なぜ領収書を公開しない?――〝身内〟からも非難される維新案

ライター
松田 明

身内から「バカ」と言われた立憲

 参議院で審議が続いている政治資金規正法改正案。
 自民党の一部派閥議員による政治資金収支報告書不記載に端を発したこの問題。自民党だけでなく多くの野党でも横行していた、領収書なしの「使いきり」で党から議員に渡される政策活動費など、国民感覚から大きくズレた〝政治とカネ〟が浮き彫りになった。
 政治が国民からの信頼を失えば、政策遂行ができなくなる。失われた信頼を取り戻す最重要課題は「再発防止」、つまりこのような事案を起こさせない制度作りだ。
 この問題にもっとも早く反応したのは与党・公明党だった。公明党は1966年に共和グループから自民党と社会党への献金を暴露し、衆議院解散(黒い霧解散)に追い込むなど、結党当初から〝政治とカネ〟の問題にはどの政党よりも厳しく追及してきた歴史がある。
 今回も、1月半ばには各党に先がけて「透明性の強化」「罰則の強化」など具体案を盛り込んだ「公明党政治改革ビジョン」を発表。4月には事実上の党独自案となる「政治資金規正法改正案の要綱」を発表して、同じ与党である自民党にも独自案の提出を迫った(公明党「公明党政治改革ビジョン」2024年1月18日発表)。
 一方、残念だったのは立憲民主党をはじめとする主要野党が、最初からこの問題を「政局化」しようと図り、実現する見込みのない提案を並べてパフォーマンス合戦に終始したことだった。
 それは衆議院の論戦でも、野党各党の足並みがそろわず、なによりも同じ党内から反対論が噴出するようなお粗末なものだった。
 立憲民主党が出した「政治資金パーティーの全面禁止」は、日本共産党やれいわ新撰組の賛同さえ得られずじまい。「企業団体献金の禁止」も含め、小沢一郎氏ら党内ベテラン議員からも「何をバカなことをやってるんだ」と猛反発が出た。
 政治家の活動には秘書などの人件費をはじめ、当然ながらコストがかかる。現に、「政治資金パーティーの全面禁止」を提案しながら、立憲民主党の岡田幹事長や大串選対委員長はこの5月、6月に政治資金パーティーを予定していた。
 これらを禁止してしまえば、母親からの億単位の寄付を収支報告書には虚偽記載をして受け取っていた民主党政権の鳩山由紀夫・元首相のように、極端な大金持ちしか政治家になれなくなってしまう。
 企業や団体が自分たちの望む政策立案をしてくれる政党や政治家を支援し、その政治活動を支えるために寄付行為をすることは、憲法が保障する自由権でもある。個人はよくて企業団体はだめだというのは合理性のない話で、役員などが個人名で寄付をすればかえって企業・団体と政治の関係が水面下に隠れてしまうだけだ。

不可解な「10年後に公開」案

 自民党はみずからの不祥事に端を発している問題にもかかわらず、反応が極めて鈍かった。党の独自案も公明党から再三にわたって要求されるまで出さず。ようやく出してきた案も、とてもではないが国民の納得が得られるようなものではなかった。
 率直に言って、危機意識があまりにも希薄だったと指摘せざるを得ない。
 その後、自公のあいだで協議が続けられ、最終的に自民党は公明党が主張した内容のほぼすべてをのむ形となった。
 最後まで自民党が抵抗していたパーティー券購入者の公開基準(現行では20万円超)も、自公の党首会談を経て「5万円超」にまで引き下げたのである。公明党が「5万円超」としたのは、政治資金規正法で寄付に関して5万円を超えると収支報告書への記載義務が発生することに合わせたものだ。法律的には整合性が取れる。
 一方、「政策活動費の使途公開」についても、議員の支出の公開まで自民党に認めさせた。ただ、どういう費目で公表するかなどは、そもそも公明党は領収書なしで議員が使えるような「政策活動費」そのものを党内で認めていないので判断材料がなく、与野党協議にゆだねた。
 すると、日本維新の会が政策活動費に関して「10年後の使途公開」を打ち出し、5月31日に自民党と維新の党首会談で合意してしまう。
 しかし、そもそも公訴の時効が5年であり、10年後に不正が発覚したところで罪に問えない可能性が大きい。維新が出した「10年後に公開」というのは実効性が甚だ疑われる。

逆ギレして大恥をかいた維新議員

 6月3日の衆議院特別委員会では、公明党の中野洋昌衆院議員が維新の法案提出者に対し、「10年間公開しない理由は何なのか?」と質問した。
 答弁に立った日本維新の会の青柳仁士衆議院議員は、

今それを出してしまうと外に迷惑がかかってしまうという支出もある。(「衆議院特別委員会」6月3日

と答えた。
 中野議員は、日本維新の会が5月29日に公開した2023年11月~12月に藤田文武幹事長に支出した政策活動費620万円の明細と領収書に言及。領収書の多くが「飲食代」であったことを指摘し、「なぜ飲食代がオープンにできないのか?」と重ねて問うた。
 すると青柳議員は、

もし、わが党に何らかの批判、あるいはご意見をいただくなら、まず御党も同じこと(政策活動費の公開)をしていただきたいと思います。国民の皆さんからご批判を受けるのは当然だと思います。同じ政治家として、政党としてご批判を受けるのであれば、まずご自身もやってから言っていただきたい。まず、これを思います。(同)

と逆ギレした。
 しかし、そもそも公明党は政策活動費というような〝領収書なしで使い切りの金を議員に渡す〟というような制度を党内で認めていない。わずか10日ほど前の参議院予算委員会でも立憲民主党の辻元清美議員の質問に対し、公明党の斎藤鉄夫国交大臣が、

私自身、公明党の幹事長も務めたが、政策活動費の支給は受けていない。そして、活動に支障を感じたことはない(『産経新聞』5月22日

と答えたことは新聞各紙やテレビニュースでも大きく報道されたばかりだ。
 恥ずかしい見当違いの逆ギレをした青柳議員に対し、中野議員は顔色を変えることもなく、

あの、御党もやってくれというご指摘でしたが、公明党は政策活動費を今までやっていないです。で、自民党さんはやってる。立憲さんはもうやめるとおっしゃられた。維新の会さん、まだやられるんですよね? だから、この制度をおそらく使われるのは自民党さんと維新の会さんなんだと思います。ですから、御党もやってくれというか、われわれはもともとそんなものは必要ないというスタンスですので、そういう制度が要るということであれば、なぜ要るのかということは自分で説明をしなければいけないんだろうというふうに思います。(「衆議院特別委員会」6月3日)

と切り返した。

あまりにも杜撰な維新の領収書

 結局、日本維新の会が出してきた「10年後」にする理由というのは、

①お付き合いをしている有識者の名前が出てしまうと政府に意地悪をされる
②機微性が薄れるためにも一定期間が必要
③維新では利用する店がだいたい決まっているので、店名が公開されると記者に張り込みや待ち伏せなど政策活動に重大な支障を生じる

という、わけのわからないものだった。
 日本維新の会の政策活動費の実態については、同党の生みの親である橋下徹氏もテレビ番組で痛烈に批判した。
 6月2日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に出演した橋下氏は、同番組で公開された12万5000円の飲食代金の領収書について、

我々はインボイスを徴収しないといけないので事業者の登録番号というのがあるが、入っていない。消費税もはっきりと明記されていません。もっと重要なのは、12万5000円に10%の消費税がかかってるということは、1・1で割ると税抜きの価格になるんですが、1・1で割ると、とんでもなく中途半端な金額になる。そんな(金額で)メニューを出している店は普通はないと思う。たぶん適当に12万5000円と書いたのではないか(『日刊スポーツ』6月2日

 さらに、民間なら義務付けられている会合の参加人数すら記載されていない杜撰さを指摘した。

「飲み食いの領収書など公開できる」

 橋下氏は6月10日、例の公明党・中野洋昌議員に厳しく指摘された維新・青柳議員の動画を引用する形で自身のXを更新。

【維新国会議員の謎】
国会議員の多くも飲食代の領収書は全てオープンにしている。
公明党は有識者への支払いもすべてオープンにしている。
地方議員は当然フルオープン。
なぜ維新国会議員の飲食代や有識者への支払い、世論調査の発注業務の支払いが公開できないのかさっぱりわからない。
今の維新国会議員も大阪維新の地方議員時代は全てフルオープンでやっていた。
ところが国会議員になるや、急に飲み食いの金額が高額になり、領収書を公開できないとなってしまう。
6月10日の橋下氏のポスト

と、日本維新の会の国会議員たちの姿勢を非難。
 翌6月11日にも、

どれだけ維新国会議員は戦略的飲み食いにお金をぶち込んできたのか。
数千万円ではきかないだろう。
その帰結がこれ。
肝心要の大勝負のときには、飲み食いなど全く無意味。
最後は自分たちの身分を捨てる気迫が全て。
今の維新国会議員にそれがないという証。
自民党に簡単にあしらわれてしまった。
ただ最後の最後の逆転はある。
大阪都構想の一回目の住民投票にこぎつけたのはそれ。
飲み食いで勝ち取ったわけではない。
自民党の打ち上げに藤田幹事長が参加していたらしいが、それは維新が獲得目標を獲得してからではないのか。維新国会議員が衆議院可決後に動画で成果を誇っていたが、それは獲得目標を獲得してからではないのか。
永田町の飲み食い政治を変える政治を。
そうであれば飲み食いの領収書なんか全部公開できるわ!
6月11日の橋下氏のポスト

と痛烈に批判した。
 企業団体献金の全面禁止や、政治資金パーティーの全面禁止など、身内からさえ「バカ」と批判されるほど現実味のないパフォーマンスに明け暮れる立憲民主党と、党の生みの親からさえ「さっぱりわからない」「どれだけ飲み食いしてきたのか」とあきれられる日本維新の会の黒塗り案。
 結局のところ、大枠は公明党の主張に沿う形で合意形成されることになるのだろうが、「良識の府」である参議院では、少しでも国民の信頼を取り戻せるよう、野党はまともな論戦をしてもらいたいものだ。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。