日本国憲法に反対した唯一の政党
日本共産党・志位和夫委員長の、自衛隊をめぐるご都合主義的な発言が波紋を呼んでいる。
志位氏は、4月7日におこなわれた同党の「参議院選挙勝利・全国総決起集会」で、きたる参院選の争点の一つだとして外交・安全保障に触れた。
いま、ロシアのウクライナ侵略に乗じて「戦争する国」づくりの大合唱が起こっています。日本共産党は、この逆流に正面からたちはだかり、「危機に乗じた9条改憲を許さず、9条を生かした外交で東アジアを平和な地域に」と訴えぬいてたたかいます。(『しんぶん赤旗』4月8日)
いつものように、まるで日本共産党が〝護憲の党〟であり、憲法9条を死守する党であるかのような話しぶり。
しかし、大日本帝国憲法を日本国憲法へ改正する国会審議で、政党として唯一、日本国憲法に反対したのが日本共産党なのだ。
戦争の放棄を定めた日本国憲法第2章(第9条)についても、1946年8月24日の帝国議会衆議院本会議で演説に立った日本共産党の野坂参三は、
一個の空文に過ぎない(「帝国議会会議録」)
と罵倒したうえで、
当憲法第二章は、我が国の自衛権を放棄して民族の独立を危くする危険がある、それ故に我が党は民族独立の為にこの憲法に反対しなければならない(同)
と述べている。
我々は当憲法が可決された後に於ても、将来当憲法の修正に付て努力するの権利を保留して、私の反対演説を終る次第であります。(同)
日本共産党は、この日本国憲法が可決されたとしても将来、憲法改正に努力すると叫んで反対討論を終えた。これが議事録に残された歴史の事実である。
野坂は1958年から1982年まで日本共産党議長を務めた。その後、ソ連崩壊によって流出した秘密文書で野坂がソ連のスパイだったことが判明したとして、日本共産党は2002年になって当時100歳の野坂を除名した。
ちょうど100年前の1922年、「共産主義インターナショナル」の日本支部として誕生した日本共産党は、戦後の冷戦時代も〝ソ連のスパイ〟を24年間も議長に据えていたことになる。
「自衛隊の解消」をめざす政党
日本共産党は「綱領」のなかで、
いま、アメリカ帝国主義は、世界の平和と安全、諸国民の主権と独立にとって最大の脅威となっている。
と米国を世界平和と安全にとっての「最大の脅威」と敵視し、「対米従属」の打破、日米安保条約の破棄を掲げている。
「綱領」は自衛隊についても、
安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法第九条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる。
と「自衛隊の解消」を明記している。
2016年には当時の日本共産党政策委員長がNHKの番組で防衛予算を「人を殺すための予算」と発言。世論の猛烈な反発を招いて政策委員長を辞任した。この議員は昨年の衆院選に比例区で出馬したが落選した。
先述したように日本共産党は「綱領」で「自衛隊の解消」を「憲法第九条の完全実施」と位置づけている。つまり、自衛隊の存在は日本国憲法9条の実施を不完全にする〝違憲〟だと見なしているのだ。
では、日米安保も廃棄し、自衛隊も解消して、日本の防衛をどうするのか。
志位委員長は4月7日の会合で、あいかわらず「憲法9条を生かした平和外交」という抽象的な話をし、
「あらゆる紛争を戦争にせず、話し合いで解決する」
憲法9条を生かした積極的・能動的な外交を積み重ねてこそ、平和をつくりだすことができる
などと述べた。
そもそも憲法制定時にこれに反対し、とくに9条について猛反対した過去など、まるでなかったことのようだ。
「北朝鮮にリアルの危険はない」
日米安保条約を廃棄し、日本が中立国になったならば、どの国からも攻撃・侵略されないというのが日本共産党の認識らしい。
1997年の第21回党大会決議では、
独立・中立を宣言し、諸外国とほんとうの友好関係をむすび、国民的団結によって主権を確保している日本には、どの国からであれ侵略の口実とされる問題はない。わが国が恒常的戦力によらないで安全保障をはかることが可能な時代に、私たちは生きているのである。
としている。
北朝鮮がミサイル発射実験を繰り返していた2015年11月時点でも、志位委員長はテレビ東京の番組で、
北朝鮮、中国にリアルの危険があるのではなく、実際の危険は中東・アフリカにまで自衛隊が出て行き一緒に戦争をやることだ。
と発言していた。北朝鮮の脅威から目をそらさせ、平和安全法制によって自衛隊が中東・アフリカで米軍と一緒に「殺し・殺される」戦争をするというのが、当時の日本共産党の主張だった。
この2カ月後に北朝鮮は水爆実験を実施している。そして、平和安全法制の成立から7年になるが、自衛隊はただの一度も米軍の戦争になど加わっていない。悪質なプロパガンダである。
急迫不正には自衛隊を使う
日本共産党の外交・安全保障論は、そもそも一貫性がない。
憲法制定時には「自衛権を放棄」するものだとして9条に反対して改憲を主張し、その後いつのまにかしれっと「護憲」「9条を守れ」に変わる。
自衛隊を違憲だとして解消せよと言いつつ、1994年の第20回党大会決議では、
急迫不正の主権侵害にたいしては、警察力や自主的自警組織など憲法9条と矛盾しない自衛措置をとることが基本である。
としている。「自主的自衛組織」とはどういう組織なのか、なぜそれは9条と矛盾しないのかは明らかにされていない。しかし、警察力とは別に何らかの急ごしらえの「自衛組織」で「自衛措置」をとるつもりらしい。
さらに「話し合いで解決する」と言いつつ、今回のロシアによるウクライナ侵攻のように、そんな安全保障論がそもそも空理空論であることは承知しているようで、4月7日の総決起集会で志位委員長は、
万が一、急迫不正の主権侵害が起こった場合には、自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守りぬくというのが、日本共産党の立場であります。
と発言した。
自衛隊を解消すべき「違憲」の存在と綱領に掲げ、防衛費を「人を殺すための予算」と呼び、日米安保や平和安全法制を廃止して「話し合い」で日本の平和は守れると言いながら、日本の主権が侵害される事態になれば自衛隊を防衛に使うという。
約15万人の自衛隊員と、その家族をなんだと思っているのか。ご都合主義という批判が浴びせられたのも当然だろう。
ロシア革命を受けて、共産主義革命を世界各国でも起こそうと企んだ共産主義インターナショナル(コミンテルン)日本支部として、100年前に誕生した日本共産党。
今も日本国憲法とは相容れない「社会主義・共産主義の社会」の実現を綱領に掲げ、政権交代を訴える〝革命政党〟のプロパガンダに、警戒を怠ってはならない。
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