IAEAがまとめた報告書
4月29日、IAEA(国際原子力機関)は、東京電力福島第一原子力発電所が2023年に海洋放出を計画している「ALPS処理水」について、調査チームによる第1回の報告書をまとめた。
福島第一原発では、原子炉内に事故で溶けて固まった燃料デブリが残っており、水をかけて冷却が続けられている。
燃料デブリに触れた水は高濃度の放射性物質を含んだ「汚染水」になる。
そこで、多核種除去設備「ALPS(アルプス)」など、いくつかの除去設備を使用して浄化処理をおこなって、セシウム、ストロンチウムをはじめ大部分の放射性物質を取り除いている。
こうしてできたものを「ALPS処理水」と呼ぶが、トリチウムだけは取り除けない。
じつは、トリチウムは水素の仲間(同位体)であり、雨水や河川の水など自然界にも存在するものだ。
自然界では、年間あたり約7京ベクレルのトリチウムが生成されており、自然界に存在するトリチウムの量は、約100~130京ベクレルと推計されている。
トリチウムが出す放射線は非常に弱く、衣服や皮膚を通過しないので外部被曝は起きない。また、仮にトリチウム水を飲んでも臓器に蓄積されることなく水と同じように体外に放出される。世界保健機関(WHO)の「飲料水水質ガイドライン第4版」でも、内部被曝は10000ベクレルあたり0.00019ミリシーベルトとされている。
だから世界各国の原発等では、トリチウムは国ごとの法令基準に従って大気中や河川、海洋に放出されている。
たとえば韓国の月城原発では年間に液体として31兆ベクレル、気体として110兆ベクレル(いずれも2019年)。中国の泰山第三原発では年間に液体として124兆ベクレル、気体として114兆ベクレル(2019年)。フランスのラ・アーグ再処理施設では年間に液体が11400兆ベクレル、気体が60兆ベクレル(2018年)放出されてきた(「世界の主要な原発におけるトリチウムの年間処分量」)。
国際基準に照らして問題ない
福島第一原発では、ALPS処理水を貯めたタンクが既に1000基を超えており、廃炉作業を進めるうえで敷地が足りなくなっている。また、廃炉の完了時にはこれらタンクもなくなっていなければならない。
前述のようにトリチウムを含んだ水の放出は、今も世界中でおこなわれている。福島第一原発で計画されている海洋放出は、年間22兆ベクレルの規模。トリチウム濃度は1リットルあたり1500ベクレル未満で、WHOが定める飲料水の基準の7分の1程度なのだ。
ただ、地元の漁業関係者などからは、実際の健康被害ではなく〝風評被害〟を懸念した反対の声が強い。
本年2月14日~18日、IAEAの原子力安全・核セキュリティ局のグスタボ・カルーソ調整官ら6人の職員の他、アルゼンチン、フランス、米国、ロシア、英国、ベトナム、福島での海洋放出に反対している韓国や中国の計8人の専門家が来日して、福島第一原発のALPS処理水の調査が実施された。
このほどまとめられたのは、その最初の報告書(経済産業省「ニュースリリース」)である。
福島第一原子力発電所にたまり続ける処理水を海に流す東京電力の計画についてIAEA=国際原子力機関は、ことし2月に実施した現地調査の結果を公表し、国際的な安全確保の基準に照らし問題はないとする見解を示しました。(「NHK NWESWEB」4月29日)
報告書は処理水が放出された場合、放射線が人体に与える影響について、東京電力の分析に沿って「日本の規制当局が定める水準より大幅に小さい」という見方を示しました。
IAEAのグロッシー事務局長は「放出の準備に著しい進捗があった」と評価しています。(「ANNニュースチャンネル」4月29日)
そのうえで、IAEAは今年後半に再調査し、安全性については海洋放出前に発表するとしている。
わざわざ「汚染水」と呼び替える政党
福島県出身・在住のジャーナリスト林智裕氏の近著『「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か』(徳間書店)は、〝事実に基づかない「不安と怒り」〟で社会を扇動し、情報災害を引き起こしてきた「風評加害者」たちの実態をファクトベースで追及した力作だ。
執筆に際して林氏が心がけたことは、あくまでファクトによって検証することで、特定の勢力を叩いたり擁護したりするイデオロギーの書にしないことだった。
そのうえでなお、ファクトを積み上げて検証していった先に、悪質な「風評加害者」として、リベラルを自称するマスメディアや一部政党が繰り返し現れてくる実態には慄然とさせられる。
このほどIAEAと国際調査団が合同で検証した結果でも、福島第一原発に貯蔵されているALPS処理水は「国際的な安全確保の基準に照らし問題はない」「日本の規制当局が定める水準より大幅に小さい」ものだ。
ところが、「原発汚染水の海洋放出反対!」というポスターを福島県内の道路沿いなどに貼り出している政党がある。日本共産党だ。
海洋放出が計画されているのは、「汚染水」から放射性物質を何重にも除去した「ALPS処理水」であり、そのことは共産党も理解している。理解したうえで、それでもあえて「汚染水」と呼ぶ。
同党のホームページによると、どうやら理由は「トリチウム(3重水素)」が除去できていないかららしい。
しかし、トリチウムが放射能汚染や健康被害に結びつかないことは前述のとおりで、日本共産党はそのこともじつはちゃんと理解している。だから、「汚染水」と煽り立てながら「放射能汚染が起きる」「健康被害が起こる」とは絶対に言わない。
海洋放出されても汚染も健康被害も生まれない「ALPS処理水」を、それでもなお執拗に「汚染水」と意図的に呼び変え、人々の不安を煽り続けるのだ。
奇妙なことに彼らは、莫大な量のトリチウムを放出している各国のことは非難しない。
「プロパガンダとしての風評加害」という政治性を帯びた手法は、政治の舞台でも利用されている。共産党や立憲民主党、社民党、れいわ新選組などの関係者には過去に、率先して「原発事故後6年3カ月たっても福島県沿岸では漁業ができず、子どもは土遊びができず」「食べて応援は自殺行為」「てめえら豚はプルトニウム米でも喰ってな!」「震災がれき焼却で健康被害が出た」などといった心無い言説を使って「風評加害」に加担したケースがある。
たとえば、共産党は今も、党を挙げて「汚染水」呼ばわりを続けている。(林智裕『「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か』)
福島に対する風評は、政権攻撃の材料にするために拡大・温存されてきた。「風評加害」の中心の一角を担うのが「反権力」を是としてリベラルを自称する人達とその支持者達ばかりであったことも、彼らが「科学的根拠に基づいた正しい情報」を頑なに受け容れずに背を向けている理由も、いずれも平仄が合う話だ。(同書)
弱者に寄り添うふりをしながら、党利党略のためなら平気で「処理水」を「汚染水」と呼び替えて不安と怒り、風評被害を煽り立てる日本共産党。
戦争を煽り、武器を売ることで儲けようとする「死の商人」になぞらえて、林氏はこうした「正しさ」「不安」「怒り」を押し売りして社会に情報災害を蔓延させる勢力を「正しさの商人」と命名した。
トリチウム処理水でも、コロナ禍でも、HPVワクチンでも、「流言蜚語」を撒き散らして得をしようとしているのは誰なのか。「風評加害者」として被災地の人々を苦しめ続けている「正しさの商人」を放置してはならない。
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