被害防止・救済法案が成立――与野党合意に至った経緯

ライター
松田 明

被害者が「奇跡です」と感謝

 12月10日の参議院本会議で、「法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律」(以下、救済法)と「改正消費者契約法」「改正国民生活センター法」が、賛成多数で可決成立した。
 これは旧統一教会による一連の反社会的とも言える問題を受けたもの。
 救済法は、霊感などを語って不安を煽る悪質な寄付勧誘行為を禁じ、措置命令に従わなかった場合は罰金や懲役といった刑事罰を科す。借金や財産処分による寄付金調達の要求を禁止する。
 また改正消費者契約法は、霊感商法の取消権の対象範囲を拡大。現行では「契約者本人に不利益を生じる不安」が要件となっていたが、親族の生命や身体、財産などに不利益が生じる不安につけこんだ場合も、本人が取り消し権を使えるように改正した。
 取消権の行使期間も、「契約締結から5年」を「10年」に、「被害に気づいてから1年」を「3年」に延長。扶養されている子どもや配偶者も、寄付者に代わって生活費など将来受け取るべき分を返還請求できることを可能とした。
 配慮義務を守らない法人への勧告や団体名を公表できるよう、国民生活センター法の改正もおこなった。
 採決では自民党、公明党のほか、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党が賛成。日本共産党とれいわ新選組は反対した。
 与野党が合意して法律が成立したことについて、旧統一教会の元2世信者で、被害当事者の立場から声を上げてきた小川さゆり(仮名)さんはツイッターで、

本日、悪質献金規制(被害救済)法案が成立しました。
3ヶ月という短期間で、与野党共闘で作れたということは奇跡です。
与野党、政府、官僚の方々が諦めず取り組んでくれ、また被害者が最後まで声を上げ続け、国民の皆さんが応援し続けてくれたからこそ成立しました。
本当にありがとうございました。(12月10日のツイート

と述べた。

「救済の観点から一歩前進」

 与野党協議で難航した点のひとつが、「マインドコントロール下で進んで寄付した行為」の扱いだった。立憲民主党などは、政府案では〝マインドコントロール下で困惑せずに進んでおこなった献金が規制の対象にならない〟と主張した。
 同党などが独自に作った「悪質献金被害救済法案」では、いわゆるマインドコントロールや正体隠しによる献金等を特定財産損害誘導行為と定義し、これを禁止するとしていたのだ。マインドコントロールについては「人の自由な意思決定を著しく困難とするような状況」と説明していた。
 しかし11月4日の第5回与野党協議で与党は、野党側の法案は完成度が低く、かえって救済の実効性が下がることを指摘。54項目にわたって確認を求めた。
 たとえば、ある人が寄付をおこなった際にマインドコントロール状態にあったかどうかを、どのようにして家庭裁判所が判断できるのか。「人の自由な意思決定を著しく困難とするような状況」とは具体的にどのような状況を指すのかといった点だ。
 人が何らかの意思決定をした場合に、他人からどこまでコントロールされた結果であったかを第三者が判定することは、普通に考えて客観的・合理的な基準が設けにくい。
 また、被害者の家族が本人に代わって返金請求できるとする点も、日本国憲法が定めている「自己決定権」や「財産権」に抵触する恐れがあることを指摘。仮に本人の意に反してでも請求審判ができるのかと確認した。
 その後、与党側も野党側に最大限歩み寄るかたちで修正案を提示。閣議決定した法案の再修正に応じるのは異例のことだ。衆議院特別委員会での法案修正では、法人や団体が寄付を勧誘する際の配慮義務規定について、「十分に配慮」という強い表現になった。
 マインドコントロール状態を明確に定義できない以上は「禁止」にできないわけで、むしろ寄付を募る側に「十分な配慮義務」を課すことで、違反した場合に民事訴訟での損害賠償が認められやすくなり、幅広い事案がカバーできる。
 この配慮義務を怠った場合は勧告し、勧告に従わない悪質なケースは団体名を公表するという修正案も示した。民事での賠償命令が続くようなことになれば、団体の悪質性が浮き彫りになるだろう。
 さらに、本人に代わって子どもや配偶者が寄付金を取り戻しやすくする「債権者代位権の行使に関する特例」も修正案に盛り込まれた。
 消費者庁の「霊感商法等の悪質商法対策検討会」の座長代理をつとめ、衆参の特別委員会に参考人として出席した中央大学大学院法務研究科の宮下修一教授は、

 契約だけではなく単独行為も対象としたこと。寄付者への配慮義務の新設。禁止行為すなわち不当介入行為の明確化と取消権の新設。借り入れ等による資金調達の要求の禁止。債権者代位権の特例の新設。いずれも被害者救済の観点から一歩前進と評価すべきです。(「参議院・消費者問題に関する特別委員会」12月9日

と述べた。
 さらに配慮義務規定が「十分に配慮」と修正された点も「配慮義務の程度を一段と高めて厳格にしたもの」と評価。当初は施行後3年をめどとしていた見直し規定が2年に修正された点も「迅速な被害者救済に向けた対応を可能にする」ものだと評価した。
 かくして、法案は与野党の賛成多数で可決成立したのだった。

「創価学会に不適切なものはない」

 与野党協議のあいだ立憲民主党の一部の幹部などは、あたかも公明党が支持母体の創価学会に配慮して議論に後ろ向きであるかのような揶揄を繰り返した。
 全国霊感商法対策弁護士連絡会の紀藤正樹弁護士は、出演したBSフジLIVEプライムニュース(11月21日放送)で、

 われわれずっとこの霊感商法の問題やってるんですけど、創価学会の事件ってないんです。だから、この法律を作ったからといって創価学会がターゲットになるということはあり得ないんです。

と明確に述べた。与党側が慎重姿勢を見せたことと公明党の支持母体の利害とは、何の関係もないのだ。
 さらに司会者から、「マインドコントロール下の寄付行為」の全部を禁止しなかった背景に公明党の意向がはたらいていた事実はあるのかと問われた自民党法務部会長の宮崎政久衆議院議員は、

 今、紀藤さんご自身も要するに創価学会に不適切なものはないとおっしゃっておられてましたけれども、私自身もそういう意味で言うと、(公明党の法務部会長である)大口先生(大口善徳衆議院議員)が後ろ向きで止めるという感じはまったく持っていませんし、与党としてしっかり協議をしながらやっておりますから、そういう事情ではまったくない。当事者感覚としてもそれはまったくない。

と明言した。そして、

 この問題は法律の法文として定めていくにあたって、やっぱり「マインドコントロール」というものを定義するというのは多義性もあって難しい。やっぱり一番大切なことは、一定の悪質な、違法なと言ってもいいかもしれないですね、勧誘行為で自由な意思決定ができないような自由な判断ができなくなる結果、(寄付の)意思表示をしちゃったような場合に、これが取り消せるという仕組みを立てることが一番重要で、そのための文言づくりだ。(宮崎議員)

と述べている。

追い詰められたのは立憲民主党

 救済法をめぐって、政府・与党側が慎重に議論を進めたのは、まず日本国憲法が定めるさまざまな自由権を毀損しないことへの配慮だった。
 さらに、この法律が宗教団体だけに適用されるものではなく、学校法人やNPOなど幅広い団体への寄付行為にかかわってくることにも配慮した。それこそ、カルト被害者救済のための活動への寄付も対象になる。さまざまな慈善活動などに遺産をすべて寄付したいと考える人もいるだろう。逆により多くの遺産相続を求める親族が、寄付する者の意向を撤回させたいと思うこともあり得る。
 野党側が、「マインドコントロール状態」を法文化できると安易に考えたり、寄付の一律な上限設定を主張したりしたことは、未熟と憲法軽視のそしりを免れないものではないか。旧統一教会への〝規制強化〟を演出するために国民の全般的な権利や自由意志を軽視するというのでは、本末転倒になってしまう。
 当初、立憲民主党は政府が同意しない無理筋な姿勢を見せることで、与党が被害者救済に後ろ向きであるかのような印象を作り出そうとした。だが、協議最終盤の12月5日で形勢は逆転する。

 配慮義務抵触時の勧告・公表を盛った修正案を示されると、維新幹部は「うちは賛成できる」と言明した。
 追い詰められたのは立民だった。維新と賛否が割れれば、来年の通常国会でも共闘を維持することは危うい。国民民主党も賛成を決める中、共産党とともに反対すれば「また立憲共産党とやゆされかねない」(立民関係者)との懸念もあった。立民は被害者救済に後ろ向きと国民に受け止められることも恐れた。(「時事ドットコム」12月8日

 識者からは、これまで存在しなかった「寄付や献金に関する行政の規制」ができたことそのものに大きな意義があるといった声がある。
 一方で、この新法が効果を生むには、なにより法律が社会に周知され、消費者庁などがきちんと運用できるかどうかが重要になってくる。
 重要なことは被害者の救済なのだ。制度と実態の齟齬に目を配りながら、苦しんでいる人に寄り添う政治であったもらいたい。
 そのための施策を政争の具にしようと謀ったり、センセーショナルな報道合戦に消費させて終わったりすることのないよう、今後も注視していきたい。

「政治と宗教」関連記事:
宗教と政治をめぐるデマ――田中智学が唱えた「国立戒壇」論
「政治と宗教」危うい言説――立憲主義とは何か
旧統一教会問題を考える(上)――ミスリードしてはならない
旧統一教会問題を考える(下)――党利党略に利用する人々

シリーズ「21世紀が求める宗教とは」(全4回):
第1回 宗教は人間のためにある
第2回 中間団体としての信仰共同体
第3回 「教団」に属することの意味
第4回 人類を結び合う信仰

「政教分離」「政教一致」関連記事:
公明党と「政教分離」――〝憲法違反〟と考えている人へ
「政教分離」の正しい理解なくしては、人権社会の成熟もない(弁護士 竹内重年)
今こそ問われる 政教分離の本来のあり方(京都大学名誉教授 大石眞)
宗教への偏狭な制約は、憲法の趣旨に合致せず(政治評論家 森田実)

「カルト(セクト)」関連記事:
フランスのセクト対策とは(上)――創価学会をめぐる「報告書」
フランスのセクト対策とは(中)――首相通達で廃止されたリスト
フランスのセクト対策とは(下)――ヨーロッパでの創価学会の評価

仏『ル・モンド』の月刊誌がフランスの創価学会のルポを掲載――その意義と背景

「立憲民主党」関連記事:
枝野氏「減税は間違いだった」――迷走する野党第一党
憲法無視の立憲民主党――国会で「信仰の告白」を迫る
立憲民主党の不穏な空気――党内にくすぶる執行部批判
7連敗した「オール沖縄」――離反者が止まらない実態
玉城デニー県政の災禍――沖縄各界から糾弾の声
2連敗した立民と共産――参院選でも厳しい審判
まやかしの〝消費減税〟――無責任きわまる野党の公約
醜聞と不祥事が続く立憲民主党――共産との政権協力は白紙
立憲民主党はどこへゆく――左右に引き裂かれる党内
負の遺産に翻弄される立憲民主党――新執行部を悩ます内憂
ワクチン接種の足を引っ張る野党――立憲と共産の迷走


まつだ・あきら●ライター。都内の編集プロダクションに勤務。2015年から「WEB第三文明」にコラムを不定期に執筆している。著書に『日本の政治、次への課題』(第三文明社)。