになる。前に出て初めて相手とイーブンになることができる。
知念賢祐会長はフランスで長年空手普及にあたってきた沖縄出身の空手家として以前から有名だが、県主催セミナーで教えるのは「今回が初めて」ということだった。
2024年「第2回 沖縄空手少年少女世界大会」レポート (上) (下)
シリーズ【沖縄伝統空手のいま 道場拝見】:
①沖縄空手の名門道場 究道館(小林流)〈上〉 〈下〉
②戦い続ける実践者 沖拳会(沖縄拳法)〈上〉 〈中〉 〈下〉
【WEB連載終了】沖縄伝統空手のいま~世界に飛翔したカラテの源流:
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【WEB連載終了】長嶺将真物語~沖縄空手の興亡~
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