国内外から寄せられた弔意
池田大作・創価学会インタナショナル会長(創価学会名誉会長)が、11月15日夜半、老衰のため新宿区内の居宅で95年の生涯を閉じた。
逝去は創価学会創立記念日である18日の午後に公表された。創立記念日の諸行事と、とりわけ創価学園の行事に影響を与えないようにという家族の意向で、同日午後まで公表を控えていたという。
逝去の報は各メディアで一斉に報じられ、各地で新聞の号外も出た。またロイター、AP、AFP、BBC、ロシア通信、環球時報など外国メディアも速報を打ち、世界各国に伝えられた。
岸田首相は米国でのAPEC首脳会議から帰国する政府専用機内で訃報を受け、自身のX(旧ツイッター)で弔意を表明。19日未明に帰国すると朝から広島に移動して義父の葬儀に出席し、午後7時過ぎに羽田空港から創価学会総本部に直行して遺族らを弔問した。
立憲民主党の泉代表や日本維新の会の馬場代表からも弔意が表明され、公明党だけでなく他の与野党の国会議員らも会長の著作を引用するなどしてSNSに弔意を示した。
中国の習近平国家主席は岸田首相宛に弔電を送り、池田会長の功績を称えて哀悼の意を示すとともに、遺族への弔意を伝えた。
このほか公表されているだけでも、韓国の尹錫悦大統領、中国の王毅外相、ロシアのガルージン外務次官、チョウドリ元国連事務次長、米国、中国、インドはじめ各国の駐日大使、ローマクラブの2名の共同代表、マハトマ・ガンジーの令孫エラ・ガンジー博士、核時代平和財団、サイモン・ウィーゼンタール・センター、日本の国連関係機関代表、各国の大学首脳や学識者などから続々と弔意が寄せられ、一様に世界平和と人類社会への貢献が称えられた。
読売新聞(19日)、毎日新聞(21日)は「社説」で会長の業績などを報じている。
「会長は人類にとっての真の恩恵」
筆者があらためて実感したのは、世界のリーダーや一級の知性たちが見ている「池田大作」像と、日本社会の大半が見ているそれの大きな断絶であった。
たとえば池田会長と何度も会見を重ねたアンワルル・チョウドリ元国連事務次長は、弔意のメッセージのなかで、次のように述べた。
池田大作氏は、人類に対して、今日の世界の複雑さと試練に、勇気を持って立ち向かうための希望と方向性を与えられました。私たち一人一人に内在する最良のものを引き出すために、人間の価値と理想の次元を精緻に表現された、池田氏の創造的なエネルギーと知的な広がりに敬意を表します。池田氏の人生、その教え、そして全ての人に対する限りない共感は、人類にとって真の恩恵なのです。(『聖教新聞』11月23日)
この短い文言に、世界のリーダーが見ている池田会長の軌跡と人間像が端的に表れている。チョウドリ氏は国連安保理議長やユニセフ執行議会議長など要職を歴任し、第1回「国連の精神賞」を受賞している人物だ。
公民権運動の指導者キング牧師の母校である米国のモアハウス大学には、キングの精神の継承を使命とするキング国際チャペルがある。
先日(2023年9月)米国の公共放送PBSの報道番組でカマラ・ハリス副大統領がインタビューに応じた際、副大統領の背景にキング牧師と並んで池田会長の肖像が映り込んでいたことがネット上でも話題になった。じつは、この場所がキング国際チャペルだった(PBS NewsHour:VP Kamala Harris on Biden’s visit to striking UAW workers)。
キング国際チャペル所長のローレンス・E・カーター牧師は、2018年に米国ミドルウェイ出版社から『A Baptist Preacher’s Buddhist Teacher』(バプティスト牧師の仏法の師匠)を出版している(邦訳『牧師が語る仏法の師』第三文明社刊)。
同書は、キリスト教のもっともすぐれた書籍に贈られるイルミネーション・アワード「回想録」部門で2019年の金賞に輝いた。カーター氏は同書のなかで、自身がキング牧師とガンジー、そして池田会長を「師匠」と定めた理由を綴っている。
池田会長の下からは、これから何世代にもわたって平和の弟子たちが陸続と輩出されるでしょう。池田会長は、彼らを励まし、教育し、自身の内面と世界に平和を構築する方途を授けています。私が最初から「この人だ」と思ったのは、そのためです。池田会長の中に、ガンジーとキング牧師の面影を見たのです。もしガンジーとキング牧師が生きていたら述べたであろう言葉を、池田会長が語っているからです。(同書)
カーター氏の提唱で、モアハウス大学は「融和のためのガンジー研究所」などと協力して「ガンジー・キング・イケダ――平和建設の遺産」展を、2001年から各国の国会議事堂や首都の市庁舎、名門大学などで巡回してきた。
また池田会長は北京大学(3回)、モスクワ大学(2回)、ハーバード大学(2回)、フランス学士院など、世界の大学・学術機関で30回を超す講演をおこなってきた。ハーバードでの講演に会長を2度招聘し、講評に立ったのはヌール・ヤーマン、J・K・ガルブレイス、ジョセフ・ナイ、ハービー・コックスといった、同大学の誇る重鎮たちだった。ヤーマンやガルブレイス、コックスはその後、会長と対談集も各国語で刊行している。
池田会長には生前、世界5大陸の名門大学から408の名誉学術称号が授与された。1755年創立のモスクワ大学は、これまでゲーテ、ダーウィン、湯川秀樹、周恩来、マンデラなど約300人に名誉学術称号を授与してきたが、池田会長には名誉博士と名誉教授の2つの称号を授与している。
純粋に個人でなした功績に対し、わが大学の2つの称号を受けられた方は、池田博士が初めてであり、現在のところ唯一の方であります。(ヴィクトル・サドーヴニチィ総長の「名誉教授」称号授与の辞/2002年6月)
「分かっていないのは自分だ」
これらはいずれも池田会長を見る世界からのまなざしの一端に過ぎないのだが、宗教団体の指導者という枠をはるかに超えて、その思想と行動に重大な関心が払われてきたことがわかる。
中国とソ連が国境線に軍を配備し、核攻撃も辞さない深刻な対立にあった1974年、池田会長は中ソ両国の首脳と会見。ソ連のコスイギン首相から「ソ連は中国を攻めない」という言葉を引き出し、中ソの緊張緩和へと導いた。
米国とキューバが一触即発の緊張状態にあった1996年6月、池田会長を迎えたカストロ議長は、革命以来40年間で初めて軍服ではなくスーツ姿で公式の場に現れた。暗殺を恐れて国を出なかったカストロが、会長との会見直後から世界への対話の旅を開始し、自身を破門したバチカンのローマ法王とも会見して関係を修復している。
岸田総理大臣は18日、旧ツイッターの「X」に「池田大作氏のご逝去の報に接し、深い悲しみにたえません。池田氏は、国内外で平和、文化、教育の推進などに尽力し、重要な役割を果たされ、歴史に大きな足跡を残されました」などと投稿しています。(「NHK NEWSWEB」11月19日)
池田会長の果たしてきた功績を考えれば、この首相の投稿は穏当なものだろう。しかも会長の歴史的な足跡を称えたものであって、信仰に評価を加えたものではない。
他の宗教団体の指導者が亡くなっても首相は同じような言葉を出すのか等の批判もあったようだが、池田会長と比肩するほど多方面に功績を残す宗教者がどこにいるのかという単純な話である。
この首相の投稿を「政教分離」違反などと言い募るお粗末な非難があったことには、さすがに思想信条にかかわりなく、明確に否定する見解がいくつも出された。
要は
・岸田首相らの池田大作氏追悼コメントを批判するのは自由
・だがそれを政教分離に絡めて批判すると、憲法に定める政教分離とは何かを分かっていないのは自分だ、ということを露呈してしまう
というだけのこと。(JX通信代表・米重克洋氏のXへのポスト)
本来の意味もわからずに「政教分離」と騒ぎ立てる社会になれば、むしろ各人の信教の自由が抑圧され毀損されてしまう。
ヨーロッパ最大の仏教団体
池田会長の時代に創価学会は世界192カ国・地域に広がった。もちろん海外に布教している日本発の教団はいくつもあるが、たいていは日系人コミュニティのなかに留まっており、〝その国の宗教〟として根付いて大きく発展しているのは、実質的に創価学会以外に見あたらない。
フランスSGI(創価学会インタナショナル)は2007年に本部を置くオードセーヌ県で、宗教儀礼を実践する「典礼法人」に認められている。かつてフランスSGIなど173団体を「セクト」とした杜撰なリストが1995年から存在した。このリストは米国国務省など国内外から強い批判を浴び、2005年5月27日の首相通達(セクト的逸脱行為対策に関する通達)で「信頼性のないもの」として正式に廃止されている。
2015年6月、イタリア共和国は14年間におよぶ審査を経て、首相列席のもと国家とイタリアSGIとのあいだにインテーサ(宗教協約)を締結した。共和国憲法第8条に基づくもので、教育機関を設立する権利や、税制上の優遇などが保障される。
イタリアにおける宗教人口では、カソリック、イスラム、プロテスタントに次いで、創価学会が第4位。創価学会はヨーロッパ最大の仏教団体に発展している。
2023年11月には、ドイツSGIが4年半の審査を経て本部のあるヘッセン州政府から公法社団法人(宗教法人格に相当)に認可され「ドイツ創価学会」として新出発した。
仏教団体としてはドイツ初の認可で、これによって国家からの自立性、教団の永続性、学校での宗教教育や幼稚園の運営など多様な権利がドイツ全土で認められる。
いまだに創価学会について「海外ではカルト認定されている」などと真顔で語る人がいるが、これは本人の情報弱者ぶりを露呈するだけできわめて恥ずかしい話である。合理的な判断ができず、自分が見たい世界に合う言説だけをかたくなに信じて疑わない態度こそカルト的ではないのか。
世界に広がりゆく創価学会
池田会長の訃報を受け、国内の各メディアもさまざまに論評し、あるいは宗教学者や事情通を名乗るような人々もコメントを発した。
正直、筆者がその「池田大作」像に世界との断絶を感じたというのは、おしなべて池田会長を「カリスマ的指導者」と表現し、そのカリスマの逝去によって公明党の票がどうなるかという、いかにも視野の狭い議論ばかりに終始していたことである。
率直に言って「カリスマ」が巨大教団を率いていたという見立てそのものが、もはや昭和のニオイしかしない。
自身亡きあとの創価学会を世界宗教としていかに永続させていくか、誰よりも心を砕いていたのは池田会長である。そのために、会長就任50周年の節目となった2010年5月を最後に会長は会合など公の場への出席はせず、メッセージなどで見守ることに徹してきた。それでも同年11月には300番目の名誉学術称号授与となったマサチューセッツ大学ボストン校の首脳と会見しているし、近年までしばしば、来日した海外メンバー、創価大学生、関西創価小学校の修学旅行生などと会っている。
そしてその間、創価学会はむしろ世界各国で大きく伸長した。2013年には約175万人だった海外メンバーの陣容は、この10年で300万人に達している。
各国で一度も池田会長に会ったこともない人々が、書物などを通して会長と出会い、自身の「師」と定め、その理想を分かち持って他者に貢献する生き方を選択しているのだ。「地方から都会に出てきた孤独な人がカリスマを求めた」うんぬんというカビの生えたような訳知り顔の講釈では、もはや今日の創価学会を語れないのである。
ともあれ、いつの時代も宗教者の真価は、むしろ没後の門弟たちの行動によって定まってきた。生前の池田会長は、これまでの日本人のスケールでは測れない巨大な足跡を残したが、それらは「第一幕」に過ぎない。
ここから、言わば池田会長の「第二幕」が始まるのだと思う。奇しくも「四十九日」は、会長の次の誕生日の2024年1月2日である。
50年、100年、200年と経ていくなかで、「池田大作」の名がどのように人類史に刻まれていくのか。池田会長が種をまき、真剣勝負で育ててきた木々が、やがて世代を超えて豊かな森となり地球を覆っていくことを、筆者もまた信じてやまない。
※習主席からの弔電を受けて11月26日に本稿を加筆しました。
三代会長が開いた世界宗教への道(全5回):
第1回 日蓮仏法の精神を受け継ぐ
第2回 嵐のなかで世界への対話を開始
第3回 第1次宗門事件の謀略
第4回 法主が主導した第2次宗門事件
第5回 世界宗教へと飛翔する創価学会
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