(上)では池田会長自身の著作から紹介したが、(下)では対談集、香峯子夫人のインタビュー集をはじめ、証言者たちのオーラルヒストリーによる評伝、識者による研究解説書、創価学会や会長の歴史が一冊で読めるテキストなど多様な書籍を10冊ピックアップした。
なお書評子の個人的な選書であり、原則として現時点で新刊が発売中のものとした。この他にも挙げるべき書籍は多々あると思うがご了承いただきたい。
20世紀最大の歴史家といわれるアーノルド・J・トインビーとの対談集。既に高齢で心臓疾患を抱えていたトインビーの要請を受けた池田会長は、1972年と73年、ロンドンのトインビー邸を訪れ、延べ10日間・40時間に及ぶ対談をおこなった。
内容は77のテーマにわたり、世界の多くの識者から「人類の教科書」「現代の百科事典」「すでに古典」等の称賛が寄せられている。
31言語(2023年11月時点)に翻訳されており、池田会長が会見してきた各国の元首や要人、大学首脳や識者のなかには、この書物を通して池田会長を知り、出会いを求めてきたという人も少なくない。
半世紀以上前の対話でありながら、時代を経てもまったく精彩を失わず、むしろ21世紀の今日を先取りする議論が交わされていることに驚く。
ソ連の最初で最後の大統領として東西冷戦を終結に導いたミハイル・S・ゴルバチョフと池田会長の対談集。
両者はモスクワ大学総長だったログノフや作家のアイトマートフといった共通の友人を介し、出会う前から互いへの尊敬を深めていた。1990年のクレムリンでの初会見の折、ゴルバチョフは「会長の理念は、私にとって大変に親密なものです。会長の哲学的側面に深い関心を寄せています。ペレストロイカの『新思考』も、池田会長の哲学の樹のひとつの枝のようなものです」と述べている。
両者は10回の出会いを重ね、生涯にわたって友情を深め合った。東洋の仏教指導者と、社会主義国のリーダーだった政治指導者という、まったく異なるバックボーンに立ちながら、共鳴し合い、人類の未来へ真剣に心情を残していく。
各国語に翻訳され、広く世界の識者たちにも読まれている一冊。
2005年に主婦の友社から刊行されミリオンセラーとなった書物。池田会長の妻である香峯子夫人がインタビューに答えるかたちで、自身の幼少期からの半生を語りつくしている。
会長との結婚、子育て、家計のやりくり、休みなく国内外を駆け巡る夫の健康を支える姿、女性としての生き方など。誰よりも「池田大作」を知る妻として、家族の視点から描き出される会長の姿。
月刊誌『潮』誌上で2010年から始まった評伝の単行本化。現在も連載は続き、単行本も2023年11月時点で18巻まで出ている。「池田大作とその時代」編纂委員会著。
学会員だけでなく池田会長と交流したさまざまな人々の証言や手記、報道などをもとに編まれるオーラルヒストリー。書き手の主観や憶測を排し、具体的に誰が、いつ、どのように、といった事実を厳密に踏まえて編纂されている。
貧困にあえぐ草創期の学会の座談会で、容赦なく創価学会を襲う謀略や中傷の暴風のなかで、あるいは外国要人との会見や対談を控えた舞台裏で、過酷な国内外での激励行のなかで、大学や学園のキャンパスで、池田会長と出会った人々は何を受け止め、どう人生を切り開いていったか。
それぞれの個人の人生の転機となった池田会長との一瞬の数々。その膨大な点と点とを通して、常に目の前の1人の人間と真剣勝負で向き合い、幸福と勝利への励ましを送り続けた池田会長の信念と人間像が浮かび上がってくる。
元外務省主任分析官で作家、キリスト教徒である佐藤優氏の大部の著。『アエラ』に連載され朝日新聞出版から刊行された。インテリジェンス分析とキリスト教神学の方法から池田会長の人と思想に迫る。
佐藤氏はかねてより、キリスト教の成立・発展過程とのアナロジー(類推)で、創価学会もまた世界宗教化への道を着実に歩んでいると指摘してきた。全150巻の『池田大作全集』を手元に揃え、会長の主要な著作を徹底的に読み込んだうえで語る氏の池田大作論は、余人の追随を許さない迫力と説得力がある。
池田会長とトインビーの対談集『二十一世紀への対話』を佐藤優氏が読み解いていく一書。東日本大震災のあと、2011年9月に発売された月刊誌『潮』10月号から2年間連載され、2014年に単行本化された。
執筆の動機について佐藤氏は、日本の行き詰まりの根本原因が国会議員や官僚といったエリートが偏差値秀才ではあっても思想が欠如していることにあると指摘する。〈本書の狙いは、二十一世紀にわれわれが生き残っていくための生きた、ほんものの思想を創価学会名誉会長で創価学会インタナショナル会長の池田大作氏のテキストから虚心坦懐に学ぶことにある。〉と綴っている。
折しも連載は民主党政権時代に始まり、その途中で政権交代が起きて再び自公連立政権の時代を迎えた。〈創価学会を支持基盤とする公明党は与党になった。そのことによって、日本の国家権力が暴走する危険が抑制されている。「国家主義というのは、一種の宗教である。誤れる宗教である」という池田大作氏の思想が、政治エリートに定着することが、真の意味で日本の社会と国家を強化することにつながると私は確信している。〉
2017年9月から12月にかけて創価大学でおこなわれた著者の課外連続講座をまとめたもの。本書でもキリスト教とのアナロジーを踏まえ、また創価学会が進めていた会憲の制定など諸改革を分析し、創価学会が世界宗教として発展しゆく可能性を縦横に論じている。
著者にとっての創価学会との出会いのひとつは、同志社大学神学部に在籍していた時代に、クリスチャンである幸日出男教授から牧口常三郎・創価学会初代会長への高い評価を聞いた時だったという。
この連続講義が実施された2017年は安倍政権時代。公明党は安全保障や税制でも日本の進路に大きな影響力を持つようになっていた。それだけに一部には公明党の連立参加を非難する声や、創価学会執行部が池田会長の考えを踏みにじっている等と糾弾するような声があった。
そうしたなかで著者は、世界宗教になり得る宗教の条件についてさまざまな角度から論じ、創価学会の世界宗教化と公明党の与党化が必然のものであることを明らかにしていく。
さらにこれまでの世界宗教が歩んできた道のりの問題点にも言及し、これからの世界宗教がいかなるものであるべきかを語る。混沌とした世界情勢のなかで、公明党が政権に参画する意味について明快に示された一冊。
「WEB第三文明」 書評『世界宗教の条件とは何か』――創価大学での課外連続講座から
米国のモアハウス大学は、奴隷解放の2年後、1867年に創立されたキリスト教パブティスト派の大学。キング牧師の母校として名高い。
著者のローレンス・E・カーター氏は、そのモアハウス大学のキング国際チャペルの所長を務め、キングの精神の継承に人生をささげてきた。本書でカーター氏が一貫して強調しているのは、キング牧師の最終的な理想が、あらゆる差異を超えた「世界という家」の実現にあったことだ。キング牧師はガンジーに深く共鳴していた。
だが共に悲劇的な形で生涯を閉じたガンジーとキングは、非暴力運動と社会変革のための平和運動の指揮は執ったものの、その精神的遺産を継承していく組織を構築することができなかったと、カーター氏は考えている。
そして、創価学会と池田会長を知ったことでカーター氏は大きな希望を見出す。〈池田会長とSGIは、究極の宗教的な実用主義者(プラグマティスト)だと思います。老若男女を問わずあらゆる人に、信仰の教典と手段と組織を与えて、自身の成仏、組織的行動、平和運動への取り組みを可能にしているからです。このような非凡な精神性は、他のどの宗教団体でも見たことがありません。わが師キング牧師の非暴力哲学を、どうしたら永久に継承していけるのだろうかと絶望していた日々から私を救い出してくれたのは、池田会長と創価学会との交流でした。〉
モアハウス大学は「融和のためのガンジー研究所」などと協力して、2001年4月に「ガンジー・キング・イケダ――平和建設の遺産」展を開催。同展は全米や世界を巡回し、各国の名門大学のほか、パラグアイやニュージーランドでは国会議事堂で、ベルリンやレイキャビクでは市庁舎で開催されている。
『牧師が語る仏法の師』(第三文明社刊)
「WEB第三文明」 書評『牧師が語る仏法の師』――宗教間対話の記録
池田会長を主軸に、創価学会の創立から今日までの1世紀近い歴史が1冊で学べるようにつくられたテキスト。
池田会長時代になって創価学会は日本最大の民衆勢力に発展し、学術機関、文化団体、政党などを相次いで設立。宗教を基盤とした平和・文化・教育の運動を展開した。
さらに会長は世界の一級の学識者らとの旺盛な対話を開始し、米中ソの指導者らとも胸襟を開いた対話を重ねていく。東西冷戦の渦中にあって民衆の声で国連を後押しし、核廃絶への世界的な潮流を拡大することに貢献した。
一方で、国内では公明党の進展を疎ましく思う勢力や、会長を追い落として創価学会を支配下におさめようとする者たちからの謀略が、マスコミを巻き込みながら繰り返されてきた。
本書は時系列に事実を追いながら、「言論出版事件」「月刊ペン事件」「第一次宗門事件」「第二次宗門事件」「四月会騒動」などが、どのような構図によって仕掛けられてきたのかを丹念に掘り起こしていく。
たしかに、一冊でこれらを含めた創価学会史を俯瞰できるテキストは他にないだろう。
さらに、21世紀に入って世界がどのように創価学会と池田会長を評価してきたか。学会が世界宗教へと飛翔するためにどのように宗教的基盤を整えていったかも記されている。
なお本書の原形となる書籍は2002年に刊行されており、以後、3回にわたって大幅に加筆改定がなされてきた。書名については〈そもそも宗教とは聖職者の専有物なのか、それとも民衆のためにあるのか〉という問いかけから生まれたものだという。
『新版 宗教はだれのものか──三代会長が開いた世界宗教への道』(電子版は第三文明社刊)
「WEB第三文明」 書評『新版 宗教はだれのものか』――「人間のための宗教」の百年史
池田会長の事実上の「伝記」。創価学会少年少女部の機関紙『少年少女きぼう新聞』に、2018年4月から2019年12月まで連載された企画をまとめたもの。
会長の誕生から戦時下の少年時代、戸田会長と出会って民衆運動の先頭に立ち、第三代会長となって世界に平和・文化・教育の道を開いていく生涯が、時系列に20の章立てで記されている。
それぞれの章には該当時期の年表が添えられ、世の中の出来事と池田会長・創価学会の出来事が併記されているので便利。
小学生が読めるようにつくられているが、内容は充実しており、未来部担当者や保護者など大人たちからも好評だという。
ほがらかに! 勇気を出して!
負けない心で!
みんなは一人残らず、池田先生という「王者」から王冠をゆずり受けた、「王子」「王女」なのですから。(本書)
シリーズ:
「池田大作」を知るための書籍・20タイトル(上) まずは会長自身の著作から
「池田大作」を知るための書籍・20タイトル(下) 対談集・評伝・そのほか
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