参院選2022直前チェック⑤――多様性を認める社会を実現するために

ライター
松田 明

松野官房長官(中央右)に多様性が尊重される社会について提言を渡す竹内政調会長と谷あい正明氏

立憲民主党議員の時代錯誤な発言

 参院選公示を5日後に控えていた6月17日、その〝発言〟は山梨県議会で飛び出した。
 LGBTQ+(性的マイノリティー)など多様な人に対する理解を深め、共生する社会を目指すために設置された県議会の委員会で、立憲民主党の山田七穂議員が次のように語ったのだ。

「LGBTQについて、少数の方の主張を認めることは非常に大事だと思う」としたうえで「病気といったら悪いが、県の施策では理解をしよう、理解の促進をしようという施策が多いが、これに対して普通に戻していくという取り組みが、あまり見受けられないが元には戻らないのか」などと発言しました。(「NHK NEWS WEB」6月17日

 WHO(世界保健機関)が「同性愛」を「国際疾病分類」から削除したのは32年も前の1990年5月のこと。しかも、毎年6月は世界各国でLGBTQ+の権利を啓発するプライド月間として定着し、記念の行事などがおこなわれている。
 その渦中に、多様性を尊重するための議論の場で「病気と言ったら悪いが」「普通に戻していくという取り組みが、あまり見られない」「元に戻らないのか」といった常軌を逸した発言が飛び出したのだ。

政府見解と相いれない妄説

 6月13日には、都内で開かれた「神道政治連盟国会議員懇談会」で、ある冊子が参考資料として配布された。
 そこには大学教授の見解として、同性愛は「先天的なものではなく後天的な精神の障害、または依存症」「回復治療の効果が期待できる」などと記載されていた。
 これは、従来の政府見解や歴代首相の答弁とも相いれない異常な言説である。
 7月になってこのことが報道されると、当事者団体である「LGBT法連合会」が抗議声明を出した。

どのような言説であれ、性的指向や性自認による差別によって困難を抱える当事者を排除するものは容認できないが、今回の言説は、その中でも最も筆舌に尽くし難い、目を覆わんばかりの差別そのものであり、当事者に与える悪影響は計り知れない。(神道政治連盟国会議員懇談会による「冊子」配布に対する抗議声明

 この神道政治連盟国会議員懇談会には衆参あわせて263名の自民党議員(かつては民主党議員もいた)が名を連ねていることから、4日には自民党本部前で抗議デモがおこなわれた。

日本の順位は36カ国中25位

 OECD(経済協力開発機構)が2019年に出したレポート「図表で見る社会2019」は、冒頭に「性的少数者の包摂は、OECD諸国の政策の最優先事項となるべきである」と明記している。
 残念ながら、このレポートで示された日本のLGBTQ+に対する理解度は、加盟国36カ国中で25位だった。
 現在、G7(先進主要7カ国)で同性婚もしくはそれに相当するパートナーシップ制度が認められていないのは日本だけなのだ。アジアではすでに台湾が2019年に同性婚を法制化している。
 こうした事実は日本の人権意識の低さを示すだけでなく、国際競争力の面でも明らかに不利益を生み出している。OECDが「政策の最優先事項」と述べたように、各国政府やグローバル企業は優秀な人材を確保するためにダイバーシティ(多様性)の推進に努めているからだ。
 欧州などでは同性のパートナーがいる大統領や首相もいる。台湾でデジタル担当大臣に抜擢されコロナ対策で手腕を発揮したオードリー・タン氏はトランスジェンダーだ。
 一方、日本では愛する人と法的に配偶者になれないため、やむなく海外に移住する人が今や珍しくない。さらに海外で同性婚した場合も、同性婚が認められている国の外国人同士でない場合は、日本に戻ると配偶者としての法的権利を得られない。

与党内でも公明党はリベラル

 先述のLGBT法連合会は、「LGBT差別禁止法」の制定を求めて超党派への働きかけを続けてきた団体だ。超党派にこだわる理由は、政争の具にされ政権交代などで法制度が覆されることがあってはならないからだ。
 じつは、社会の変化を受けて自民党内にもリベラルな議員が増えつつある。昨年の通常国会では超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」において、初めて法案に関する与野党の合意がなされた。
 また、同じ与党でも公明党はきわめてリベラルな考え方だ。さる6月15日には公明党の「性的指向と性自認に関するプロジェクトチーム」(座長・谷あい正明参議院幹事長)と「同性婚検討ワーキングチーム」(座長・國重徹衆議院議員)が、「同性婚の実現に向けた多様性が尊重される社会に関する提言」を松野官房長官に提出している(「公明ニュース」6月17日)。
 例の神道政治連盟国会議員懇談会での冊子の一件が報道されると、超党派LGBT議連事務局長でもある谷あい正明議員は即座に自身のフェイスブックで、

公明党は先の国会で同性婚の実現に向けた提言を行った。
内容はそのまま公開している。
自民党議連で配布された資料の中身が問題視されている。
当然、私たちの考えとは違うし、これまでの政府や歴代総理答弁からしても受け入れられないものだ。
公明党は、性的少数者への理解が深まらず、権利が守られていない状態は単なる国内問題のみならず、国際社会における日本の問題につながると考えている。
だから、私は一貫して取り組んでいる。(7月3日のフェイスブック

と厳しく批判。公開されている提言の内容も添えた。
 選択的夫婦別姓についても公明党は以前から賛成の立場だ。
 選択的夫婦別姓や同性婚については世代間で価値観の差がかなり大きい。近年は若い世代に全体として与党支持が増えていることと、年々に新しい価値観の世代が有権者として増えていくことを考えれば、いずれ自民党内の力学も大きく変わらざるを得なくなる。
 だからこそ、こうしたリベラルな価値観を政局化してしまうのではなく、むしろ与党内に合意形成の流れを堅実かつ賢明に作り出していくことが重要なのだ。

【参議院選挙2022・政党】LGBT(SOGI)をめぐる課題に関する各党の政策と考え方についての調査結果報告(「LGBT法連合会」)

参院選2022直前チェック:
第1回 データで検証する各党の公約
第2回 物価高対策を検証する
第3回 コロナ対策、与野党の明暗
第4回 若者の声を聴いているのは誰か
第5回 多様性を認める社会を実現するために
第6回 現実的な公明党の安全保障政策

関連記事:
物価高から暮らしを守る――公明党の参院選マニフェスト
若者の声で政治を動かす――公明党のボイス・アクション
雇用調整助成金の延長が決定――暮らしを守る公明党の奮闘
G7サミット広島開催へ――公明党の緊急提言が実現
核兵器不使用へ公明党の本気――首相へ緊急提言を渡す
「非核三原則」と公明党――「核共有」議論をけん制
避難民支援リードする公明党――ネットワーク政党の本領発揮
高まる公明党の存在感――ウクライナ情勢で明らかに
公明党〝強さ〟の秘密――庶民の意思が議員を育てる
ワクチンの円滑な接種へ――公明党が果たしてきた役割