「第2回 沖縄空手少年少女世界大会」レポート(上)

ジャーナリスト
柳原滋雄

県主催の2年ぶりの世界大会

「第2回 沖縄空手少年少女世界大会」(主催・同実行委員会、沖縄県、沖縄伝統空手道振興会)が8月8日から12日まで、宜野湾市の「沖縄コンベンションセンター」で開催された。
 2016年に空手振興課を新設し、沖縄伝統空手の振興に努めてきた沖縄県が第1回と称して世界大会を開始したのが2018年。以来、2年ごとに少年少女大会と大人の大会を交互に行ってきた(新型コロナ禍時は不規則)。大会名に「沖縄空手」の冠を銘打っていることからわかる通り、全日本空手道連盟(全空連)と異なる沖縄「独自の空手」の意味を含んでいる。

開会式前のオープニングで琉球の踊りが演じられた

 ただし競技化して開催するには、全空連の試合内容の影響を受けざるをえないことは、2018年の当初大会から指摘されてきた。2022年の第1回少年少女大会から2年での開催となり、新型コロナ禍を明けてからの初の世界大会となった。
 今回、予選では17カ国地域から1500人を超える選手が参加し、沖縄で行われた本大会には「420人が参加」(『沖縄タイムス』8月8日)した。12日の最終日には203人が競技して入賞者(金賞1人、銀賞1人、銅賞2人)が選ばれている。
 ちなみに沖縄県が主催して2018年から行ってきた世界大会の流れを一覧すると次のようになる。

2018年 第1回沖縄空手国際大会
2022年 第1回沖縄空手少年少女世界大会

    ※新型コロナ禍のため2020年予定を2年延期して開催
  〃   第2回沖縄空手世界大会(同時開催)
2024年 第2回沖縄空手少年少女世界大会

2026年 第3回沖縄空手世界大会(予定)
2028年 第3回沖縄空手少年少女世界大会(予定)
(太字は開催済み)

 繰り返しになるが、沖縄で空手大会を開催する意義は、〝沖縄伝統空手の大会〟であるところにある。その意味で全空連大会と類似した二番煎じの大会では本来の意味合いは薄れる。
 今回は、これまで会場として使用してきた県立武道館(那覇市)や沖縄空手会館(豊見城市)を離れ、大規模複合型施設である沖縄コンベンションセンター(宜野湾市)を使って催された。試合は展示棟で5つのコートを使って行われた。
 同センターの劇場棟で開かれた「開会式」では、沖縄県指定無形文化財「沖縄の空手・古武術」保持者7人のうち、6人の長老格の熟練空手家が模範演武を行った。以下の保持者たちだ(右側は演武した型名)。

喜久川 政成(剛柔流) セーサン
伊波 光太郎(古武道) 白樽の棍
眞栄城 守信(小林流) 糸洲のパッサイ
仲本 政博 (古武道) 二丁ヌンチャク
東恩納 盛男(剛柔流) ペッチューリン
仲程 力  (上地流) セーリュー

 大会直前に保持者の一人、伊波清吉氏(小林流)が他界したことで8人いた保持者は8人から7人に減っている(上地流の高良信徳氏は欠席)。
 さらに団体交流演武として、沖縄伝統空手道振興会(玉城デニー会長)を構成する沖縄空手4団体による団体演武が披露された。順に、全沖縄空手道連盟(池宮城政明会長)、沖縄空手・古武道連盟(八木明達会長)、沖縄県空手道連合会(仲里稔会長)、沖縄県空手道連盟(平良慶孝会長)の4団体だ。

今大会の試合方式

開会式で選手宣誓を行う選手代表の5人

 大会自体は前回(第1回)と同様、「首里・泊手系」「那覇手系」「上地流系」「古武道(棒)」の4部門で行われた。少年少女の対象年齢は6~14歳で、試合内容は型競技のみで、組手はない。
 各部門とも年齢に応じて「少年少女Ⅰ」「少年少女Ⅱ」「少年少女Ⅲ」「少年Ⅰ」「少女Ⅰ」の5種目に分かれる。「少年少女」は小学生で、低学年から順に「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅲ」となる。「少年Ⅰ」「少女Ⅰ」は14歳以下の中学生だ。さらに古武道だけが「少年少女Ⅰ」がないため、5年齢別と4部門で合計19種目で競技が行われた(前回大会と同じ)。
 型競技は2人で対戦。小学生は男女混合なので男女での戦いもしばしば生まれる。中学生は男女別に行われた。
 競技は5人の審判員が型演武を審査し、目の前のパソコンに点数を入力、即座に点数集計。各コートに設置された2つの掲示板は会場内のどちらの方向からも確認できるように逆方向に設置されており、そして2人目の型演武終了後に、点数と勝敗――赤(先攻)と白(後攻)のどちらが勝者か、が即時に表示される方式になっている。

沖縄伝統空手の意味

試合風景。小学生は男女混合、中学生は男女別で行われる。

 大会は各種目とも11日までに最終の4人(=ベスト4)までしぼられ、最終日(12日)は午前中に準決勝、午後に決勝戦が行われる。
 観戦して感じたことは、スポーツではなく武術を重視する「沖縄伝統空手」を標ぼうしても、実際に競技を行う以上、競技空手の〝先輩格〟である全空連のやり方に影響されることだ。
 本来、空手の型は同じ名称であっても、スポーツ空手用の型と、伝統空手の武術性のある動きではかなり異なる。まして子どもの大会の場合、大人の大会と比べて、内容を理解して意識の区別を求めること自体、無理を生じさせかねない。その意味では、子どもの大会に沖縄空手の武術性を厳密に求めることは最初から無理と捉える人もいる。さらに従来通りの空手家には、沖縄伝統空手には競技を持ち込む必要性はなく「演武大会とセミナーだけで十分」と考える人も多い。
 全空連と競技の型名称が〝重なる〟「首里・泊手系」と「那覇手系」(主に剛柔流)では、現状に苦慮する道場主の声も耳にした。ある道場では、通常は武術空手の型を教えているものの、これらの試合に限って同じ型名であっても、試合用の全空連方式に近い動き方の型を教えざるをえない苦衷を耳にした。(下につづく)

2024年「第2回 沖縄空手少年少女世界大会」レポート (上) (下)

シリーズ【沖縄伝統空手のいま 道場拝見】:
①沖縄空手の名門道場 究道館(小林流)〈上〉 〈下〉
②戦い続ける実践者 沖拳会(沖縄拳法)〈上〉 〈中〉 〈下〉

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。 著書に『沖縄空手への旅──琉球発祥の伝統武術』(第三文明社)、『空手は沖縄の魂なり――長嶺将真伝』『ガラパゴス政党 日本共産党の100年』『疑惑の作家 「門田隆将」と門脇護』(共に論創社)など。