自民党は厳しい覚悟で自浄作用を――政治は一刻の遅滞も許されない

ライター
松田 明

「強制捜査」の衝撃

 12月19日、東京地検特捜部は政治資金規正法違反の疑いで強制捜査に着手。自民党安倍派「清和政策研究会」事務所と二階派「志帥会」の事務所をそれぞれ捜索した。
 このうち安倍派については、政治資金集めのパーティー券を販売した際、議員へのノルマを超えた分の収入を派閥側が政治資金収支報告書に記載せず、しかも支出としても記載しないまま議員側にキックバック。さらに議員側の政治団体でも受け取ったキックバック分を政治資金収支報告書に記載していなかったとされる。その額は過去5年間だけで総額5億円になるという。
 また二階派でも派閥の収入として過少記載(虚偽記載)していた疑いがあり、総額は過去5年間で1億円に上ると報じられている。

安倍派と二階派では、派閥側の指示のもとでパーティー収入の一部を収支報告書に記載しない運用が組織的に行われていた疑いがあり、特捜部は、捜索で押収した資料を分析するなどして、派閥の幹部や議員の認識など詳しい経緯について実態解明を進めるものとみられます。(「NHK NEWSWEB」12月19日

 特捜部は既に派閥の職員らから事情聴取をおこなっており、強制捜査に踏み切ったのは、派閥の政治家の関与を洗い出して政治家を起訴することも視野に入れたものと見られる。
 1月中旬からは通常国会が開会するため、それまでのあいだに立件できるかどうか、予断を許さない状況が続く。

公明党から発言が相次ぐ

 連立を組む公明党の石井啓一幹事長は既に15日の記者会見で、来年1月召集の通常国会で政治資金規正法改正など政治改革を進めるよう主張した。

「通常国会は『政治改革国会』の色合いが強くなる。それまでに改革案をまとめたい」。公明の石井啓一幹事長は15日の記者会見で、自民を巻き込んで「政治改革をリードする」と強調した。(「時事通信ニュース」12月15日

具体的な再発防止策を巡っては、政治資金規正法で「パーティー会費の公開対象金額を下げたり、罰則を強化することなど幅広く検討していく必要がある」と指摘。また、国会議員に支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の改革や、公職選挙法違反で当選無効となった国会議員の歳費返納にも取り組む考えを示した。(『公明新聞』12月16日

 また山口那津男代表は本年最後の定例会見となった19日の会見で、強制捜査に言及。以下のように発言した。

実態を解明するということがまず先決でありまして、これは捜査の進展を注視していく必要があります。また、この進展に伴って、やはり国民の信頼が揺らぎ、内閣支持率が低下をする。こうした国民の信任が乏しくなることによって、政権の危機にも直面しているわけであります。この点で、政権としてやらなければならないこと、つまり行政は一日一刻の停滞も許されません。その点で国民、そしてまた社会経済のために、政府がやらなければならないことはきちんとやっていくという実行力と、それを実行していく内閣の態勢を整えていかなければなりません。(山口代表定例記者会見「公明党チャンネル」2023年12月19日

特捜部の関心はどこにあるのか

 この問題では「パーティー券」「キックバック」「裏金」といったパワーワードが飛び交い、メディアも〝街の声〟として人々の素朴な印象論を切り取って発信する。ただし、何が適法で何が違法なのかは立て分けて考えなければならない。
 まず、政治家が政治資金パーティーを開くことそのものは当然ながら適法である。
 わが国では、企業・団体などからの政治献金を制限する代わりに、政党助成法による国庫からの政党交付金(国民1人あたり年間250円)が一定要件を満たした政党に支給されている。
 そのうえで、各党や議員が政治活動に必要な資金を募る方法としてパーティーを開催することが、与野党問わずおこなわれてきた。政治資金パーティーは政治資金規正法8条にも規定されており、もちろん違法ではない。
 議員の政治活動で必要になるのは、やはりスタッフの人件費が大きいといわれる。国家公務員特別職として公費で給与が支給される秘書は3人。それ以上のスタッフを国会や地元に抱えようとすれば、議員が費用を負担するしかない。
 たとえば米国の連邦議会の場合、公費で賄われるスタッフの数は下院議員で約20名、上院議員では平均40名前後になる。広報担当、立法担当、日程担当、選挙区担当など役割も細分化され、議員の政治活動のクオリティを担保している。この点、日米では議員立法の数が違うとはいえ、やはり大きな差がある。
 先ごろ問題になった日本維新の会のケースのように、市議会議員を国会議員秘書に兼業させ二重に給与を得させるなどは論外だが、政治家が優秀なスタッフを多く抱えることそれ自体は問題ないし、政治活動が充実するならば有権者にとっても好ましいはずだ。
 次に、ノルマを超えて集まった資金を議員にキックバックしたとしても、これも行為自体は何ら違法ではない。政治資金として流れがきちんと可視化されていればいいわけで、派閥の金庫に納まるより議員の政治活動の原資になるほうが、支持者の意図にも沿う。今回は収支報告書に記載されていなかったことが問題視されているのだ。
 そして、東京地検特捜部が重大な関心を持っているのは、そのように「裏金」化された資金の使途であろう。特定の政治家の重大な関与が浮上した場合、仮に不起訴に終わった場合でも検察審査会から「起訴相当」とされる可能性はあり、永田町には緊張が続く。

政治改革と政治の安定へ

 東京佐川急便事件など金権腐敗が国民の不信を招き、自民党は政権の座から滑り落ちた。岸田文雄首相や故・安倍晋三氏らは、自民党が下野することになった1993年の総選挙で初当選した政治家だ。自民党が今また自浄作用を発揮できないならば、国民は厳しい審判を突き付けるだろう。
 公明党の石井幹事長は、来年の通常国会においてこの政治資金問題をしっかり議論できるよう再発防止への案を示すとし、パーティー券購入者の氏名記載を収支報告書に義務付けている額を現行の20万円から引き下げることや、違反した場合の罰則の強化などを検討する考えを示した。
 目下、物価が高騰するなかで、すべての国民が安心して冬を越せるよう、政治には一瞬の遅滞も許されない。また物価高騰に対して賃金の上昇を追いつかせるための重要な局面を控えている。
 内閣支持率は依然として危険水域だが、それでも山口代表が述べたように、政権として進めなければならないことは進める態勢が必要だ。
 政治の安定と政治の浄化。自民党単独政権でなく公明党が連立に加わっていることの意義は大きい。

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まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から「WEB第三文明」にコラムを不定期に執筆している。著書に『日本の政治、次への課題』(第三文明社)。