こんな政党が政権にいなくて本当によかった。
同じ人間が22年以上ものあいだ、どれほど選挙に負けようと党勢が衰退しようと責任を取ることもなく代表の座に居座り続ける。さすがに党内から批判の声が出たら、批判した人間は次々に「除名」である。まるで旧ソ連か北朝鮮の粛清だ。
今年に入って、日本共産党の古参党員が相次いで党改革を訴える著書を出版した。
1人は松竹信幸氏。一橋大学に入学した翌年の1974年に日本共産党に入党。全学連の委員長をつとめ、卒業後は日本共産党の専従職員となった。国会議員秘書、党本部の政策委員会で安保外交部長などを歴任。2001年の第19回参議院選挙では同党の比例区候補(落選)にもなっている。現在は京都南地区に所属し「かもがわ出版」で編集主幹をつとめていた。
本年1月、松竹氏は『シン・日本共産党宣言 ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由』を出版した。
平和安全法制を〝戦争法〟と煽り立ててきた共産党は、この廃止を旗印に2015年末から旧民主党勢力などと「野党共闘」を主導してきた。しかし、調子づいて「政権入り」まで口にしはじめた途端、21年の衆議院選、22年の参議院選、いずれも敗北した。
党の基本政策では日米安保廃棄、自衛隊解消を掲げながら、ウクライナ侵攻がはじまった途端、「日本の主権が侵害されれば自衛隊を活用する」(志位委員長)などと言い出したのだ。
自分たちが「違憲」と認識しているものを「活用」するなど、立憲主義とは程遠いご都合主義でしかない。しかも、めざす先は社会主義・共産主義の国家。こんな政党が野党共闘を主導しても、有権者は安心して政権交代の選択肢にできないだろう。
しかし、志位委員長は党の方針は間違っていなかったとして党首の座に居座り続けている。
松竹氏は、こうした非現実的な安全保障政策の転換と、党首の公選制を著作で訴えた。すると2週間ほどで「除名」されてしまったのだ。
古参の重鎮も執行部批判
本を出したもう1人はジャーナリストの鈴木元氏。1962年に日本共産党に入党した党員歴60年を超す古参党員。立命館大学在学中は党の学内組織で委員長をつとめた。
卒業後は日本共産党の牙城ともいえる京都府委員会で常任委員などを歴任。学校法人立命館に転職し総長理事長室室長などをつとめた。
鈴木氏は松竹氏の著作が出た翌日、かもがわ出版から『志位和夫委員長への手紙 日本共産党の新生を願って』を出した。内容は、やはり党の改革を提言し、執行部の刷新を求めるものだ。
当初、松竹氏については即座に除名した共産党だったが、なぜか鈴木氏については黙殺していた。
理由のひとつは、鈴木氏が京都における共産党の重鎮だったことで、組織への波及を恐れたのだろう。
鈴木さんは1960年代、立命館大学在学中に8人しかいなかった党員を1千人以上に増やした大功労者。京都府委員会や地区委員会には鈴木さんが育てた専従スタッフがたくさんいます。(松竹伸幸氏『アエラ・ドット』3月23日)
ふたつめの理由は、最初の松竹氏の除名処分に対して、共産党に親和的だった識者などからも相次いで非難や疑問の声が上がったこと。ここまで批判されると党執行部は考えていなかったのだと思う。さらに朝日新聞、毎日新聞という日頃は政権に批判的な全国紙さえも「社説」で除名処分を批判した。
すると日本共産党側は、党のやり方に大手メディアが口を挟むのは憲法が定めた「結社の自由」への侵害だなどと猛反発。
3月6日付の『長崎新聞』が松竹氏のインタビューを掲載すると、9日なって共産党長崎県委員会が同新聞社に「抗議」した。翌日の『赤旗』はこの「抗議」を堂々と報じているから、地方組織の一存でやったことではあるまい。地方紙がインタビューを載せただけでも国政政党が抗議・恫喝するのは、それこそ憲法に定められた「表現の自由」「言論の自由」への封殺ではないのか。
さすがに批判が広がると、13日になって小池晃書記局長が「行き過ぎ」を認め「謝罪・撤回」を発表した。
異論や批判を許さない日本共産党の恐ろしさ。しかも言うに事欠いて、一連の出来事は〝大軍拡反対への連帯の分断〟だという奇妙な主張をしはじめている。
日本共産党の田村智子政策委員長は17日、国会内で記者会見し、元党員の除名処分について問われ、「日本共産党は大軍拡を止めようと多くの方々と連帯し、全党が一丸となっている。そういうときに、さまざまな分断が持ち込まれていることは残念だ」と述べました。(『しんぶん赤旗』3月18日)
党改革を願う古参党員からの相次ぐ声も、朝日新聞や毎日新聞からの批判も〝大軍拡を止めようとする政党〟への分断工作らしい。
機能しない「党内の民主主義」
3月5日に志位委員長が京都入りして集会を開き、この「大軍拡に立ち向かう党への攻撃」論を展開。すると10日後の15日に府委員会が鈴木氏の除名を決定し、16日に党中央委員会がこれを承認した。
しかも、鈴木氏の除名理由も松竹氏と同様、「分派活動」をおこなったというものだ。
日本共産党は党内の動揺や反発を鎮めようとパンフレットまで作成して躍起になっている。しかし、むしろ党内からはこれにも批判が相次いでいるようだ。
共産党が、党運営を批判したベテラン党員2人を立て続けに除名処分にし、世論の批判に反論するパンフレットを発行した。これに対し、党内からは「イメージダウンを招く」と、4月の統一地方選への悪影響を懸念する声が上がっている。(『毎日新聞』3月24日)
現代日本政治論が専門で『日本共産党』(中公新書)などの著作もある政治学者の中北浩爾・一橋大学大学院社会学研究科教授は、党改革を訴えたら除名というのでは「常軌を逸しています」と批判。
あれほど共謀罪法に対して濫用の危険性を訴えていたのに、党内では自ら濫用。立憲主義は党内には適用されないというのは、ダブルスタンダードではないでしょうか。(「Yahoo!ニュス」公式コメント/3月17日)
党指導部の暴走に対してブレーキがかからない。綱領や規約の解釈権を党指導部が独占し、それに基づき処分を行う。党内民主主義が十分に機能していないことを示しています。(同)
と書き、「もうため息しか出ません」と日本共産党の二枚舌と末期的症状を嘆いた。
新型コロナ対策でも物価高騰対策でも、それらの原資となる予算案にそもそも反対しながら、政府与党が対策を進めると「共産党の実績」と平気で宣伝する、相変わらずの謀略体質。
長年にわたって地元で党のために尽くしてきた人たちさえ、執行部を批判すれば「大軍拡を進める側」にされて「除名」である。
この革命政党の素顔に、そろそろ多くの人が気づきはじめていることだろう。
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