党内対立が激化する立憲――焦点は日本共産党との関係

ライター
松田 明

「連合として看過できない」

 昨春の統一地方選以降、支持率で日本維新の会の後塵を拝してきた立憲民主党。しかし、大阪万博などをめぐって昨年末から維新の支持率が急降下する。入れ替わりに立憲民主党の支持率が急上昇し、今年5月には10%を超える勢いを示していた。
 まさかの好転に、岸田政権の支持率が低迷し続けるなかで、泉健太代表は連日、鼻息荒く「解散総選挙すべし」と訴えていた。
 ところが5月27日、当時まだ立憲民主党に在籍していた(6月18日に離党届を受理)蓮舫氏が東京都知事選挙に出馬を表明した。すると事実上の選挙戦がスタートする頃から立憲民主党の支持率がまさかの急落を始めた。
 7月7日投開票の都知事選挙が終わっても回復の兆しは見えず、7月20日~21日に実施された各社の世論調査でも、立憲民主党はどの党よりも大きな下げ幅を記録している。
 離党したとはいえ党内でももっとも知名度が高かった議員の1人であろう蓮舫氏が連日、街頭やメディアで露出した選挙戦の渦中で、なぜ立憲民主党の支持率が上昇するならまだしも急降下に転じたのか。
 蓮舫氏があっけなく3位に終わったことも含め、蓮舫氏の選挙戦が立憲民主党への期待値を下げる結果につながったことは、ほぼ疑いようがない。
 7月11日におこなわれた立憲民主党と支持母体・連合の会合では、ぶら下がり会見で連合の芳野会長から、

4月の衆議院東京15区の補欠選挙で共産党と並んで活動したことに、連合として看過できないという見解をまとめたが、今回の都知事選挙ではさらに共産党が前面に出すぎて、蓮舫氏が共産党の候補者のように見えてしまった(「NHK NEWSWEB」7月11日

との率直な〝苦言〟が呈された。

「こんな選挙結果が出てしまう社会」と批判

 この発言に蓮舫氏自身や日本共産党は強く反発した。蓮舫氏を支援していた「市民連合」は同日夜に公式インスタグラムを更新し、それをXにも投稿した。

水に落ちた犬は叩け、と蓮舫さんバッシングが止まず、
共産党のせいだとまで言い出す人もいます。(7月11日午後8:03市民連合の投稿

 しかし、蓮舫氏へのバッシングを非難する同じ文章の前段で、この声明文は、

1年後には忘れ去られているのでなければテレビのコメンテーター
になってそうな泡沫候補に抜かれてしまったのは、
深く傷つく経験となりました。(同)

と、165万8363票を獲得して2位となった石丸伸二氏を中傷する「お気持ち」をわざわざ表明していた。さらに都民の投票結果についてさえ、

しかし、私たちが変えたいのは政治だけではなく、
こんな選挙結果が出てしまう社会でもあった、と改めて思います。(同)

と締めくくったのだ。
 あまりにも独善的で傲岸不遜な意見表明に「そういうとこやぞ」「165万人も市民だぞ」と批判が殺到。その後、市民連合はこの投稿をこっそり削除している。
 市民連合と名乗りながら、社会を敵と味方に分断する。そして自分たちは他者を叩いても、自分たちが叩かれることは「傷つく」と抗議する。しかも、選挙という民主主義の重要な場において有権者が示した判断に対し、謙虚に受け止めるどころか「こんな選挙結果が出てしまう社会」と敵愾心を丸出しにする。社会を敵視し始めたら、もはや〝極左〟であろう。
 そうしたメンタリティの人々と日本共産党が総がかりで支援したからこそ、本来なら立憲民主党のシンパであった多くの人々の気持ちが蓮舫氏から離れていったのではないのか。

連合事務局長が発した「強い懸念」

 7月19日、連合は定例会見を開催。席上、清水秀行事務局長が、「都知事選の敗因は共産党が前面に出すぎたこと」という11日の芳野会長発言に対する批判を踏まえ、あらためて連合としての見解を述べた。
 連合の公式サイトに動画と会見の全文が出ているので、興味のある方はご覧になっていただきたい。

 皆さんもお分かりだと思いますが、2022年に参議院の東京選挙区が行われました、この時の投票率は56.55%でございましたが、今回よりも低うございましたが、それでも立憲の得票数、共産党、れいわ新選組、社民党の得票数から、基礎票としては230万票ぐらいが念頭に今回も置かれていたのではないかと推測しているところです。
 しかし結果は128万票と、投票率が60.62%と高かったにも関わらず、それには全く届かなかったということで、連合としては極めて深刻ではないかと受け止めていると、立憲民主党にもお伝えをさせていただきました。
 さらに言えば、2022年の参議院東京選挙区では、立憲の蓮舫氏の得票が67万票、また松尾氏も立候補していましたので、それが約37万票、足すと110万票なわけでございます。共産党の山添氏が68万票ですから、3者を足しただけでも178万票になるわけで、今回共産党は都議補選と連動して得票を伸ばしたと小池書記局長はおっしゃっていましたが、そうであるならば、なおさら178万票以上の得票があってもよいわけで、それが投票率が上がったにもかかわらず128万票しか出ていないのですから、やはり立憲を支持してきた方たちの得票が減ったという分析をしてしかるべきであろうと思っています。
7月19日「連合定例記者会見」清水事務局長 8分30秒から ※読みやすくするため改行した)

 理路整然とした分析で、本来なら最低限見込めた得票数がいかに消えたかがよくわかる。ちなみに清水事務局長は日教組の出身で、その意味では「左派」と目されている人なのだ。
 さらに清水事務局長は、今回の選挙戦で見られた〝他陣営への妨害〟〝違法行為〟についても手厳しく言及した。

 また、小池候補の街頭演説でプラカードを持ったりして「やめろ」コールをしている人たち、誰とは特定はできないかもしれませんが、組織的に行った姿を見れば共産党の方か、市民連合の方か、あるいは立憲の応援団の方であるということは、誰が見てもそういったふうに思わざるを得ません。あのようなやり方に忌避感を持つ多くの声が連合にも寄せられました。
 さらに、蓮舫氏は選挙期間中にRのシールが都内に貼られることについて、「全く意味がわからない」と記者団に語ったとのことですが、これも共産党か市民連合あるいは立憲の応援団の方がおやりになったことではないかなと思います。条例違反、法律違反の行為であり、蓮舫氏自身も共産党の小池書記局長も街頭演説でRのシャツを着ていたことから、無関係とは言えないと私は思っています。(同)

 こうした共産党との関わりを立憲民主党が容認し、離党したとはいえ共産党と連携し、選挙後も「共産党をはじめ本当に多くの応援の方から力をもらったことは私の財産だ」と発言し、小池書記局長とハグをする写真が流れることに気にも止めないような蓮舫氏を支援し続けたことには極めて違和感があるという多くの声をいただいています。
 幅広い市民と野党の共闘というキャッチフレーズの下、幅広い市民の実情を見極めることなく、今後も連携を強めていくのであれば強い懸念を申し上げる必要があるということでございます。(同)

共産党との距離をめぐる党内対立

 支援した都知事選の惨敗、支持率の急落という事態のなかで、9月後半に予定されている代表選挙に向けて、立憲民主党内では現執行部と反執行部勢力のつばぜり合いが激しさを増している。
 思えば2015年末に、市民連合が仲介するという体裁をとって当時の民主党が日本共産党との「野党共闘」を始めて以来、旧民主党勢力はめまぐるしく離合集散――仲間割れと野合――を繰り返してきた。
 現実的な政権交代を志向する議員たちにとっては、国家観が根本的に異なる革命政党の日本共産党と協力して党勢拡大すること自体が受け入れられない。基本的な国家観や安全保障体制が揺るがない前提でこそ自民党に代わる政権が可能なわけで、「社会主義・共産主義の社会」「日米安保廃棄」を謳う日本共産党が政権樹立に影響力を行使するとなると、どんなに言葉で糊塗しても無理がある。
 一方、旧民主党勢力にはかぎりなく左派的なイデオロギーを持つ議員や、日本共産党の支援がなければ当選がおぼつかない議員も少なくない。とりわけ〝非自民票〟のうち右寄りの層が日本維新の会にかなりの部分奪われている現状では、より一層、日本共産党との連携を強めなければ票が見込めないと考える勢力は根強い。
 7月27日、横浜市内で講演した小沢一郎氏は、次の衆議院選挙では「野党共闘」を強める必要があるとし、今の泉健太執行部ではそれができないと批判した。

立憲民主党の小沢一郎衆議院議員は、いまの執行部では次の衆議院選挙での政権交代に向けて、ほかの野党と連携を進めることは難しいとして、ことし9月に行われる党の代表選挙で、泉代表に代わる候補者を擁立したいという考えを示しました。(「NHK NEWSWEB」7月27日

 対する泉代表は、左に寄りすぎた立憲民主党を現実路線に戻す方針で、

 経済安保分野の重要情報を扱う資格者を政府が認定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度創設法は、運用状況を毎年国会に報告するとした修正を評価。日英伊3カ国の次期戦闘機共同開発に関する条約には「次期戦闘機は専守防衛の観点から必要」と理解を示し、自衛隊に「統合作戦司令部」を創設する関連法にも賛同した。(「時事ドットコム」7月28日

 現実路線を無視したイデオロギー優先の左派に引きずられ、ましてや政権批判だけのためにあれもこれも反対としていたのでは、仮に自分たちが政権を担う立場になった時に身動きが取れなくなってしまう。
 7月22日夜には、泉健太代表と国民民主党の玉木雄一郎代表、両党を支援する連合の芳野友子会長が都内で会食。玉木氏によれば、芳野会長からは泉代表に対し、次期衆院選で日本共産党との協力を見直すよう要望があったほか、原発政策で立憲民主党と電力総連の支援を受ける国民民主党のあいだの協議を開始するよう要望があったという。

誰が勝っても党内対立は必至

 都議選のあと、代表選に立候補の意欲を見せていると報じられていたのが枝野幸男氏である。
 7月25日に地方議員たちと面会した際、枝野氏は代表選への立候補について「熟慮している」と述べたと報道されている。
 枝野氏は言わば立憲民主党の創業者であり初代代表だ。だが、日本共産党との共闘路線を深めた結果、抱きつかれて「政権協力」という言葉まで一方的に発表されてしまい、2021年の衆議院選挙で大敗。執行部は総退陣となった。
 その枝野氏が、また代表選に立候補したとして、党内的には盛り上がっても、無党派層や若い世代の有権者からすれば興味すら抱けないのではないか。
 小沢氏が誰を立てようとしているのかは知らないが、その候補者は日本共産党との連携を託された人物ということになる。

泉氏は今月に入り、国民民主党の玉木雄一郎代表、日本維新の会の馬場伸幸代表とも相次ぎ会談。共産党の田村智子委員長との面会も検討している。泉氏は記者団に一連の会談を「政権準備の一環だ」と説明した。代表選出馬は明言していないが、周辺は代表続投への意欲と受け止めている。(『東京新聞』7月26日

 一方で泉氏が再選されれば、日本共産党と連携したい党内の反執行部勢力は、さらに執行部批判のボルテージを上げていくだろう。
 同じく9月に予定されている自民党の総裁選挙の陰に隠れてしまわないよう、できれば代表選を同じ日にぶつけたいという声も立憲民主党内からは聞こえてくる。そんな心配をしなければならないところに、今の立憲民主党の実態が見える。
 民主党時代からのこの10年近く、日本共産党と安直に共闘しては敗北して党内で対立し、それでもまた同じように共闘して、また敗れ、党内で対立を深めてきた人々。今回の代表選挙は、誰が出て誰が勝ったとしても、党内の対立をさらに深刻にするものになるのではないか。

「立憲民主党」関連記事:
「立憲共産党」の悪夢ふたたび――立憲民主党の前途多難
立憲民主党を蝕む「陰謀論」――もはや党内は無法地帯
手段が目的化した立憲民主党――信頼を失っていく野党①
立民、沈む〝泥船〟の行方――「立憲共産党」路線が復活か
民主主義を壊すのは誰か――コア支持層めあての愚行と蛮行
旧統一協会問題が露呈したもの――宗教への無知を見せた野党
憲法無視の立憲民主党――国会で「信仰の告白」を迫る
枝野氏「減税は間違いだった」――迷走する野党第一党
2連敗した立民と共産――参院選でも厳しい審判
まやかしの〝消費減税〟――無責任きわまる野党の公約
ワクチン接種の足を引っ張る野党――立憲と共産の迷走

民主党政権とは何だったのか――今また蘇る〝亡霊〟

「日本共産党」関連記事:
蓮舫氏はなぜ惨敗したのか――ことごとく失敗に終わった戦略
「神宮外苑」を争点化する愚かさ――共産党の扇動に便乗する候補者
蓮舫氏と共産党の危うい距離感――「革新都政」再来を狙う人々
それでも「汚染水」と叫ぶ共産党――「汚染魚」と投稿した候補者
「風評加害者」は誰なのか――〝汚染水〟と騒ぎ続ける人々
共産党VSコミュニティノート――信頼を失っていく野党④
孤立を深める日本共産党――信頼を失っていく野党③
日本共産党と「情報災害」――糾弾された同党の〝風評加害〟
「革命政党」共産党の憂うつ――止まらぬ退潮と内部からの批判
共産党「実績横取り」3連発――もはやお家芸のデマ宣伝
暴走止まらぬ共産党執行部――2人目の古参党員も「除名」
日本共産党を悩ます〝醜聞〟――相次ぐ性犯罪と執行部批判
書評『日本共産党の100年』――「なにより、いのち。」の裏側
日本共産党 暗黒の百年史――話題の書籍を読む
日本共産党と「情報災害」――糾弾された同党の〝風評加害〟
日本共産党と「暴力革命」――政府が警戒を解かない理由
宗教を蔑視する日本共産党――GHQ草案が退けた暴論
宗教攻撃を始めた日本共産党――憲法を踏みにじる暴挙
西東京市長選挙と共産党―糾弾してきた人物を担ぐ
「共産党偽装FAX」その後―浮き彫りになった体質
北朝鮮帰国事業に熱心だった日本共産党の罪

「日本維新の会」関連記事:
政規法、迷走を続けた「維新」――党内からも不満が噴出
再発防止へ合意形成を図れ――野党の見識が問われている
維新の〝不祥事〟は今年も続く――根本的な資質に疑問符
万博でアタマを抱える維新――国への責任転嫁に批判強まる
維新の不祥事は平常運転――横領、性的暴行、除名、離党
維新「二重報酬」のスジ悪さ―まだまだ続く不祥事
やっぱり不祥事が止まらない維新――パワハラ・セクハラ・カネ
維新、止まらない不祥事――信頼を失っていく野党②
「維新」の強さ。その光と影(上)――誰が維新を支持しているのか
「維新」の強さ。その光と影(下)――〝強さ〟がはらむリスクと脆さ


まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。