再発防止へ合意形成を図れ――野党の見識が問われている

ライター
松田 明

「公明提言なくして作成できなかった」

 政治資金規正法改正案をめぐり、国会では自民党案や立憲民主党案、日本維新の会案なども出揃って与野党の論戦が続いている。
 周知のように、これは自民党内での政治資金収支報告書不記載など〝裏金作り〟と見られても仕方のない問題に端を発したもの。国民の政治不信はピークに達しており、いつまでも繰り返される「政治とカネ」の不祥事を断ち切ることが、政治の最大の責任である。
 先の自民党・公明党による与党協議で、公明党は「再発防止」に重点を置き、議員に「確認書」を提出させて、会計責任者の報告に違法性のある瑕疵があれば議員も公民権停止などを負う「連座制」の導入を主張。自民党を説得した結果、今回の自民党案にも盛り込まれることになった。
 当初、自民党総裁でもある岸田首相は連座制導入に消極的な姿勢を示したものの、2月下旬には公明党案について「事案の対応に応じた責任追及が可能となり、参考になる」と表明。
 5月23日の衆議院政治改革特別委員会では、自民党の法案提出者である小倉将信氏が、自民党案の「連座制」は公明党案を踏襲したものであることを明言した。

自民党の法案提出者・小倉将信氏は「公明党が各党に先駆けて、いわゆる連座制を提言した。公明党の提言を取り入れ、政治団体の代表者が行うべき監督を具体的に規定するとともに、(収支報告書を代表者が確認したことを示す)『確認書』制度を設けた」と説明。議員の監督責任強化に関して「自民党の改正案は公明党の提言なくしては作成できなかった。公明案と同じものだ」と述べた。(『公明新聞』5月24日

立民党内から異論が噴出

 一方、野党はこの問題で国民の政治不信がさらに強まり、自民党への批判が高まることが次期総選挙で自分たちに有利だと判断しているのだろうか。立憲民主党は国民民主党と共同で「連座制」や「政策活動費の禁止」などを掲げた改正案を提出したが、独自案として「政治資金パーティーの開催禁止」「企業・団体献金の禁止」などを提出した。
 自民党が受け入れられないことを見越して、あえて独自案を出してきたように見える。
 しかし、いつものことながら、こうした小手先のパフォーマンスをしたことで、かえってブーメランのように墓穴を掘ってしまった。
 立憲民主党が「政治資金パーティーの開催禁止」「企業・団体献金の禁止」を提案したことに対し、早くも審議入りの前に党内から批判が出たのだ。

 立憲民主党の小沢一郎衆院議員は14日、同党が政治改革案として掲げる企業・団体献金と政治資金パーティーの全面禁止に異議を唱えた。献金禁止について「反対だ。何をばかなことをやっているんだ」と述べ、執行部を批判した。国会内で記者団の質問に答えた。(「時事ドットコム」5月14日

 小沢氏は審議入りの前日、21日にも記者団に、党の決定への反対を述べた。

立憲民主党の小沢一郎衆議院議員は21日午後、記者団に対し「規制強化ばかりでは自縄自縛になり、どうしようもなくなる。政治資金パーティーもダメ、企業・団体献金もダメと何でもダメにすると、お金については潜りに潜って裏の話になってしまう」と指摘しました。
そのうえで「政治にカネがかかることは変わらず、このままでは大金持ちでなければ政治ができなくなる。解決策は政治資金を全部オープンにするしかない」と述べました。(「NHK NEWSWEB」5月21日

 いつものごとく、法案を出す前に党内のコンセンサスすら取れていない。

パーティーを準備していた立民幹部

 さらに立憲民主党の迷走を深めたのが、幹部による政治資金パーティーの開催計画だった。国会会期中の5月27日に、なんと岡田克也幹事長の政治資金パーティーが予定されており、そのことに批判が噴出している渦中の23日に、大串博志選対委員長までもが6月にパーティーを開催すると発表したのである。
 立憲民主党は今年1月26日の「次の内閣」閣議で、自民党派閥の裏金事件を受けた政治改革の考え方を決定し、政治資金パーティーの全面的な禁止を盛り込んだばかりではなかったか。しかし、その矢先、安住淳・国対委員長が4月に政治資金パーティーを開催している。
 そして今度は独自改正案でパーティーの全面禁止を訴える政党の選対委員長が、法案審議の続く国会会期中にパーティーを開くというのだ。ある野党幹部の言葉を借りれば、「禁煙すべきである」と主張している当人が平然とタバコを吸っているようなものではないか。
 さすがに整合性が取れないのではと記者から問われた大串氏は、

「私たちの法案は、政治全体で政治資金パーティーをやめようというもので、法律が成立すれば行わない。その間に個人で行うことはありえるスタンスであり、その考え方に沿ったものだ」と述べ、法案が成立するまでは、開催は制限されないという認識を示しました。(「NHK NEWSWEB」5月23日

 あきれたことに、「全面禁止」を掲げながら、法案が成立するまでは開催してよいというのだ。最初から各党の合意が得られず、「全面禁止」が盛り込まれるはずがないと見越したかにも受け取れる発言ではないか。
 これには日本維新の会の馬場代表も、「立憲民主党は、立派なことは言うが、なかなかやらない」と皮肉った。
 公明党の谷合正明・参議院幹事長も、自身のSNSで、

公明党は、立憲民主党のように、パーティー自体を禁止するという考えは取らない。
しかし、昨年末から公明党は、政治資金規正法の改革がなされるまでは、政治資金パーティー開催は自粛することを決め、全議員がそうしている。
立憲幹部によるダブルスタンダードにあきれる。(5月23日の谷合氏のポスト

と痛烈に批判した。

あわててパーティー中止を発表

 立憲民主党の内部からも批判が出た。前政調会長の小川淳也氏は5月24日に出演したBS11の番組で、「成立していないとはいえ、法案をまとめた側の道義的、政治的責任は既に発生している」と岡田氏や大串氏を批判。政治資金パーティーの開催をやめるべきだと述べた。
 それでも代表の泉健太氏は、この日の時点では問題ないという認識に終始した。
 同じ24日、記者からこの問題を問われた泉健太代表は、法案成立までは個人を縛るものではないという見解を示したのだ。

もう立憲民主党としての考え方は明確で、この、今、与党野党の議員がパーティーを開いてきた経緯経過があるなかで、さはさりながら、パーティーを禁止しましょうという提案をしているわけですよね。
で、パーティーを禁止しましょうという提案をしているからといって、その提案前に全部、われわれが、一切収入を閉ざした状況でも、事務所の運営をやっていけるという状況までにしないと、こういう提案ができませんと言われたら、それはいつまで経ってもできない話であって、現実がある時にいかにして、やっぱり、次はこういう改革をしましょうという議論をしていく上では、やはりさっき言ったようにその法案のなかに経過期間があり、そして施行期日があり、その時までにちゃんとすべての政治家が、このルールに従ってパーティーをなくしていく。パーティーに頼らなくてもいい状況を作っていかなくてはいけないわけですから……法案の提出をした時点で禁止しなきゃダメだとかっていうことだと、それはやはり現実的ではない。(立憲民主党公式チャンネル「泉代表定例記者会見」5月24日

 もはや何を言っているのかわからない。いや、むしろ正直でよくわかる。要するに国民ウケを狙って党内合意も得ないままに「全面禁止」とぶち上げたけれども、それは今すぐではなく数年後に法律を施行しましょうという話なので、それまでは立憲民主党の議員もパーティーで資金を蓄えて体力をつけなきゃいけませんという、身も蓋もない話なのだ。
 橋下徹氏は自身のXで、

仮に立憲民主党が政権を獲ったとして、泉氏が日本の首相としてこんな会見をやるの?それは勘弁だろ。
まあ他に誰がいるのか分からんが、少なくともこんな会見をやる日本のリーダーは勘弁して欲しい。(5月24日の橋下氏のポスト

と、野党第一党のお粗末ぶりを嘆いた。
 共産党との連携を視野に入れてか「パーティーの全面禁止」を独自提出した立憲民主党のあきれた実態に、国民からも批判が殺到。25日になって、岡田幹事長も大串選対委員長も相次いで「パーティーの中止」を発表した。
 党内の批判は収まらず、25日、都内で都議会補選の応援演説に立った蓮舫氏は、

さて、きのうから報道されています、立憲民主党、岡田克也さん、小串博志さん、ふざけるなと私は思っています。(中略)ようやくパーティーやめたそうですよ。えらい迷惑です。

と自分の党の幹部たちを批判した。

矛盾が目立つ野党の提案

 野党が提案している「企業・団体献金の禁止」についても、聞こえはいいが、実態が伴うのかは疑わしい。というのも、じつは「政治団体を除く」と付言されているのだ。
 これについて、5月23日の衆議院政治改革特別委員会で、公明党の中野洋昌氏が立憲民主党と日本維新の会に意図を問いただした。
 両党の説明は、政治団体からの資金移動まで禁止してしまうと、政党から政治家への資金移動までできなくなること。さらに政治団体は政治活動をするために設立されていて、それは憲法が認める権利であり、政治活動にとって必要な資金移動を禁止することは憲法に抵触するというものだった。
 中野氏は、「業界団体や組合ではなく、それが作る政治団体が寄付をしているのが実態だ。政治団体からの献金が防げないということは、実質的には献金は続くことになるのではないか」(公明党公式チャンネル「衆議院 政治改革特別委員会」5月23日)と疑問を呈した。
 5月24日の衆議院政治改革特別委員会では、自民党の山下貴司氏が立憲民主党の岡田克也幹事長の政治資金収支報告書の内容について指摘をした。
 山下氏はまず、岡田氏が平成13年(2011年)以降、自らの政治資金収支報告書の内容を公開していることを「ここまで開示している立憲民主党の議員はいません」と評価した。
 そして、これは与野党を問わず政治資金とは何かを考える材料になるとして、以下のことを示した。
 公表されているものを見ると、平成13年から令和5年(2023年)までの13年間で、岡田幹事長が政治資金パーティーで得た収入は合計18億円にのぼる。法人からの寄付が約4億円超、個人寄付が2億円。立憲民主党の政治改革本部長でもある岡田幹事長が20年以上にわたって政治資金パーティーをやり続け、パーティー収入は直近では5000万円、多い年は1億円を超える。その利益率は令和5年の報告書では92%に達している。
 立憲民主党は、政治資金パーティーは企業・団体との癒着や賄賂性を伴うとして「全面禁止」を主張しているわけだが、山下氏は立憲民主党の法案提出者に対して、立憲民主党内での調査でもそのような〝癒着・賄賂性〟が確認されたからなのか、と問うた。
 立憲民主党の本庄知史氏は、あからさまに不快な表情で、

わが党においては、御党派閥のような組織的・継続的な裏金作りは確認をされておりません。また、ご指摘のような具体的な話もありません。したがって、調査はおこなっておらず、その必要もないと考えております。

とだけ答弁した。

問われているのは野党の能力

 岡田幹事長は自分に届いたあらゆる贈答品を送り返すことで有名なほど、金銭には潔癖な政治家らしい。山下氏が指摘したのは、その岡田幹事長でさえ、年平均して1億円以上の政治資金パーティー収入を必要とし、企業や個人からも億単位の寄付を受けなければ、政治活動がままならないという現実である。
 もし、立憲民主党案のようにこれらを禁止すれば、莫大な個人資産のある超富裕層の人間でなければ政治家になれないことになってしまうだろう。ちなみに、岡田氏は三重県の古い豪商の出身で、実兄は国内外に店舗を持つイオングループのCEOである。その岡田氏さえ、パーティーや寄付がなければ政治活動ができないのである。
 すべての人間に政治家への道を開き、憲法に保障された権利を行使できるようにするためには、必要な資金を調達する仕組みはやはり必要なのではないのか。
 問題は、そこに透明性が担保されないことなのだ。与党協議のなかで、公明党が強く主張したのは、まさにその透明化の具体的方法だった。
 公明党が4月にまとめた政治資金規正法改正案の「要綱」では、

・政治資金パーティーの対価の支払いを「預貯金口座への振り込み」に限定
・支払者の公開基準を「パーティー1回当たり5万円超に引き下げ」
・「政策活動費」については、使途に関して「明細書」の義務化
・政治資金収支報告書のオンラインによる提出を義務化
・外部監査の充実強化や第三者機関の活用

などを掲げている。
 与党協議を通して、自民党は公明党の主張の大部分を受け入れた。
 今国会で改正案を成立させるという政治日程を考えると、衆議院での議論は今週が一つの山場になるだろう。野党は、できもしない、また逆に社会に著しい不公平をもたらしかねない無理筋の提案や、抜け穴だらけの提案に固執すべきではない。
 ここぞとばかりにテレビ中継の前で肩をいからして政局化するのではなく、現実的に自民党を巻き込み、今こそ「政治とカネ」の問題を断ち切れる透明性ある合意形成に努めるべきである。
 今国会で問われているのは、ある意味で野党の良識と能力であろう。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から、「WEB第三文明」で政治関係のコラムを不定期に執筆。著書に、『日本の政治、次への課題』(第三文明社)がある。