参院選2022直前チェック①――データで検証する各党の公約

ライター
松田 明

ポピュリズムの罠

 7月10日投票の参議院議員選挙は、すでに期日前投票がはじまっている。総務省の発表では、公示からの4日間に期日前投票を済ませた人の割合は、2016の参院選と比較して19.72%増えているという。
 一方で、どの政党の候補者に投票すべきか、なかなか判断に迷っている人もいるだろう。
 SNSなどでは、さまざまなイシューについての各党の賛否を単純に「○」「×」で示したものなどが流れてくる。一見「わかりやすく」見えるが、あまり単純化された情報は、やはり眉に唾をつけておいたほうがいい。
 たとえば「選択的夫婦別姓」や「同性婚」への賛否なら答えがシンプルなので「○」か「×」でもいいだろう。しかし、「消費税率引き下げ」「最低賃金1500円以上」などとなると、そもそも設問自体が不適切だと言わざるを得ない。
 誰だって税金は安い方がいいし、賃金は高い方がいいに決まっている。政策に責任を持たない野党であれば、耳触りのいいことを言うのも簡単だ。
 だが、減った税収をどう賄うのか、賃上げをどう実現させるのか。そこに実現可能で持続可能な裏付けが伴わなければ、単なる選挙めあてに過ぎなくなる。
 社会保障費の財源である消費税の廃止を主張しながら、同時に教育や社会保険、雇用に国費を湯水のようにバラまくことを主張しているような政党もあるが、無責任なポピュリズムの最たるものだろう。

マニフェストできばえチェック

 とはいえ、各政党会派の公約をすべて確認するというのも、なかなか大変だ。
 このほど早稲田大学マニフェスト研究所が、各党のマニフェストを比較検討し評価した結果を発表した(参院選2022マニフェスト比較 #くらべてえらぶ)。
 個別の政策ごと、あるいは政党ごとの比較もでき、それぞれの政党がどのような政策をどういう優先順位で掲げているかなども比較できる。
 興味深いのは、主要政党の「マニフェストできばえチェック」という一覧表を作成し、厳正に採点していることだ。採点にあたっては、

早稲田大学マニフェスト研究所が大切と考えるマニフェストの「理念・ビジョン」、「政策の体系性・一貫性・独自性」、「政策の具体性」、「政策の実現可能性」、「市民起点」の視点に沿って、形式要件を採点したものです。「政策の中身の是非・賛否」および「政党の支持・不支持」を示すものではありません。

としている。
 早稲田大学マニフェスト研究所による各党マニフェストの「できばえ」点数は以下のとおり。

公明党      48  ポイント
国民民主党    46.8ポイント
立憲民主党    45.2ポイント
自由民主党    44.2ポイント
日本共産党    43.2ポイント
社会民主党    28  ポイント
れいわ新選組   24.6ポイント
日本維新の会   18.6ポイント
NHK党     15.6ポイント
「2022参院選 マニフェスト(政権公約)のできばえチェック表」

 選挙のたびにコロコロ変わる政策や、一貫性や実現性のない主張では信頼できない。常に有権者の小さな声を拾い続ける与党の公明党が1位で、ポピュリズムの色が濃い政党が下位に並んでいるのも、なるほどという感がある。

何ひとつ実現できていない政党

 参議院議員の任期は6年。衆議院のように解散がないので、当選した議員は6年間、腰を据えた政策立案ができる。
 では、ここで6年前の2016年の参院選の各党の公約を振り返ってみよう。やはり早稲田大学マニフェスト研究所が一覧をWEB上にアーカイブしてくれている(2016参院選 政党公約 政策比較)。
 まず注目したいのは野党だ。当時の野党第一党だった民進党は「国民との約束 人からはじまる経済再生。」と題したマニフェストを発表した。
 あれこれ掲げているが、民進党という政党そのものが、翌2017年の衆院選直前にまさかの分裂をしたあげく消滅してしまった。ある意味、これほどの公約違反はないのではないか。
 2016年マニフェストでは「安保法制の白紙撤回を求める」としている。しかし、支持率が伸び悩んでいるなかで総選挙が近づき、小池東京都知事が「現実的な安全保障政策」を踏み絵に「きぼうの党」を立ち上げると、なんと民進党は両院議員総会の満場一致で「希望の党」への合流を決めてしまった。
 その「希望の党」が頓挫して、今また立憲民主党として集まっているのだ。
 マニフェストの達成度で見ると、日本共産党も惨憺たるものだ。何ひとつ実現できていないと言ってよい。「野党だから仕方がない」というのは詭弁だろう。それで通るなら、今夏の参院選の公約も、はじめから何も期待できないものになる。
 ひたすら政権の逆張りで非現実的な美辞麗句を並べるのは、コアな支持者だけが喜ぶイデオロギーではあっても、大多数の国民に対して不誠実な話だ。

公約実現度でも公明党がトップ

 では、与党である自民党と公明党は、過去の公約をどの程度実現してきたのか。
 ひとつの参考になるのが、若者が中心となって政治的中立公平な立場から活動するNPO法人ミエルカが発表したデータだ。
 ここでは昨年の衆院選に際して、前回2017年の衆院選で与党が掲げた公約が、4年間でどれだけ達成・進捗できたかをオープンデータをもとに検証している(JAPAN CHOICE アーカイブ「公約実現度」)。
 全体の公約実現度は意外にも高い。
 自民党は「達成」が126項目、「実施中」が115、「未達成」が38。
 公明党は「達成」が150項目、「実施中」が86、「未達成」が39。
 自公連立政権が一貫して支持されている背景には、選挙で掲げた政策の多くを実現し続けていることがある。
 認定NPO法人フローレンス代表理事で、病児保育やひとり親世帯の支援などに尽力してきた政策起業家の駒崎弘樹氏は、次のように期待を語っている。

物価高は貧困層ほど家計への影響が大きく、状況が良くなるめどは立っていません。こうした中、公明党の推進で物価高対策として学校給食費や公共料金などの負担軽減策が新たに手当てされ、ありがたく思っています。
また、政府の総合緊急対策で、困窮する家庭の子どもたちに食事を届ける民間団体に対する国の支援事業の拡充が盛り込まれ、食品だけではなく、学用品や生活必需品を提供できるようになったことも評価したい。(「公明ニュース」6月25日

 どの政党が評価に値する政策を掲げ、どの政党にそれを実現する能力があるのか。できもしない公約を並べている政党、何の実績もない政党はどこなのか。
 よく吟味して、次の6年間を託す人々を参議院に送りたい。

参院選2022直前チェック(全6回):
第1回 データで検証する各党の公約
第2回 物価高対策を検証する
第3回 コロナ対策、与野党の明暗
第4回 若者の声を聴いているのは誰か
第5回 多様性を認める社会を実現するために
第6回 現実的な公明党の安全保障政策

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