「解散は消えたわけではない」
臨時国会の召集早々、立憲民主党にとって頭が痛いというか、迷惑千万な〝事件〟が起きた。ことの発端は衆参補選である。
10月22日投開票の衆参2つの補選では、いずれも日本維新の会が候補者の擁立を見送った。その結果、参議院徳島・高知選挙区では、立憲民主党が支援する無所属候補が自民党候補に大差で勝利。
一方、衆議院長崎4区では前回よりも得票差が開くかたちで、自民党の新人で公明党が推薦した候補が立憲民主党の前衆議院議員を破った。
2つの選挙区とも選挙戦中盤までは立憲民主党候補が優勢と報じられており、自公連携の軋みが影響しているのかとも見られていた。しかし、最終的に長崎4区は自民候補が自民党支持層の7割強、公明党支持層の8割強を固めて逆転勝利した。自民党所属の北村誠吾・元地方創生担当相の死去に伴う選挙だったという点もある。
一方、徳島・高知選挙区は、そもそも高知県を地盤とした自民党の前参議院議員が不祥事で辞職したことを受けての選挙。日本維新の会が候補者擁立を見送ったことで、こちらも期せずして「野党統一候補」となり、自民党への批判票が集まった。
岸田首相にとって、もし2つの選挙ともに敗れていたら、あるいは〝岸田おろし〟の政局含みになっていた可能性がある。「1勝1敗」にもちこめたことで、なにはともあれ胸をなでおろしたに違いない。
この結果がどう転がるかは不透明で、これで解散は当面できなくなったと見る向きもあれば、むしろ解散の可能性は消えていないとする見方もある。
公明党の山口那津男代表は23日、都内で講演した。22日投開票の衆参2つの補欠選挙の結果を巡り「『1勝1敗』で解散ができなくなったという根拠にはならないだろう。解散は消えたわけではない」と話した。「いつあってもおかしくないという心構えで準備したい」と強調した。(『日本経済新聞』10月23日)
「党首間で合意になった」と発表
さて、立憲民主党にとって複雑なのは、この補選が図らずも日本共産党を含む「野党統一候補」のかたちになってしまったことだ。
一夜明けた23日、臨時国会での論戦がいよいよ始まるということで、泉健太代表ら立憲民主党執行部は野党各党の控室に〝挨拶回り〟をした。それ自体が異例といえば異例だったが、このところ支持率で維新の後塵を拝することが続いていた泉執行部としては、野党第一党として野党間の連携を呼びかける姿をアピールしたかったのだろう。
臨時国会の召集を受けて立憲民主党の泉代表ら執行部は、ほかの野党各党にあいさつ回りを行い、国会対応での連携を呼びかけました。(「NHK NEWSWEB」10月23日)
NHKが報じているように、主旨はあくまで〝国会対応での連携〟を呼びかける各党への挨拶回りだった。
ところが、日本共産党の志位和夫委員長は泉氏の訪問後、すかさず会見を開き、次のように語ったのだ。
きょう、あの泉代表のほうから、そういう表明があったので、これは非常に大事な確認・合意になったと。連携して戦っていこうと。力を合わせてということも泉代表おっしゃっておられましたけれども、連携に力合わせてやっていきたいというお話があったので、ですからその連携に力を合わせてですね、総選挙を戦っていくということ、きょう党首間で合意になったということです。(「共産党チャンネル」10月23日)
さらに志位委員長はX(旧ツイッター)にも次のようにポストした。
立憲民主党・泉党首と会談、総選挙で「与党の議席を最少にするために連携を行う」ことで合意しました。
岸田政権の大軍拡への暴走、経済無策の体たらく。この現状を変えるには共闘が必要です。今日の合意を出発点に、市民と野党の共闘を再構築していくために力をつくします。(志位氏のポスト/10月23日19:38)
泉氏は慌てて打消しポスト
慌てたのは泉代表のほうだ。国会対応で連携していこうと野党各党に挨拶回りをしただけなのに、日本共産党と「党首会談」で「総選挙での共闘」に「合意」したと一方的なアナウンスをされてしまったのだ。
泉氏は志位氏のポストから30分も経たないうちに、わざわざNHKの記事を〝証文〟として引用するかたちで打消しのポストをした。
本日と明日で、野党各党各会派への「挨拶回り」。
各党との連携は大事です。補選結果を踏まえ、各党の皆様に、国会での政策連携、総選挙での「野党議席の最大化」への立憲民主党の決意を伝えました。
引き続き野党各党の力合わせに取り組みます。(泉氏のポスト/10月23日20:03)
日本共産党にすれば、このところ党勢は衰退の一途をたどり、党内のベテランらからは批判が相次ぎ、野党間でも孤立を深めていた。補選の1勝のあとに泉代表が執行部を引き連れて控室に訪ねてくるとなれば、「飛んで火に入る」なんとやらであっただろう。
志位氏は即座に、総選挙での連携に「合意した」という言葉を使って動画とSNSで発信した。
翌日の「しんぶん赤旗」も1面トップで「次の総選挙での連携確認 志位委員長と立民・泉代表が党首会談」と大々的に報じた。
ただし、よく見ると見出しは「連携」であって「合意」を使っていない。本文にもさすがに両者が合意したとは書かれておらず、あくまで志位委員長の認識として「きょう第一歩の合意ができた」と述べたとあるだけだ。
「1勝」で外堀を埋められた立憲
立憲は「あらゆる政党と協議する」(岡田克也幹事長)との方針で、あいさつ回りは連携に向けた「地ならし」(幹部)のつもりだったが、共産の志位和夫委員長は面会後、「立憲と次期衆院選での連携で合意した」と発表した。党勢が伸び悩む共産としては、立憲との「共闘」を反転攻勢のきっかけとしたいとの思いがある。(「朝日新聞デジタル」10月24日)
時事通信が速報で「立憲、共産両党首は次期衆院選の連携で合意した」と報道すると、SNS上には「立憲共産党」というワードが飛び交いトレンド入りした。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、泉氏から挨拶回りの要請があったが、この問題を受けて面会を拒否。24日の記者会見でも、立憲民主党が日本共産党と組むならばこれまでの同党との調整はご破算になると批判した。
立憲民主党の最大の支持母体である連合の芳野友子会長は、15日放送のBSテレ東番組で、立憲民主党の候補者が次期衆院選で共産党と協力した場合、連合としては推薦しないと明言したばかりだ。
老獪な志位氏は、これらの状況をすべて承知で、あえて「党首会談」という大仰な表現で、立憲民主党と日本共産党が次期衆院選での連携に〝合意した〟と間髪入れずに発表した。泉氏とすればニュアンスがまったく違うというところだろう。
前日の補選で「野党統一候補」のかたちになり1勝してしまったことで、徳島・高知選挙区では共産票がなくとも勝てた得票差だったにもかかわらず、志位氏に外堀を埋められてしまったのだ。
これで、泉氏をはじめ立憲民主党の執行部はどこで何を語っても、記者から「日本共産党との選挙協力は?」と質問されて消耗する日々が待ち受けることだろう。
党内では次の選挙での自身の当落や、ポスト泉の党内での立ち位置だけを視野に、共産党との共闘に前のめりな勢力が執行部批判を強める。ほかの主要野党や連合、中道的な支持者からは共産党との接近を批判される。
ライバルの日本維新の会が不祥事続きであるにもかかわらず、立憲民主党もまた日本共産党の抱きつき作戦に、再び前途多難である。
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