沖縄伝統空手のいま 特別番外編② 沖縄県空手道連盟 4年ぶりの演武大会を開催

ジャーナリスト
柳原滋雄

団体組手で優勝した劉衛流龍鳳会

 2019年初頭にコロナ禍に突入して丸4年。沖縄県空手道連盟(以下、沖空連)が毎年行っていた演武会がことし4年ぶりに開催された(3回は中止)。2017年に県の肝煎りでつくられた沖縄空手会館(豊見城市)を会場に、およそ1000人の空手家が出場した。
 沖縄の空手団体は大きく4つあり、3つは沖縄伝統空手(沖縄古来の型を重視する団体)の組織だが、沖空連は全日本空手道連盟(全空連)の沖縄県支部組織として日本本土やオリンピックと共通する競技ルールでの試合に参加する団体だ。地元空手家の長嶺将真を中心に1981年に設立され、42年の歴史をもつ。
 沖縄県ではコロナ禍の最中ではあったが昨年8月に「第2回沖縄空手世界大会」と「第1回沖縄空手少年少女世界大会」を開催。同年11月には県が制定した「10月25日 空手の日」にちなむ記念演武祭も開催された。こうした経緯の上で、先日3月5日、沖空連主催で第38回「沖縄県空手道古武道演武会」が開催された。

男女別に行われた団体組手

 午前中には、「団体組手」の競技(トーナメント方式)が男女別に行われ、10チームが参加、全9試合が行われた。
 空手の組手競技は、防具付きで行うものや極真空手などのフルコンタクトルール形式があるが、この日行われたのはオリンピックと同じ全空連ルールでの組手だ。
 男子団体で3試合を制して優勝したのは劉衛流龍鳳会。2020年の東京五輪・男子形部門で金メダルを取った喜友名諒選手が所属する団体である。すでに現役引退を表明している喜友名は後進の育成にも力を入れており、この日の団体組手でも監督としてスーツ姿でチームを率いた。
 特筆されることは、劉衛流龍鳳会の出場者の一員として、アジア空手道選手権大会の団体形(1チーム3人で行う)で6連覇を達成したチームの一員、上村拓也選手が1回戦の5人目に大将として出場したことだ。
「5、6年ぶりに組手試合に出場した」と語る上村は、いきなり左中段回し蹴りでポイントを取るなど会場を沸かせた。本人によると「劉衛流で組手部門を強化したいという意向があり自ら率先して範を示したい」との考えで出場したという。
 劉衛流龍鳳会は、沖空連理事の佐久本嗣男会長を中心に、上記のアジア大会6連覇の3人(喜友名諒・上村拓也・金城新)もそれぞれ県内に道場をもち、後進の育成に当たる。流派団体としての結束力が強く、多くの青少年を糾合していることで知られる。
 団体組手ではほかに「拳龍同志会」(沖縄市)がAとBの2チームを出場させ、Aチームが準優勝と健闘した。
 午後の「演武大会」では最初に開会式が開かれ、ことしは玉城デニー県知事と、会場となった空手会館の地元である豊見城市長が来賓として参加。自らも子どものころに空手に親しみ、知事になってからも上地流で黒帯を取得した玉城知事はあいさつの中で、「平和の武」としての空手を強調した。

流派別に15団体が集団演武

演武大会の冒頭の沖縄尚学高校生80人の団体演武

 この日は15団体による流派別の演武が行われた。
 最初に登場したのが沖空連の演武会で恒例となっている私立沖縄尚学高校(那覇市)だ。
 この学園は沖空連と組織的に協定を交わし、中学高校の一貫教育で空手授業を全生徒に義務づけていることで知られ、沖空連から空手講師を流派別(上地流、剛柔流、小林流、松林流)に派遣している。空手は沖縄固有の文化であり、世界に通用する国際人を育成するのに役立つとの故・名城政一郎元中学校長の発案によって2007年に始まった試みで、この日の団体演武では計80人の生徒が4流派別に型を演じ、大会に華を添えた。同校では6年間で多くの生徒が黒帯を取得する(高校段階からの入学者を除く)。
 演武大会でも目立ったのは6番目に演武した劉衛流龍鳳会。喜友名諒選手が指揮し、特別選抜された小学生たち29人が一糸乱れない基本と型などを披露した。
 いずれも未来のメダル候補ともいえる子どもたちで現在、県内の劉衛流会員は850人を超え、県内最大規模を誇る。

大会パンフレット

 ほかに沖縄県警察空手道クラブの上半身裸になっての上地流の三戦(サンチン)演武や、剛柔流の華麗なスーパーリンペイ演武なども行われた。
 掉尾を飾ったのは上地流空手道連盟。新城清秀副会長が自ら指揮をとった。
 団体組手や演武大会など全体を見るなかで個人的に印象に残ったのは上地流と劉衛流の活躍ぶりだ。
 沖空連は1981年に「空手の琉球処分」とも呼ばれる混乱のもとに結成された歴史をもち、当初は松林流の長嶺将真が会長を務めたが、その後は大きな会派である小林流と剛柔流がたすきがけで会長を輩出してきた経緯がある。現在は例外的に松林流の平良慶孝が務める。(文中一部敬称略)

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やなぎはら・しげお●1965年生まれ、佐賀県出身。早稲田大学卒業後、編集プロダクション勤務、政党機関紙記者などを経て、1997年からフリーのジャーナリスト。東京都在住。