公明、「平和創出ビジョン」策定へ――戦後80年となる2025年

ライター
松田 明

分断と対立を乗り越える日本の役割

 79回目の「原爆の日」を迎えた8月6日、広島平和記念公園での平和祈念式典に参列した公明党の山口那津男代表は、そのあと広島市内で記者会見に臨んだ。
 席上、山口代表は明2025年が「被爆80年」「戦後80年」の節目を迎えることを踏まえ、公明党として「平和創出ビジョン」の策定に入ることを発表した。

公明党の山口那津男代表は6日、広島市内での記者会見で、2025年に戦後80年の節目を迎えるのを受けて党の「平和創出ビジョン」を策定すると発表した。核廃絶、気候変動、人工知能(AI)などを柱にまとめる。
党内に検討委員会を設置し、来春までに内容を詰める。検討委の委員長には谷合正明参院議員が就く。山口氏は「分断を乗り越える日本の役割を推し進める原動力になりたい」と述べた。(『日本経済新聞』8月6日


 会見で山口代表は、公明党が1964年の結党以来、「平和の党」として行動する平和主義を貫き、「人間の安全保障」に基づく平和外交に取り組んできたことに言及。
 これまで同党が取り組んできた①核廃絶、②気候変動、③国連が推進する「持続可能な開発目標」(SDGs)、④人工知能(AI)、⑤教育・若者・女性ほか――の5項目を柱に、2025年からの10年間を展望するものにするという。
 ビジョンの策定には、谷合正明・参議院幹事長を委員長とする検討委員会があたり、2025年春までの策定を目指す。
 さらに、国会議員と地方議員がフラットに広く連携するネットワーク政党としての強みを生かし、党の広島県本部、長崎県本部、沖縄県本部などと連携して、地方自治体による取り組みも推進する。
 また、党の青年委員会(委員長=国重徹衆院議員)が7月から始めた「ユースディスカッション」運動とも連携する。
 この「ユースディスカッション」は、青年国会議員がオンラインなどで若者たちと意見交換し、共に政策立案へ議論していこうとする試み。この「ユースディスカッション」運動と連動させ、若い世代を含む幅広い有識者と共にビジョンを策定していくという。

「若者の声を聴く唯一の政党」

 若者の政治不信や無関心、「シルバー民主主義」などが語られるなかで、公明党は18歳選挙権の実現した2016年以降、若者の声を拾う「ボイス・アクション」を一貫して継続してきた。また、議員と若者が直接対話する「ユーストークミーティング」が各地で開催され続けている。
 じつは日本の政党のなかで、一貫して若い世代の声を聴く大規模な活動を続けている政党は公明党だけなのだ。政治とメディアの関係に詳しい日本大学教授の西田亮介氏は、

 2010年代前半から、多くの政党がネットやSNSを活用しながら、若者の声に耳を傾けようというポーズを見せました。しかし、その運動を大規模な形で継続している政党は、公明党以外に見当たりません。(『第三文明』2021年8月号)

 私が公明党について、よく言及するのは、「ボイス・アクション」や「ユーストークミーティング」など若者の声を聴く活動を、投票年齢引き下げ後も継続的に取り組んでいる唯一の政党であるということです。若い人たちが政治に関心を持たなければ、社会環境が好転していくことはありませんし、「福祉の党」を掲げる公明党への国民の期待は高いと言えます。(てい談「結党60年――公明党こそ希望の存在」『公明ハンドブック2024』)

と述べている。

若者の声を可視化する創価学会青年部

 若い世代の声を聴き、それを国の政策につなげられている政党が公明党だけなのは、創価学会という支持母体を持っている点も大きい。
 創価学会では継続的に、核廃絶運動やSDGs達成への啓蒙活動を広げる「ユースフェスタ」を、各方面や都道府県単位などでおこなってきた。
 2024年3月24日には、創価学会青年部も「SGIユース」というかたちで、日本若者協議会、ピースボート、カクワカ広島、グリーンピース、アムネスティ・インタナショナルなど多様な団体組織と協同して、「核兵器廃絶」と「気候危機の解決」をテーマとして若者の意識を高め、未来へ向けて連帯を図ることを目的とした「未来アクションフェス」を開催。東京の国立競技場に約6万5000人が結集したほか、動画配信でも57万人が視聴する、これまでに国内で例のない規模のイベントを開催している。

 そもそも、来場者、配信視聴者を合わせて約57万人が参加したという規模は、日本国内では異例のことでした。日本ではこれまでにも、NGOや国連が核兵器廃絶や気候危機に関する意識啓発イベントを行ってきましたが、話を聞く限り、著名人などゲストを呼んだとしても、多くて1000人程度の集客が限界だったようです。それが、今回は違いました。核兵器廃絶や気候危機に関心を持った若者がこんなにも存在している――。その事実を可視化できたことは実に画期的でした。(梁島英明・創価学会男子部長/『第三文明』2024年6月号)

 このフェスでは、「青年意識調査」(回答者約12万人)の結果を踏まえた共同声明を発表。国連広報センターの根本かおる所長や国連大学学長で国連事務次長のチリツィ・マルワラ氏らも演壇に立った。
 2024年9月に開催される国連「未来サミット」では、国や国際的枠組みにおける若者の意思決定への参画が議論の柱の1つになっている。この「未来アクションフェス」で採択された声明などは、この「未来サミット」に提起される運びとなっている。
 さる8月7日に東京の国連大学で開催された「未来アクションフェス」報告会では、マルワラ学長からあらためて同フェスへの感動が語られた。また、国連広報センターの根本かおる所長からは、同フェスは「未来サミット」へ向けて他国に例がないほど画期的な活動であり、平和への連帯をさらに広げてほしい旨の期待が語られた。
 同フェスの実行委員会の代表、外務省の松尾裕敬・総合外交政策局参事官(国連担当大使)、根本所長らを交えたパネルディスカッションも開催された。
 創価学会青年部の核廃絶への運動の淵源は、1957年の戸田城聖・第2代会長による「原水爆禁止宣言」であり、核廃絶への最初の一千万人署名を集めたのは1974年であった。
 創価学会インタナショナルは1981年から国連広報局のNGOに登録されており、192カ国・地域のネットワークを持つ。核兵器禁止条約の採択に至る活動でノーベル平和賞を受賞したICANの、発足当初からの国際パートナーでもある。そして国内では創価学会が支持する公明党は政権与党の一角を占めている。
 こうした長い活動の歴史と世界的ネットワークを持つ創価学会青年部が、バックグラウンドの異なる多様な団体・組織と協同して「未来アクションフェス」を成功させたことの意義は幾重にも大きい。
 社会変革をめざすさまざまな若者団体にとって、創価学会青年部が安心して協同できる相手であることがクリアになっただけでなく、協同することで自分たちの声がより大きく遠くまで届くことを実感できたことと思う。
 今回、公明党が策定への取り組みを発表した「平和創出ビジョン」は、こうした支持母体の 青年たちの取り組みと軌を一にするものでもある。

公明党の秀逸な論理構築

 6日の記者会見では、あわせて「核兵器禁止条約」についても山口代表から言及があった。

一、政府はこれまでの安全保障政策の中で、核兵器不拡散条約(NPT)を重視しながら、現実的な核軍縮を一歩一歩進めようとしている。核禁条約をゴールと位置付け、核兵器の保有国と非保有国の橋渡しをしようと取り組んでいる。

一、公明党は一歩進んで、この核禁条約は日本の「非核三原則」を国際規範に高めたものだと捉えている。唯一の被爆国である日本が橋渡し役を担うのであれば、非保有国が結集している核禁条約に関わる一方、核保有国との対話も進めて軍縮を進めていくべきだ。

一、ただちに日本が核禁条約に参加できなくても、オブザーバーとしてウオッチし、対話しながら、実質的な橋渡しの役割を果たしていくことは十分成り立ち得る。これからも粘り強く、橋渡しの推進力として公明党の役割を果たしたい。(『公明新聞』8月7日

 2017年に採択され2021年1月に発効した核兵器禁止条約は、単に核兵器の使用を禁じるのではなく、「開発し,実験し,生産し,製造し,その他の方法によって取得し,占有し,又は貯蔵すること」(第1条)まで禁じている。つまり、核兵器そのものをただちに「違法化」している。
 したがって、核保有国はこれに現時点では批准できない現実がある。一方、日本や韓国、オーストラリア、NATOに加盟する非保有国も、「核の傘」の安全保障体制の下にあることとの整合性が取れないとして、核兵器禁止条約に批准していない。
 核軍縮の進め方をめぐっては、核兵器国と非核兵器国の間のみならず、たとえば日本のように核兵器の脅威にさらされている非核兵器国と、そうでない非核兵器国の間においても立場の違いが見られる。
 日本政府としては、核兵器禁止条約がめざす〝核兵器のない世界〟という目標は共有しつつも、核軍縮を進めていくためには、核兵器の非人道性と安全保障の2つの観点を考慮し、核兵器国の協力を得ながら、現実的かつ実践的な取組を粘り強く進めていく必要があると考えている。
 具体的には、核兵器のない世界の実現のため、「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」、「核軍縮の実質的な進展のための1.5トラック会合」、国連総会への核兵器廃絶に向けた決議の提出、軍縮・不拡散イニシアティブの枠組みや個別の協議等を通じ、核兵器国と非核兵器国の間の橋渡しに努めるとしている。
 さらに核兵器不拡散条約(NPT)体制の維持・強化や包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効促進、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始といった、核兵器国も参加する現実的かつ実践的な取組を積み重ねていくという方針である。
 公明党は、この日本政府の論理を踏まえた上で、核兵器禁止条約を〝日本の「非核三原則」を国際規範に高めたもの〟と位置づけ、日本の国是と地続きのものであると捉えている。
 そして、「核兵器国と非核兵器国の間の橋渡しに努める」とする日本政府の主張に呼応して、そうであるならば非保有国が結集している核兵器禁止条約に積極的に関わり、一方で核保有国との対話も進めて軍縮を進めていくべきだとしているのである。
 さらに、ただちに核兵器禁止条約に参加批准ができないとしても、唯一の戦争被爆国という立場でオブザーバー参加し、「ウオッチし、対話しながら、実質的な橋渡しの役割を果たしていくことは十分成り立ち得る」というスタンスで推進していくとしている。
 ゼロか百かの極端な論理で日本政府を敵視して糾弾するのではなく、日本政府の論理構成を是として掘り下げ、その論理に沿うかたちで核兵器禁止条約締結国の会合に日本政府を接続しようとする公明党のロジックは明快であり巧みである。

公明党という〝資源〟を活用せよ

 8月6日の平和祈念式典の「平和宣言」で、広島市の松井一實市長は次のように述べた。

かつてゴルバチョフ元大統領は、「われわれには平和が必要であり、軍備競争を停止し、核の恐怖を止め、核兵器を根絶し、地域紛争の政治的解決を執拗に追求する」という決意を表明し、レーガン元大統領との対話を行うことで共に冷戦を終結に導き、米ソ間の戦略兵器削減条約の締結を実現しました。
このことは、為政者が断固とした決意で対話をするならば、危機的な状況を打破できることを示しています。(「NHK NEWSWEB」8月6日/平和宣言の全文

 東西両陣営の指導者間の対話によって冷戦が終結したように、各国のリーダーが断固とした決意で対話を重ねることが、核軍縮ならびに核廃絶への直道になる――。この平和宣言の主張は、ゴルバチョフ元大統領と深い友情で結ばれていた、公明党創立者の池田大作・創価学会インタナショナル会長が繰り返し述べていた提言に重なるものだ。
 核廃絶や気候危機という問題に対しては、1人の人間ではまったく無力にさえ思える。しかし、その1人1人が立場や信仰も超えて連帯し、とりわけ若い世代の声を可視化していくことができれば、かならず社会に変化をもたらしていくことができる。
 山口代表は今回の記者会見で、

今の時代に求められる平和創出ビジョンを策定し、平和創出の取り組みを積極的に展開したい。対話と協調により、分断と対立を乗り越える日本の役割を推し進める原動力になりたい。(『公明新聞』8月7日

と語った。
 その意味でも、今や公明党は単に創価学会員だけが熱心に支援する政党であってよいはずがない。社会を現実に忍耐強く変えていこうとする若い世代こそ、積極的に公明党に声を届け、他の政党では絶対に代替がきかない公明党という〝資源〟を活用していくべきだと思う。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。