「負けに不思議の負けなし」
統一地方選挙・衆参補欠選挙が終わった。補欠選挙では自民党が擁立して公明党が推薦する候補が4勝1敗。ただ千葉5区と参院大分選挙区は僅差の接戦であり、維新が制した和歌山1区も含めて与党側に多くの課題が残った。
一方、立憲民主党は補選で完敗し、執行部の責任を問う声があがりそうだ。日本共産党は議席の4分の1を失った前半戦での大敗に続き、後半戦でも91議席を減らす〝ひとり負け〟となった。
公明党は後半の市議選で891人が当選し、市議の会派別議員数では引き続き最多となったが今回は2議席を落とした。また、東京の特別区議選でも8人がはじき出され完勝を逃した。
大勢が判明した24日の朝、ツイッターのタイムラインにこんな言葉が何度も流れてきた。
勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。
プロ野球の故・野村克也監督が好んだ剣術書『常静子剣談』の言葉である。たまたま運よく勝つということはあるが、負けるときには不運だけでなく、やはり負けるべき原因がある。その敗因を正しく見定められない者は、また「負け」を繰り返すとの戒めだ。
党内での合意形成すらままならない政党や、実績もないのに候補を乱立させる政党が負けるのは、やむを得まい。しかし「チーム3000」のネットワークを持ち、圧倒的な実績を誇る公明党で落選が出たことについては、よくよく考える必要がある。
「共感」するから「投票」する
昨年の参院選が終わったあと、僭越ながらこのコラムに次のように書かせていただいた。
時代は刻々と変化している。今やとくに若い世代ほど、そもそも他人から(それが近しい関係からであっても)依頼されて投票するということに、もはや概して抵抗感が強い。自分で見聞きして共感するから投票行動を起こす。共感しなければ投票所に行かない。
人々は自分のささやかな自発的意志が政治にコミットできている手応えを求めているのだ。(「立党精神」から60年――公明党の新たな出発を願う/2022年9月12日)
公明党はこのような理念と価値観を持って、このような社会をめざしている。この問題について、われわれはこう考えている。公明党の実績と政策は、あなたの望む社会の実現にこのように貢献できる。さらに課題を解決し、より良い社会に近づけるために、公明党はあなたの理解と力を必要としている――。こうした誠実で明確なメッセージを、すべての国民なかんずく無党派と呼ばれる層に力強く届けていってもらいたい。
支持をお願いする側とされる側ではなく、「一緒に社会を変えていこう」という対等な関係の共感。それを、これまで公明党を選択肢から外していた層のなかに拡大していって、はじめて公明党の獲得票は増えていく。(同)
投開票日翌日の4月24日に放送されたNHK「クローズアップ現代」は、支持基盤もない無名の若者や女性の候補者がSNSを駆使して共感層を広げ、地方議会に当選した複数の事例を紹介していた(NHKプラス「密着!議員をめざす女性や若者たち▽地方議会に変化と多様性を」)。
徳島文理大学の八幡和郎教授は、創価学会と公明党は「紙媒体の活字文化」には非常に強い組織だが、デジタル時代になった今「課題も多いのでは」と指摘している(『第三文明』2023年4月号)。
内輪でのコミュニケーションでSNSが頻繁に使われているものの、「外に向かっての発信がどこまで功を奏しているのか」と、八幡教授は危惧していた。
SNSは民主主義形成のツール
公明党が惜敗した選挙区はいずれも都市部であり、そこは住民の転出入が多い地域だ。
たとえば東京都練馬区では総人口73万8358人(2022年1月1日時点)に対し、2019年からの3年間の転入が6万8879人、転出が6万4114人だ。つまり、単純に見て前回の統一地方選からあとにいなくなった人と新しく入ってきた人の合計が総人口の2割前後を占める。
地価の高い都市部では集合住宅は大規模化する傾向にあり、オートロックで部外者の出入りが制限されている。住民はローンが組める比較的若い層が多く、共働きで昼間は地元にいない世帯や単身世帯の比率が高い。大半の住民は町会などにも属さない。つまり、旧来の地縁では接点さえ作れない住民が都市部では増え続けている。
こうした新しい都市住民には無党派層が多いとされるが、しかしそれは政治に全く関心がないということではない。もし投票行動を起こすとすれば、そのトリガー(引き金)になるのは「共感」である。
八幡教授が指摘したように、公明党の議員は概してデジタルの発信力が弱いように思う。今回の選挙で議席を逃した候補者に50代以上が目立つことも、この点と無関係とはいえないのではないか。
実際に見てみると、かろうじてホームページは作っているもののSNSアカウントさえない候補もいた。
誤解している人が多いが、政治家や候補者にとってのSNSは「宣伝」のツールではない。日頃、直接顔を合わせることや対話することのできない有権者に向かって、コミュニケーションを図っていく手段なのである。
政治にあまり関心がない層、自分の政党に関心がない層、自分に対して関心がない層に向かって、「共感」の扉をノックし、地域や社会の課題を共有し、解決への協力を呼び掛けていく有効なツールがSNSなのだ。
つまり、民主主義を一緒に形成していくための重要なツールなのである。
きょうからが次の選挙戦
そのためには日頃の発信こそが肝心だ。公明党でもSNSの発信に長けた議員は、やはり選挙に強い。彼ら彼女らは選挙期間以外も誠実に発信を続け、選挙区の情報を共有している。陳情や相談を受けた場合でも、何かを視察した場合でも、そこにどういう社会課題があるのかをきちんと記している。
自分が何に問題意識を持って、どのように解決しようとしているのか、その経過を有権者と共有する。そこではじめて、有権者もその議員を信頼でき、支援することで共に社会課題の解決に参画しようと思える。
日頃はホームページの更新もSNSの更新もほとんどせず、選挙が近づいて急に更新しはじめ、「〇〇で街頭演説をしました」「きょうも元気に頑張ります」「〇〇のラーメンを食べました」という投稿ばかりを並べていても、それでは新しい票にはつながるはずもない。
まして自分が訴えるべきことを自分の言葉で丁寧に伝えられず、選挙期間になってから「勝たせてください」「押し上げてください」と連呼しても、残念ながら「共感」などほとんど広がらないだろう。
デジタル選挙の時代になったということは、単に紙のチラシがLINEに置き換わったという話ではないのだ。
むしろ、これまでは接点さえ作れなかった有権者や、他党の支持者だった有権者に、議員(候補者)自身がダイレクトに接点を作れるのがデジタルの強みだ。だからこそ、有権者と一緒に民主主義を形成していこうとする議員(候補者)自身の日頃の姿勢が問われる。
今やSNSで有効な発信ができない議員は、その時点で議員としての資質を大きく欠く。自分から一番遠い人に向かって丁寧に言葉を届けようと労を惜しまない議員こそ、信頼と共感を得られるからだ。
選挙戦は終わったが、同時に4年後の選挙戦はすでに始まっている。惜敗した候補者はもちろん、今回は運よく勝てた議員も含めて、デジタル時代に求められる政治家の資質と行動についてしっかり考えてもらいたいと思う。
今や「令和」の世である。いつまでも「昭和」の戦法だけで勝てるはずがない。SNSを駆使して新たな共感層を獲得する候補者が、次の選挙ではさらに増えるだろう。
支持をお願いする側とされる側ではなく、「一緒に社会を変えていこう」という対等な関係の共感。それを、これまで公明党を選択肢から外していた層のなかに拡大していって、はじめて公明党の獲得票は増えていく。
2020年代の民主主義構築へ、抜本的に発想を改めてほしいのだ。
SNS(Twitterなど)を上手に活用している代表的な公明党議員
谷合正明参議院議員Twitter
いさ進一衆議院議員Twitter
辻よしたか大阪市議会議員Twitter
丸山たかのり東京・港区議会議員Twitter
★ほかにも多くおりますので、フォローをしてみてください。
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