「何度も政党変えた連中が……」
岸田首相が次期総裁選への不出馬を表明し、さらに現職閣僚らに対しても「遠慮なく手を挙げてほしい」と促したことで、俄然、自民党の総裁選にメディアの注目が集まっている。
もちろん、自民党は過去何十年も総裁つまり首相の顔を挿げ替えることで、巧妙に〝疑似政権交代〟の空気を作り出してきただけという批判もある。ただ、それは自民党に代わり得るだけの勢力と政権担当能力のある野党第一党が存在しなかったから可能だったわけでもある。
自民党総裁選には、若手や女性も含め新鮮味のある候補者の名前が取りざたされている。この1年以上、支持率低迷に苦しんだ岸田首相は、最後の最後に自民党の浮揚につながる置き土産を残し、自身の影響力温存に成功したということになるだろうか。
一方の野党第一党・立憲民主党も同じ9月に代表選挙を迎える。こちらは現職の泉健太氏に加え、前代表の枝野幸男氏が出馬表明したほか、かつての民主党政権で最後の首相を務めた野田佳彦氏といった「昔の名前」ばかりがあがっていて、いかにも地味で新鮮味に欠ける。
X(旧ツイッター)などでは、「この10年間で何度も政党変えた連中が『総裁を代えて刷新感を演出するやり方に国民は騙されるな』とか言ってんの何のギャグなんか」といった、痛烈な声も見られた。
党首の交代といえば、日本共産党では2000年11月から23年以上もトップの座に君臨し続けた志位和夫氏(現・中央委員会議長)が、2024年1月になってようやく降板。同党初の女性党首として田村智子氏が委員長に就任した。
共産党の危うさ見せつけた〝蓮舫惨敗〟
ところが、田村氏が委員長になってからも、日本共産党にはさっぱり展望が開けない。
まず、最高指導部である党常任委員会のメンバーは、25人中21人までが志位体制からの留任。さらに志位氏は議長のポストに就任し、依然として強い影響力を保持している。
7月の東京都知事選挙では蓮舫氏を支持し、田村委員長も蓮舫氏と一緒に街頭演説に立つなどしたが、蓮舫氏への支持は広がらず小池氏にダブルスコアの大差をつけられ、石丸伸二氏にも37万5000票及ばない3位に終わった。
さらに同日の都議会補選では中野区、江東区、板橋区、北区で4人の候補を擁立。府中市でも1人を支持したが、全員が落選した。
蓮舫氏の惨敗については、立憲民主党内からも日本共産党との共闘が災いしたという声が出ているほか、立憲の支持母体である連合も7月19日の会見で数字の裏付けを挙げて、従来の立憲支持層が大量に逃げたことを指摘している《参考記事》。
日本共産党が次期衆議院選挙を睨んで「野党共闘」を訴えるものの、〝蓮舫ショック〟もあって立憲民主党内には警戒感が強い。とりあえず立憲民主党の代表選挙の結果を待たなければ、話は前に進まないだろう。
自民党総裁選の争点が、ある意味で「岸田路線の継承か別路線か」になるのに対し、立憲民主党の代表選は「日本共産党と手を組むか組まないか」が争点になる。
前回2021年の衆議院選では217選挙区で「野党共闘」して候補者を一本化したものの、62選挙区しか勝てず、日本共産党も12議席から10議席へと凋落。立憲民主党にいたっては枝野幸男代表ら党創業執行部が総退陣する惨敗に終わっている。
「赤旗」発行が不可能になる
その日本共産党が目下抱えている課題、というよりももはやリスクと言うべきものが2つある。
1つは党員の高齢化で、これが党勢凋落にも大きくかかわっている。もちろん日本社会全体が少子高齢化しているので、この課題は他の政党や企業、自治体でもそれなりに共通した大きな課題ではある。ただ、日本共産党の場合はとりわけ高齢化が顕著なのだ。
たとえば公明党が「若者の声を聴く唯一の政党」《参考記事》として機能しているのに対し、日本共産党は集会でもほとんど高齢者の姿ばかりである。
7月19日付の『しんぶん赤旗』は、「党創立記念の月 7月を「赤旗」発行危機打開の転機ひらく月に」と題して大幡基夫・機関紙活動局長の「緊急の訴え」(7月17日)演説内容を掲載した。大幡氏は、
「しんぶん赤旗」では重大な後退傾向が続いています。いま、この7月に、この流れを変えられなければ、「赤旗」発行は不可能になり、党の前進の基盤もなくなる危機の中に、私たちは立っているのです。(『しんぶん赤旗』2024年7月19日)
と、機関紙「赤旗」の発行が危機的限界にきていることを恥も外聞もなく訴えている。
じつは大幡氏は、この5カ月前の2月17日の「しんぶん赤旗」でも、新入党員の3割から5割が「しんぶん赤旗」を購読しておらず、党員の4割が「日曜版」すら購読していない実情を訴えていた。
さらに3月19日の同紙でも、大幡基夫・機関紙活動局長と岩井鐵也・財務/業務委員会責任者の連名で「3月大幅後退の危険。日刊・日曜版の発行守るため大奮闘を心から訴えます」と題する記事を掲載している。
6月7日には「日本共産党中央委員会書記局」名で全国の都道府県委員長あてに「親展甲2号」通達が出され、
「しんぶん赤旗」はいま、記者の急激な減少によって、財政面に加えて、編集体制面でも発行の危機に直面しています。現在、「赤旗」の本局記者は280人(他に都道府県委員会所属の専任記者50人、嘱託20人)で、本局記者は、最高時の2001年392人と比べると100人以上減り、2年前と比べても約30人減っています。
と編集体制が立ちゆかなくなっている現状を訴えた。
この通達では、①7・8月に実施する「赤旗記者緊急募集」に応募する同志を組織せよ、②編集局に派遣できる同志を推薦せよ、③「赤旗」記者を毎年何人輩出するのか目標をもって取り組め、と命じている。
ピーク時の1990年には約50万人いた党員も、現在では25万人にまで減少。しかも先述したように高齢化が著しい。2000年11月に志位委員長が就任して以来、日本共産党が凋落の一途をたどっていたことを雄弁に物語っているのではないか。志位氏が委員長に就いた時点で衆参あわせて43人いた国会議員も、今では半数以下の21人である。
ちなみに、過去40年間の衆議院選挙で同党の得票数が瞬間的な〝躍進〟を見せたのは、1996年と2014年だけである。いずれも社会党と民主党という当時の野党第一党が国民の大きな失望を買い、行き場のなくなった不満票が流れ込んだ結果にすぎなかった。
8月3日にオンライン開催した全国都道府県委員長会議で小池晃書記局長は、
機関紙拡大は、7月は前進したものの、党大会時からは大きく後退しています。現状は、「赤旗」の発行が危機にひんしているという局面が続いています。(『しんぶん赤旗』8月4日)
今度こそ決めたことはやりぬくこと。党機関とその長が、決意を固めあえるかどうかがカギになります。(同)
と虚しいハッパをかけた。
田村智子委員長の「ハラスメント」
田村智子・新委員長に代替わりしたにもかかわらず、全国の党員のあいだでは疑心暗鬼と党中央への深い失望が広がっている。
ことの発端は2023年1月、20年を超す志位体制や現実離れした安保政策に危機感を覚え、ベテラン党員だった松竹伸幸氏や鈴木元氏が党の改革を訴えたところ、党中央が「除名」したことだ。
2024年1月、田村氏が新委員長になった党大会。まず、除名処分の再審査を要求していた松竹氏の申し立てが党から却下された。
さらに、こうした共産党中央の〝粛清〟態勢について、神奈川県議団の大山奈々子氏が、
昨年地方選前に松竹氏の著作が発刊され、その後まもなく彼は除名処分となりました。私は本を読んでいませんが、何人もの人から「やはり共産党は怖い」「除名はだめだ」と言われました。将来共産党が政権をとったら、国民をこんなふうに統制すると思えてしまうと。問題は出版したことよりも除名処分ではないでしょうか。(『しんぶん赤旗』1月18日)
と発言。党に対して、「排除」の論理ではなく「包摂」で向き合ってほしいと訴えた。(※しんぶん赤旗は現在、この発言記事そのものをウエブサイトから削除している)
すると、党大会最終日で「結語」に立った田村委員長は、
この発言者の発言内容は極めて重大です。私は、「除名処分を行ったことが問題」という発言を行った発言者について、まず、発言者の姿勢に根本的な問題があることを厳しく指摘いたします。(『しんぶん赤旗』1月20日)
党内外の人が言っていることのみをもって、「処分が問題」と断じるのは、あまりにも党員としての主体性を欠き、誠実さを欠く発言(同)
反共分裂主義によって野党共闘を破壊した大逆流と並べて、党の対応を批判するというのは、まったく節度を欠いた乱暴な発言というほかありません。(同)
等々と、オンラインで全国に中継までされた文字通りの満座の席で、大山議員を吊るし上げた。
当然ながら、この田村委員長の対応には党内地方議員らからも「明らかなハラスメント」「視聴していた私も被害者」等の異論が噴出。新聞や識者からも「人格攻撃だ」といった批判が出た。
神谷貴行氏「除籍」「解雇」の衝撃
じつはこの件に関連して今月、新たに日本共産党内で衝撃が走っている。
さる8月6日、日本共産党は神谷貴行氏を除籍。8月16日付で同党福岡県委員会から解雇としたのだ。
神谷氏は「紙屋高雪」のペンネームで知られる漫画評論家で、「ご飯論法」という言葉の命名者としても知られている。
全学連委員長、共産党東京都委員会職員、同福岡市議団事務局長などを歴任。2018年には日本共産党の推薦を受けて福岡市長選挙にも立候補している。
神谷氏は党の処分について、自らのブログで、
いずれも到底承服できないものです。
詳しくはまた別の機会に書きたいと思います。
今後のことは弁護士と相談して決めたいと思っていますが、もし訴訟になったらぜひみなさんに応援していただければ幸いです。(「かみや貴行のブログ」8月16日)
と不承服を表明した。
先に除名された松竹伸幸氏は自身のブログで、神谷氏への処分について、「共産党が自分の最後の希望(=紙屋氏)を放逐」と題して批判。党綱領と規約への深い理解、マルクス主義への造詣、現実を見据える視線、党再生への組織論など、どの点を取っても神谷氏は現在の党指導部より優れていると指摘した。
もし、共産党に再生の希望があるとすると、だから、紙屋さんが党に戻り、党首になれる可能性が出て来るときだけだ。(「松竹伸幸氏のブログ」8月16日)
と強い憂慮を示した。
共産党指導部が神谷氏を問題視したのは、2023年2月におこなわれた日本共産党福岡県委員会の総会での発言だったという。
私は総会で、“松竹伸幸さんの除名処分決定の根拠となった4つの理由はどれも成り立っていないので、松竹さんの除名処分に関連して記述されている今回の総会への報告部分を削除するとともに、松竹さんの除名処分を見直すように関連地方機関に中央委員会が助言することを、福岡県委員会総会として決議すべきだ”と発言・提起しました。(「かみや貴行のブログ」2023年3月5日)
神谷氏は、松竹氏を「除名」とした党の決定にいくつもの誤りがあることを列挙。「今回の事態は党のミスにより自ら招いたオウンゴールです。処分を見直せば攻撃の口実はなくなります。党の命運とともに、一人の党員の人生がかかっている大問題であり、真摯な是正を求めます」との趣旨の発言をしたという。
しかし、反対多数で神谷氏の提案は否決された。神谷氏は、「党の決定を広く県民・国民に知らせ、実践する立場から、この決定について少し詳しく説明します」として、この際の経緯と自らの主張を先のブログ(2023年3月5日)に綴って公開した。
精神疾患に追い込まれた神谷氏
すると、日本共産党はこのブログを問題視し始める。半年後の2023年9月、産経新聞はその様子を奉じている。
共産党福岡県委員会が「ご飯論法」の発案者の1人で、ブロガー、漫画評論家の神谷貴行氏を党規約違反で処分する方針を固めたことが19日、分かった。
(中略)
党側が問題視しているのは、2月に開かれた党福岡県委員会総会での議事内容を神谷氏が運営するブログで公表した点。(『産経新聞』2023年9月19日)
2023年末、神谷氏は「大勢の前で」糾弾されたようだ。その後、神谷氏は度を超したハラスメントを受けて精神疾患を発症してしまう。神谷氏のブログには、生々しい筆致で苦しい状況が記されている。
2ヶ月の間、何にも音沙汰なし。
「調査」する意思も能力もない。人を病気に追い込んで、挙句に何も連絡なく放置。どうなっているのか聞くと「調査中だ!」としか返さない。2014年5月7日現在、いまだに次に所属する単位も告げられていない。権利の蹂躙である。
進捗すら報告しないって、まともな組織のすることかね。
正式調査から10ヶ月。予備調査から1年3ヶ月。あれだけ頭のおよろしい方々が雁首そろえて血眼になって調べたけど、なーんにも出てこなかったってこと。
完全な冤罪だろ。
冤罪じゃないっていうなら、なぜ証拠を示さないのか。
示せないからだろ?
(「かみや貴行のブログ」2024年5月7日)
5月の時点で「正式調査から10ヶ月。予備調査から1年3ヶ月」とあるので、23年2月の神谷氏の発言が党内で問題視され、「調査」が始まり、しかもその間「調査中」とされたまま「次に所属する単位も告げられていない」という状況が続いていたことがわかる。
じつに陰湿な〝拷問〟ではないのか。その結果、神谷氏は、
私は激しいハラスメントで精神疾患に追い込まれ、医者にも通っている。
診断書が出て2度休職もした。(同)
という事態に追い込まれた。
そして1年半も経った8月6日、よりによって人々が鎮魂の祈りを捧げる原爆忌の日に、神谷氏は党から「除籍」され、16日には職場からも解雇された。
これには党内から強い反発が出ているようで、福岡県本部や代々木の党本部前で抗議活動をする様子もSNSなどに挙げられている。
なお、日本共産党が神谷氏を「除籍」としたことについて、「こたつぬこ」名義で知られる政治社会学者の木下ちがや氏は次のように指摘している。
なお神谷さんの除籍・解雇は松竹のぶゆき、鈴木元氏の除名よりも酷い人権侵害ともいえます。以下解説。
実は共産党は対象者の党員籍を削除する「除籍」は措置であり、処分ではないと位置付けています。「除名」は処分であり、聴取や決定において手続きが必要ですが、「除籍」はさしたる手続きもなく簡便にやれます。
神谷さんは松竹、鈴木両氏とは異なり、共産党の勤務員です。除籍とともに解雇され、職を奪われるという措置を、簡便な手続きでやったわけです。なんらの違法行為もやっていないのに、言論を理由に職を奪った。それを共産党は「神谷氏は除籍だから処分したわけではない」と言い張ることになります。「処分ではないが職は奪う」。これを許すなら党幹部のやりたい放題ですし、こんな政党が政権を握ったら恐ろしいことになりますよね。(こたつぬこ氏のXポスト/2024年8月16日)
「党中央の運用方法がおかしい」
日本共産党への批判として常に指摘されるのが「民主集中制」である。
社会主義革命を成功させるためには、革命党は組織の民主主義的原則を犠牲にした中央集権的な一枚岩の単一の意思と鉄の規律を持った少数精鋭の秘密組織でなければならない。(『レーニン全集』第5巻/大月書店)
暴力革命遂行のための必須条件として、個人は組織に、下部は上部に対して無条件に従うというものだ。
警察庁が2004年に公刊した『警備警察50年――現行警察法施行50周年記念特集号』では、「暴力革命の方針を堅持する日本共産党」という節を設けて紙幅を割いている。
そこでは、2000年の党大会で日本共産党が党規約前文を全面削除する大幅な規約改定をおこない、「労働者階級の前衛政党」、「人民の民主主義革命を遂行」、「社会主義革命をへて日本に社会主義社会を建設」等の革命を連想させるような表現を削除したことに言及。
それでもなお、
「科学的社会主義を理論的な基礎とする」との党の性格や「民主集中制を組織の原則とする」との組織原則は、「党の基本にかんする、規約として欠くわけにはゆかない部分」として条文化しました。(警察庁『警備警察50年――現行警察法施行50周年記念特集号』)
と、「民主集中制」の存続について警戒を示している。
これに対し日本共産党は2009年の機関紙に、「日本共産党の民主集中制とはどんなもの?」を掲載し、
日本共産党が党内の少数意見の存在を認め尊重しているのに対し、スターリンの専制支配のもとでは少数意見が尊重される余地はありませんでした。(『しんぶん赤旗』2009年3月14日)
と、日本共産党の民主集中制は旧ソ連のそれとは違うと弁明している。
だが、この1、2年の党内からの改革を求める声への徹底した弾圧を見れば、「党内の少数意見の存在を認め尊重している」など、もはや誰も信用しまい。なにより、民主集中制は民主主義の基本である多数決の理念とは真っ向から反するものだ。
日本共産党の現役党員と元党員の有志が2024年5月に出版した『日本共産党の改革を求めて』(あけび書房)では、
今の党中央の民主集中制の運用方法がおかしいから、まずそこは「民主集中」の「民主」よりも「集中」の方に重きが置かれていて、「民主」がないがしろにされている問題が大いにみられる。(『日本共産党の改革を求めて』58頁)
とある。これが心ある党員の率直な実感なのだろう。
2020年代も半ばになろうとしている時代に「共産革命」を掲げ、機関紙の発行すら困難になるほどの衰退を招きながら、党指導部への批判は徹底して〝粛清〟していく日本共産党。
この10年、その日本共産党の仕掛けた「野党共闘」路線に便乗して仲間割れと野合を繰り返してきた野党は、そろそろ目を覚ますべきではないか。
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