参院選2022直前チェック④——若者の声を聴いているのは誰か

ライター
松田 明

野党の手法は「ファシズムの土壌」

 先ごろ『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください 17歳からの民主主義とメディアの授業』(日本実業出版社)という本が出た。
 著者である東京工業大学の西田亮介准教授は、若者の投票率が低い背景を、若者にとってコストはかかるものの短期的なベネフィットが感じられないことだと指摘している(『第三文明』8月号)。
 政治に関心を持ち、各党各候補の政策や能力を吟味し、時間を割いて投票所に足を運ぶという「コスト」に対し、自分の1票が社会を変える実感という「ベネフィット」が見えづらいのだ。

投票に行かない若い人々への政党のアプローチについては、与党がコストをかけ続けているのに対し、野党はこれといった施策が見えてきません。利益団体政治を悪魔化して「市民のために」といった抽象的な言葉で有権者に呼び掛ける手法は、昔からファシズムの土壌だと言われており、私も危ういと思います。(『第三文明』8月号

 与党がコストをかけているとはどういうことか。
 西田氏は一例として、先の総裁選で自民党が支持者以外の若い世代にアプローチしようとしていたこと。公明党が18歳選挙権の実現した2016年以降、若者の声を拾う「ボイス・アクション」を一貫して継続していることを挙げている。

当初は各政党がさまざまな取り組みをしていましたが、一貫して若者へのこうしたアプローチを継続しているのは公明党だけです。公明党には、さらに幅広い現役世代の利益を政策に反映することを期待しています。(同)

若者政策が矢継ぎ早に実現

 自民党と公明党が民主党から政権を奪還して以降、若い世代の与党支持が増えた。
 政権交代した2012年に自民党に投票した20代は33%だったが、2017年には50%に達している(NHK「政治マガジン」2021年11月24日)。
 背景には、自公政権になって明らかに経済が上向き、就職率などが目に見える形で格段に改善されたことがある。
 西田准教授が評価した公明党の「ボイス・アクション」は、単なるアンケート調査ではない。具体的な若者の声を吸い上げたうえで政府にはたらきかけ、実際に政策として実現し続けているところに強みがある。
 携帯電話料金の引き下げ、不妊治療の保険適用、幼児教育の無償化などは、「ボイス・アクション」が既に日本政府の政策として実現した事例だ。
 また、日本若者協議会の室橋祐貴代表理事は、若い世代の意識が少しずつ変化していることを指摘する。
 学校教育でもSDGsや主権者教育が取り入れられていること。インターネットの普及で海外の若者たちの社会運動を共有していること。そして、実際に若い人の声が政策になることで成功体験を味わっていることだ。

特に第三の点については、「生理の貧困」への対応や「ブラック校則」の解消、学生への緊急給付金など、若者政策がこれほど矢継ぎ早に実現しているのは、戦後で初めてなのではないかと思います。もちろん、公明党のボイス・アクションがこの流れに一役買っているのは言うまでもありません。(『第三文明』8月号

 コロナ禍で非正規労働者の解雇や飲食店などの休業が相次ぎ、それはアルバイトで生計を立てる学生など若い世代に深刻なダメージを与えた。
 とりわけ若い女性たちのなかには必要な生理用品や鎮痛剤の購入さえ困難になる「生理の貧困」が起きていた。

(昨年の春)若者たちの間から支援を求める声が出たので、公明党の竹谷とし子参議院議員に相談したところ、すぐに動き出してくれた。同年三月のうちに公明党がいち早くこの問題を国会で取り上げ、当時の菅義偉首相に対策を提言。さらには党のネットワークを生かし、全国の地方議員と連携して自治体にも働きかけ、早いところでは四月から生理用品の無償提供が開始されたのです。あのときのスピードは見事でした。(室橋代表理事/同)

高齢者の利益を優先する政党

 一方、意外にも「リベラル」を自称する立憲民主党や日本共産党は、若者や現役世代の利益には無関心で、むしろ高齢者の取り込みに熱心だ。
 昨年の衆院選の出口調査では、自民党や公明党に投票した人の過半数が50代以下の現役世代だったのに対し、立憲民主党と日本共産党では60代以上が過半数を占めた。
 安保法制の是非などイデオロギー的なことに関心があるのは60代以上の世代に多く、だからこそ日本共産党は平和安全法制の廃止を「野党共闘」の接着剤に利用してきた。
 自民党と公明党は「全世代型の社会保障」の構築を進めている。自民党は参院選の公約でも低年金を防ぐために厚生年金の適用対象拡大などを検討課題に挙げ、公明党は基礎年金の再配分機能を強化し、制度を安定化させることを掲げている。
 高齢者の医療費が膨らみ続けるなかで、世代間の公平性を保ち、現役世代の負担を減らすため、政府は10月から75歳以上の医療費の窓口負担を、収入が一定以上の人を対象に現行の1割から2割に引き上げる。
 今の現役世代の過重な負担を少しでも減らすことが、その次の世代の教育への投資などにつながり、結果的に日本社会の持続可能性を高めるからだ。
 これに対し、立憲民主党と日本共産党、社民党は、75歳以上の医療負担2割の中止を公約に掲げている。
 立憲民主党は、低所得者向けの生活支援給付金を拡充し、年金に一定額を上乗せする制度を導入することを主張。日本共産党は、物価高騰時の年金支給額の削減中止を訴えて、全額国庫による最低保障年金制度を主張している。
 いずれも高齢者の歓心を買う甘い話だが、両党は社会保障費の財源である消費税の税率引き下げも主張しているのだ。
 将来を見据えて若者や現役世代に目を配る与党と、目先の選挙めあてで高齢者の利益を優先し、若い世代の負担減に関心のない野党。
 若者の声を聴き、それを現実に政策として実現し、持続可能な未来を築こうとしている政党や政治家は誰なのか。しっかり見定めて投票したい。

参院選2022直前チェック(全6回):
第1回 データで検証する各党の公約
第2回 物価高対策を検証する
第3回 コロナ対策、与野党の明暗
第4回 若者の声を聴いているのは誰か
第5回 多様性を認める社会を実現するために
第6回 現実的な公明党の安全保障政策

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