蓮舫氏と共産党の危うい距離感――「革新都政」再来を狙う人々

ライター
松田 明

「歴史という法廷に立つ覚悟があるのか」

 まず初めに、6月16日に投開票がおこなわれた沖縄県議選では、共産党が7議席から4議席、立憲民主党が4議席から2議席へと半減。公明党が2議席から4議席に倍増したほか、自民党も全員当選して18議席から20議席に躍進。
 自公を中心とする勢力が16年ぶりに過半数を制し、玉城デニー知事を支える県政与党は過半数割れとなった。基地問題だけに固執し、あとの政策をほとんど実現させないままの玉城県政に県民から厳しい審判が突きつけられたかっこうだ。

 さて、東京都知事選挙(6月20日告示・7月7日投票)について、現職の小池百合子知事が立候補を表明した。
 既に、蓮舫参議院議員(6月12日に立憲民主党を離党)も立候補の意思を表明。広島県安芸高田市の元市長・石丸伸二氏や、タレントの清水国明氏、元航空幕僚長の田母神俊雄氏ら、50人以上が立候補すると見られている。
 小池氏も蓮舫氏も「無所属」で出馬することを表明。小池氏は政党推薦も受けないという。
 それでも、都民ファーストの会はじめ、自民党と公明党、さらには国民民主党、連合も小池氏を支援することを表明。一方、蓮舫氏は立憲民主党、日本共産党、社会民主党、市民連合などが支援しており、事実上の〝与野党対決〟としてメディアは取り上げている。
 蓮舫氏と言えば、民主党政権が目玉にしていた「事業仕分け」で〝仕分け人〟として注目を浴びた。世界一のスーパーコンピューターをめざし、国の予算を投下して理化学研究所(理研)と富士通が共同開発していた事業に対し、「2位じゃダメなんですか?」といきなり事業凍結を迫った〝迷言〟は今も有名だ。

1時間余りの会議で出された結果は「限りなく見送りに近い縮減」。すなわち計画の「凍結」だった。(「読売新聞オンライン」2022年11月14日

 この蓮舫氏ら民主党政権の暴挙に対し、ノーベル賞受賞者の野依良治さんは「歴史という法廷に立つ覚悟があるのか」と政府を批判。文科省に抗議のメールが殺到し、翌月「凍結」は撤回された。
 蓮舫氏の横やりを乗り越えて、世界一の計算速度を誇るスーパーコンピューター「京(けい)」は無事に誕生。その知見は「富岳」にも受け継がれた。南海トラフ地震の被害想定シミュレーションなど、多くの分野で活用されるまでの苦闘は、さる6月15日放送の「プロジェクトX」でも紹介されたばかりである。
 蓮舫氏はタレント出身の華やかさもあって自分の選挙には強い。一方、2010年には現職の行政刷新大臣でありながら、何を勘違いしたのかファッション誌のグラビア撮影を国会議事堂内でおこない、謝罪に追い込まれたという〝黒歴史〟もある。
 また、民主党が民進党と看板を掛け変えた時期の2016年には党代表にも就任。だが期待されていた党の人気は復調せず、翌年の都議会議員選挙では民進党の予定候補者16人が離党して都民ファーストの会へ移籍。民進党は過去最低の5議席にとどまり、蓮舫氏は1年足らずで代表を辞任した。

蓮舫氏を全面支援する共産党の思惑

 一部報道では、前回2020年の都知事選での立候補も模索していたとされる蓮舫氏。ついに都知事選への立候補を表明したわけだが、日本共産党との距離感をめぐって立憲民主党の内外から懸念を示す声があがっている。

立憲民主党の野田佳彦元首相は14日、東京都知事選(20日告示―7月7日投開票)に出馬する蓮舫参院議員=立民に離党届提出=に関し、選挙戦では共産党との連携の在り方に注意するよう助言した。(『日本経済新聞』6月14日

 蓮舫氏が立憲民主党本部で都知事選への出馬表明会見をおこなったのは、5月27日の午後。ところが、日本共産党はこの日の午前中には常任幹部会で蓮舫氏の全面支持を決定。午後には小池晃・書記局長が会見し、

来たるべき東京都知事選挙に蓮舫さんが立候補、出馬表明をおこないました。日本共産党としては最強・最良の候補者が名乗りを上げてくれたということで、全面的に歓迎し、勝利のために全力を尽くしたいと思っています。今日の午前中の常任幹部会でも、全力を挙げて支援するとことを確認いたしました。(「日本共産党公式Youtube」

と発表した。
 蓮舫氏が出馬表明の記者会見をする前に、既に日本共産党は常任幹部会で全力支援を決めていたというのだ。じつは日本共産党は早くから蓮舫氏を候補者の1人として想定し、出馬を要請していた。
 党勢が凋落して独自候補を立てられない日本共産党としては、注目を浴びる蓮舫氏の選挙戦に〝主役〟として参加することで、党勢拡大を図ろうという算段なのだろう。

「これでは本当に『立憲共産党』だ」

 6月3日には、日本共産党東京都委員会が機関紙「東京民報」の号外を作成。しかし、これがどう見ても蓮舫氏の政策ビラに見えるものだった。
 表面には「新しい政治へ 東京から、変える」「七夕の選択 7/7都知事選」という文字と共に蓮舫氏の写真。裏面には「都政を変えればこんなにできる!」として、「全区市町村で小中学校の給食費の無償化」「子どもの国民健康保険料をゼロに」「若い世代への月2万円の家賃補助」「シルバーパスの無料化」等々の文言が並ぶ。
 奇妙な話ではないか。まだ蓮舫氏は自身の選挙公約も発表していない。なのに、なぜ蓮舫氏が都知事になればこれらが実現すると日本共産党がビラまで刷って宣伝するのか。
 これらは日本共産党の勝手な主張に過ぎない。しかし受け取った人は、これが事実上の蓮舫氏の公約だと思い込むだろう。
 こんな〝迷惑ビラ〟を早々に作成されて、なぜ蓮舫氏は抗議もしないのか。日本共産党と何か密約を交わしているのであれば大問題だし、もし自分が関知していないことがらを「公約」のようにビラに書かれながら黙認しているのであれば、有権者を惑わす悪質な行為である。
 国民民主党の榛葉賀津也幹事長は6月7日の記者会見で、

共産が作成した蓮舫氏への支援を呼びかけるビラに言及したうえで、「共産党さんとガッツリやっておいて、(国民民主も)ご一緒に、と言ったってご一緒できない。これでは本当に『立憲共産党』だ」と発言。現状では蓮舫氏への支援は困難との認識を示した。(「朝日新聞デジタル」6月7日

 また、同党の玉木雄一郎代表も6月11日の会見で、

共産党が蓮舫氏を推すビラを作成していると指摘し「共産主導の候補者に見える。共産主義は受け入れられず、一体となって活動する候補者の応援は困難だ」と述べた。(『産経新聞』6月11日

と述べた。

「連合」は小池氏を支持

 立憲民主党の泉健太代表は、蓮舫氏を「自主的に応援していく」と明らかにした。しかし、立憲の最大の支持母体である連合は、日本共産党との連携に拒絶反応を示している。
 連合東京は共産党との連携を強める蓮舫氏を忌避。小池氏への支持を固めたと報じられており、6月19日の執行委員会で小池氏支持を決定する予定だ。

連合内では、都知事選を巡る立民の対応について「次期衆院選でも共産と『共闘』する思惑があるのではないか」(幹部)との警戒感がくすぶっており、今後の立民支援態勢に影響が出る可能性もある。(「読売新聞オンライン」6月14日

 こうした足もとからの拒絶反応さえ気にする様子はなく、6月15日には立川市内で蓮舫氏を支援する集会が開かれた。蓮舫氏は参加を見合わせてビデオメッセージを送ったが、文部科学省元事務次官の前川喜平氏が登壇。

前川氏は、小池氏について「若い頃から有力政治家を踏み台にして、賞味期限が切れたら次に行き、政界をのし上がってきた。嘘と虚飾だけで大したものだ。噓で塗り固めて人をだますような人は政治家としてふさわしくない。人間として支援できない」と語った。「中身は空っぽなのに素晴らしい人のように見せる特殊な能力を持っている」と指摘すると会場から笑いが起きた。(『産経新聞』6月16日

 ちなみに、この前川氏は2017年1月に発覚した文部科学省の天下り問題で同省事務次官を辞任。さらに、在職中に歌舞伎町の出会い系バーに通って、女性と値段交渉して連れ出していたことを『読売新聞』(2017年5月22日)に報じられた。
 この件について前川氏は、

出会い系バーに行ったことは事実。実地視察調査で教育行政の課題を見いだせ、意味があった(『産経新聞』2017年5月25日

と釈明している。

「美濃部都政の時代をまた経験しよう」

 さて、6月15日の蓮舫氏支援集会では、共産党都議や立憲民主党都議らが次々と登壇。

閉会のあいさつに立った市民連合のメンバーは、蓮舫氏について「私たちにとって最高最強の候補者を得た。絶対に都知事に押し上げよう」と強調。「都政が変われば、同時に暮らしが劇的に変わった美濃部都政の時代をまた経験しようではないか」と訴えた。(『産経新聞』6月16日

 どうやら、蓮舫氏を担ぎ上げている日本共産党や市民連合は、かつて共産党が牛耳って都の財政を破綻させた美濃部知事の「革新都政」の再来をめざしているようだ。
 支援体制を熱狂的に牽引するのは日本共産党。あとは都議会の立憲民主党と社会民主党くらいで、自民党、公明党、都民ファースト、連合までも小池氏支持。国民民主党も連合東京と歩調を合わせると明言している。それにもかかわらず、蓮舫氏は自身を支援する人々の立場を「オール東京」と呼んではばからない。
 これは日本共産党が沖縄で、自分たちの政治勢力だけを「オール沖縄」と自称して社会を分断している手法そのものだ。誰が振り付けをしているのか、舞台裏が透けて見える。
 日本共産党東京都委員会の常任委員である香西克介氏は、6月14日に更新した自身のXで、例の蓮舫氏支援ビラの画像を貼り、

蓮舫さん押し上げて若者が希望もてる東京を!
・最賃時給1500円以上
・住宅困窮の若者に月2万の家賃補助
・若者単身で入れる「若者むけ住宅」
・都立大、看護専門、職業訓練校の学費無償化
・学生に1人3万円の「学生応援給付金」
#蓮舫と次の東京へ
スウェーデンの国家予算並みの財政力を生かそう(香西氏のXへのポスト

と投稿した。まるで共産党候補のような熱の入れようではないか。
 やはり、誰が見ても蓮舫氏の公約と見まがう投稿内容だが、蓮舫氏はまだ公約を発表していない。香西氏の弁解によれば「願いを掲げ」ただけなのだそうだが、こういう悪質で姑息なことをやるから日本共産党は嫌われるのだ。
 なお、都立大学は既に本年度から授業料全額免除等を実施している。香西氏は共産党東京都委員会の青年学生部長であるにもかかわらず、それすら知らないのか。
 しかも誤りを指摘されても、「年収910万未満。都内在住に限るのですよね? だから無条件にしましょうよ。」(6月15日のポスト)と、恥ずかしいことに重ねて事実ではない反論をする。
 東京都公立学校法人のサイトには「東京都立大学の新たな授業料減免制度 ~都内子育て世帯への新たな支援を実施(授業料実質無償化)~」として、

学生の生計維持者が都内在住の場合、授業料を全額免除します。(所得制限なし)
※生計維持者が都外在住である場合等、本制度の対象とならない場合でも、経済的理由により授業料の納付が困難である学生に教育の機会を提供する既存の授業料減免制度により、従来どおり、住所に関わらず所得に応じ授業料の全額又は半額を免除します。

と明記されているではないか。
 小池都政では、私立高校授業料の実質無償化が進み、公立と合わせて所得制限が撤廃された。0~2歳の第2子以降の保育料無償化、高校3年生までの医療費無償化、洪水貯水池の整備や高潮対策なども進んでいる。
 蓮舫氏は自民党への目下の逆風を利用して、こうした都政の「リセット」を叫んでいるのだ。日本共産党が「美濃部都政」の再来を夢見て、全力でその蓮舫氏を支援する都知事選。「共産党都政」の悪夢だけは、なんとしても御免こうむりたい。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。