気候変動へ日中の連帯を
今回の提言で、池田大作SGI(創価学会インタナショナル)会長は、未来世代のため早期に解決すべき課題について3つの提案をおこなっている。
第1の課題は気候変動問題の解決。
昨年のCOP26(国連気候変動枠組条約の第26回締約国会議)では、外交的には対立が深刻化している米国と中国が、2030年に向けた相互の協力を約束した。
SGI会長は、日本がこれにならって中国と同様の合意を図ることを提案している。
本年は1972年の日中国交正常化から50年の節目。じつは日中間では環境問題ですでに長年協力を重ねてきた実績がある。
その端緒は両国を行き来する渡り鳥とその生息環境を守る協定(1981年)で、その後、日中環境保護協力協定(1994年)が結ばれ、96年には日中友好環境保全センターが北京に開設された。
このセンターを拠点にこれまで両国は米国、ロシア、EUとプロジェクトを推進し、100カ国以上の途上国へ人材育成などを実施してきた。
気候変動に関して同様の協力関係が日中間でつくられれば、これまでの実績を基盤としてアジアと協力を深め、世界への希望となるだろうと会長は述べている。
同時に、国家間の協力だけでなく、「国連と市民社会との連帯」の強化が必要だ。
具体的には、気候や生態系をはじめとする「グローバル・コモンズ(世界規模で人類が共有するもの)」を総合的に守るための討議の場を国連に設けて、青年たちを中心に市民社会が運営にかかわる態勢を整えることを呼びかけたい。
本年3月にはUNEP(国連環境計画)創設50周年を記念した国連環境総会の特別会合がケニアの首都ナイロビで予定されている。
この会合で「グローバル・コモンズ」に基づいて環境問題編取り組みを強化する宣言を採択し、この問題を集中的に討議する場を国連に設けるべきだと語る。
会長は昨年の提言で、青年の視点による提案を国連首脳に届ける「国連ユース理事会」の創設を訴えた。この創設にあたっては、すべての国に参加の道を開くことと、オンライン会合と並行して、対面での全体会合を開く際は国連本部にこだわらず「危機の現場に近い場所」での開催を提案している。
「子どもたちのための行動計画」
第2の課題は子どもたちの教育機会の確保とその拡充。
コロナ禍では学校の閉鎖や授業の中断で、多くの子どもたちが学びを制限され、あわせて貧困地域や家庭の子どもは日々の栄養補給の生命線である給食を奪われた。オンライン形式の授業ではデジタル環境の格差が問題になっている。
約100年前、東京の貧困地域に開設された小学校長として赴任した牧口常三郎・初代会長は、戸田城聖・第2代会長とともに、最も厳しい環境で生きる子どもたちの食事や生活環境にまで心を砕き「教育の光」を届けることに奮闘した。
SGI会長は創価教育の源流ともいえるこの歴史に言及して、創価教育での奨学金制度や、創価大学や創価学会がUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などと協力して実施している難民への教育支援活動を紹介している。
創価学会が教育団体から出発し、今も教育に力を注ぎ続けるのは、すべての子どもたちの胸中には自分を幸福にしていく力が本来そなわっているという人間観があるからだ。
あわせて会長が今回の提言で訴えているのは、障がいのある子どもや若者の学ぶ権利を保障する「インクルーシブ教育」の促進。
インクルーシブ教育とは、「障がいを持った子どもとそれ以外の子どもを分けて教育する」という従来の考え方を覆した教育で、2006年に国連で採択された障害者権利条約で示された。ユニセフの昨年の報告では、若い世代の10人に1人が何らかの障がいを抱えている。
会長はインクルーシブ教育とは、単に障がいを持った子どもの入学を許可し、設備をバリアフリー化すれば済むことではなく、社会が障がい者に向ける根本的な誤解と偏見――障がい者が志や夢を持っているはずがないという思い込み――を是正するところから始まることを当事者の声を引きながら訴える。
そして、本年9月に開催される国連「教育変革サミット」で、今回の提言で論じた「連帯意識」「世界市民教育」に焦点を当てた「子どもたちの幸福と教育のための行動計画」を採択することを提唱している。
核兵器禁止条約の普遍化を
第3の課題は核兵器の廃絶。会長が訴え続けてきた重要課題だ。
会長は中満泉・国連軍縮担当上級代表が核兵器に関してのスピーチ(21年9月)で語った、
新型コロナのパンデミックの教訓として、一見、起こりそうにない出来事が、実際に前触れもなく起こり、地球規模で壊滅的な影響を及ぼしうるということがあります。
を紹介。完全にコンピューター制御に依存する現在の核兵器制御・管理では、核兵器数が多いほど偶発核戦争の可能性も大きくなると指摘したゴルバチョフ氏の憂慮に言及した。
しかも、今般のコロナ禍では核保有国の首脳の感染、原子力空母や誘導ミサイル駆逐艦でのクラスターも発生した。
会長は1985年にゴルバチョフ書記長(当時)とレーガン大統領が出した米ソ首脳共同宣言の「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」に触れ、自国の安全保障のために人類を破滅させる核兵器に依存するという矛盾からの脱却を訴えた。
具体的にはNPT(核拡散防止条約)第6条に組み込まれた「核軍縮義務」履行へ核保有5カ国が具体的措置を促進する決議を国連安保理で採択することを主張。
さらに明年に日本で開催されるG7サミットに合わせて、「核兵器の役割低減に関する首脳級会合」の広島開催を提案した。
また、3月に開かれる核兵器禁止条約の第1回締約国会合に日本がオブザーバー参加すること、条約のための常設事務局を設置して条約の理念と義務を普遍化させるための〝各国と市民社会との連合体の中軸〟とすべきことを呼びかけた。
戸田第2代会長の核廃絶宣言には「一人一人の生きている意味と尊厳の重みを社会の営みごと奪い去るという、非人道性の極みに対する戸田会長の憤り」があったと述懐。この40年間の記念提言で核問題を一貫して取り上げ、核兵器禁止条約の実現を後押ししてきた自身の心情を、
核問題という〝現代文明の一凶〟を解決することなくして、人類の宿命転換は果たせないと確信してきたからでした。
と語った。
核兵器禁止条約が発効し、第1回締約国会合が開催される今こそ、いよいよ核兵器廃絶へ向けての正念場であるとし、その挑戦を完結させることが未来への責任を果たす道であると述べて提言を締めくくっている。
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